第2話 真夜中の黒い影
私は高校三年生になりました。
いわゆる受験生ってやつです。
夏休みでした。
夜です。
私はその時、自室のベッドに寝転がって、司馬遼太郎の『龍馬が行く』を読んでいました。
いや、面白いこと、面白いこと。
面白いので、いつしか私は時を忘れ、気がついたら深夜の二時でした。
当時、自室にはクーラーも無く、ドアは開け放し、窓は網戸で開け放しという、かなりオープンな環境でした。
その時ふと、私は気がつきました。
自室のドアの横に黒い人影が立っているのを。
私はてっきり別室にいる弟が寝ぼけてやってきたのだと思いました。
私は声をかけようとしました。
しかし。
私が声をかけるよりも早く、私の部屋にその黒い人影はふらふらと入ってきたのです。
その時、私は気がつきました。
電灯の点いた明るい部屋に入ってきたのに、その影は黒っぽいままであることを。
そしてその影は。
ベッドで寝転がっていた私に上から覆い被さるように……。
え、え~っ?
私は思わず目を閉じました。
数秒間は目を閉じていたでしょうか。
意を決して、はっと目を開けると、誰もいません。
時計の針はもう三時を指していました。
翌朝、念のため弟に訊いてみました。
「昨晩、寝ぼけてオレの部屋に来なかったか?」
と。
弟は、
「心当たりは無い」
と。
私はいったい何を見たのでしょうか?
それとも、寝ぼけていたのは私なのでしょうか?
これは私にとってあまりに衝撃的なできごとだったので、四十年前のことでもよく覚えています。
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