第36話、決戦
テスト中の席順の関係で俺は後ろから布施川頼人の様子をテスト中でも見る事が出来た。
奴は絶好調だった。
問題用紙が配られてチャイムが鳴ったその後から、奴が走らせるシャーペンは決して止まらない。次々と問題を解いていくのが後ろ姿から見て取れた。
そして決して油断する事はなかった。凡ミスがないよう徹底的に問題と解答を見直しているようだった。
流石は主人公か。ここぞという時の集中力は常人のそれじゃない。俺という理不尽な存在を倒す為に間違いなく奴は覚醒している。
だが俺だって負けられない。負けるわけにはいかない。
今まで積み上げてきた知識を武器に、俺は一つ一つに問題を丁寧に解いていく。
テストの準備期間中から徹底的に復習した事もあって、俺が前世で得た知識は全て戻ってきていた。
それをテストの範囲だけに集中させて、より鋭く研ぎ澄ませた。解けない問題はない、必ず正解を導き出せる。
ひたすら目の前の問題に集中し解き続け、ミスがないよう問題と答えをチェックする。俺も驚異的な集中力を発揮していた。
その集中力を後押しするのは仲間達の応援だ。
頭の中に浮かび上がる玲央と西川の姿、そして真白の眩い笑顔が俺に力を与えてくれる。
俺は満ち溢れる希望を胸に抱き、望む未来を夢見て、次々と問題を解いていく。
そしてチャイムが鳴り響いた――。
最初のテストが終わり、一気に生徒達の緊張の糸が緩む。
皆がテストを終えて安堵の声を上げる中、俺はただじっと次のテストが来るまで待機していた。
そして聞こえてくるその会話に耳を澄ます。
「どうでしたか、頼人くん。今のテストは?」
「ばっちりだったよ。テストの問題、優奈の出題予想とドンピシャだった。自分でも面白いくらい解けてさ」
「良かったです、この調子で次のテストも頑張ってくださいね」
「もちろんだ。次は数学だけど全問正解を目指す。優奈、夏恋、応援頼むぞ」
「うん! 頑張れ頼人! あんたなら100点取れるから!」
「私達がついています。安心してください頼人くん」
「ああ、ありがとう」
布施川頼人は自信満々といった様子だった。
そして奴は俺に鋭い視線を浴びせる。
『これで分かっただろ? お前は主人公に相応しくないって』
『俺には最高のヒロイン達がついてる。主人公もどきの悪役はすっこんでろ』
そんな声が聞こえるような気がした。
俺には分かっている。
このテスト、布施川頼人には『主人公補正』が効いている事を。
さっき奴は言っていた『優奈の出題予想とドンピシャだった』と。
初めからこの戦いは主人公である布施川頼人を勝たせる為に仕組まれている。いくら花崎優奈が学年1位の秀才だったとしても、どの問題がテストで出るかを全て当てる事なんて出来るわけがない。
だがそれを可能にするのが主人公補正だ。
主人公補正とは物語の進行の為に、主人公にとって都合の良すぎる展開が起きる事を指す。主人公は絶対に負けない、主人公を絶対勝たせる為に運命が必ず味方してくれる。
ヒロインである花崎優奈は主人公を支える為に、無意識の内にテストに出題される問題を理解して、それを出題予想という形で布施川頼人に教え込んだ。それは世界が主人公を勝たせる為にテストの内容を予め教えているようなもの。
全ては世界が原作通りの結末を迎える為。恋する乙女は布施川くんに恋してる、その主人公である布施川頼人が悪役である俺を叩き潰す為の布石だった。
そして俺に直接干渉してこない理由にも気付いていた。全力を出し切った俺を倒す事で、お前は所詮悪役なのだと俺の心を完膚なきまでに叩き潰そうと目論んでいるからだろう。原作通りの結末から逃れられはしないと俺の心を折ろうとしている。
この圧倒的優位な状況で主人公が負けるはずがない。
布施川頼人もそう思っている。ヒロイン達も信じている。そしてこの世界の神様ですらそれを疑っていない。
でもな、俺は知っているんだ。
この世界の神様は完璧な存在じゃない事を、俺は真白を通じてそれを知る事が出来た。
主人公と真白の邂逅に失敗した事がそれを証明している。
だから絶対はあり得ない。
俺が主人公である布施川頼人に勝てる可能性はゼロじゃないのだ。
(悪いけどな……布施川頼人、俺だって負けるつもりは一切ないんだ)
俺にも意地がある。負けられない理由がある。
例えどんなに絶望的な戦いであっても、絶対に諦めたりなんかしない。
真白、玲央、西川。
待っててくれよ、俺は必ず勝ってみせるから。
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