年越し編 前編
2016年 大晦日
前日に大掃除も終え、実家に帰って亮と一緒におせちの準備に取りかかる隼瀬。
「お義父さん、レンコダイの南蛮の味こぎゃんもんで大丈夫かね」
「ん、ちょっと見てみろか・・・うん、よかよか。てか隼瀬ちゃん僕より料理上手かけん何も言うこつなかばい」
婿と夫の様子を見ていた春美も亮に追随する。
「そうたい、冬未もがっしり隼瀬ちゃんに胃袋つかまれとっとだけん」
「お義母さん、それお義父さんの前で言うとでけんよ」
「ははは、よかよ隼瀬ちゃん、本当のこっだけん。てか春美さん、暇なら隼瀬ちゃんの実家ん方にこれ持ってってやって」
「えー、可愛か婿の割烹着姿眺むっとに忙しかつばい」
「つまり暇っちゅうこっだろたい。はよ行け」
「は、はい」
亮が鬼になる前にそそくさと隼瀬の作ったレンコダイの南蛮漬けを入れたタッパを向かいの家へ持っていく春美。
「はは、お義母さんもお義父さんにゃかなわんね」
「若っか時から家ん事なんかしてもろたこつにゃあし、冬未なちゃんと反面教師にしてしよるごたばってん」
「うん、ばってんこら今だけん言えるばってん、同棲始めた時なんか冬未も酷かったけん。自分もするて最初に言いよったてから」
「あー、隼瀬ちゃん気ぃつこてから僕とかに言えんだったっだろ」
「そう、学校とかバイトから帰ってきて脱いだ制服ばたーだ投げやったりして、毎日怒りよったもん」
「春美さんの若っか時と一緒だん、やっぱ親子ね。隼瀬ちゃんもよう愛想つかさんでおってくれたね」
「正直嫌んなる時はあったばってん、なんかこの人には僕がおらんとち思てね」
「・・・・・・」
自身が若い頃、春美と結婚した頃に思っていたのと同じ台詞を婿から聞き、驚きのあまり思わず黙り込む亮。
「お義父さん?」
「んね、なんか隼瀬ちゃんが春美さんと結婚した頃の僕に見えて」
「え?」
「実はこれ隼瀬ちゃんには初めて言うばってんね・・・・・・」
それから亮は春美との出会い、付き合うきっかけ、結婚に至った経緯を話す。それはとても冬未と隼瀬の境遇と似通った、否、全く一緒であり、今度は隼瀬が驚嘆する。それが巡り巡って、だとしたら陽葵と陽斗も偶然じゃなく・・・・・・と彼の思考回路はショート寸前となる。
「・・・・・・なんか鳥肌立ったわ」
「ね。僕も隼瀬ちゃんが冬未に逆プロポーズしてくれたて聞いた時な同じごつ鳥肌立ったもん。あん時と一緒だ、って」
「だろね・・・今の話聞いたらよう分かるわ」
その後も色々話しながらも調理を進めていく亮と隼瀬。
「隼瀬ちゃん、煮染めなもうできとっとよね?」
「うん、火止めてから味ばしゅませよる(染み込ませてる)とこ。ほんで黒豆とか田作りとか小鉢んもんももうできとっけん明日出しやすかごつまとめとってくれる?」
「はいよ、ちっと味見しながらしよ」
「うん、僕もちょこちょこ食べよるしよかよ」
亮も隼瀬も作りながらちょこちょこ食べるのは毎年の事である。そして、朝からぶっ通しで作業してここまでで既に時計の針は16時を回り、お重に詰める分は全て終わり、後は揚げ物が終わったらお重に詰めていくだけとなったが、ここからがまた時間がかかるのだ。それにこの日はだいたい楽なものにするとはいえ、夕飯の食器などの用意もあるので余計である。これは決して筆者の愚痴などではない。
「いつもなら隼瀬ちゃんな部屋戻ってゆっくりしとけち言うばってん流石に今日はきつか」
「そらそうたい、ほしてこぎゃん時に限ってなんか・・・・・・」
「隼瀬、芳美がちっと怪我したばってん絆創膏どこ?」
「「やっぱり・・・」」
なんでこういう時に限って何か起きるんだと呆れ笑いして目を見合わせる舅と婿である。
「僕のリュックの横んとこに入っとっけん、ほんでなんね、ちっと擦りむいただけ?切った?」
「んね、擦っただけだけん大丈夫。ごめん忙しいとに」
本当に冬未に子供達任せて大丈夫だろうかと思いながらも、亮と2人で作業を進めていく隼瀬。
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