第6話 推し

「あれ、これ、推しになりそうか?」


颯斗ハヤトは思う。職場内外での交流の中で美里ミサトとたくさん話をした。


最初の態度とは違いフレンドリーで価値観がよく似ている。仕事に関しても今は同じタイミングで患者の状態が把握でき阿吽の呼吸で次の行動がとれる。


それどころか目で会話できるレベルにまで達している。職場の同僚で遊びに行くときは病院の駐車場に集合し運転できる同僚の車に分散するのだが、目を合わせれば俺の車に乗るし、遊び疲れた帰りには鍵を渡せば黙って運転してくれる。


なんて居心地いいんだ。これは推しか?


颯斗ハヤトは少し確信を持ちながら話しかける。打ち解けた彼女は天真爛漫に屈託なく好きなアーティストの話をしている。なんだか不快だ。


「あんな人がかっこいいの?」


うわっ、これはもはや嫉妬。いや自尊心の問題か。俺の方がかっこいいと言いたくなる。


にしても運転はあまり上手くない。ちょっと仰反ノケゾる。お願いだから車に傷はつけないでくれ。そう思いながら、朝の集合場所に帰っていく。


運転はさておき、病棟では「推し」かもしれんな。

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