良夫賢父
2016年 12月
師も走ると書いて師走。皆、何かと忙しいこの時期は冬未の帰りも遅くなったりするのだが、隼瀬は3人の娘達の世話をしながら、自分もどれだけ疲れていようと、いつも何時になろうと主人の帰りを待っていた。
「パパ、寝とってもよかっじゃないと?ママも帰ってきたら自分でご飯とかするどだい」
「ばってんパパが待っときたいけん」
「そっか、ばってんパパも疲れとっとだけん休む時は休まんとしゃが」
「うん、ありがとう陽葵、大丈夫よ」
「そう?じゃあおやすみ」
「おやすみね」
新婚の頃から自分で決めて続けている事とはいえ、さすがに今日は・・・という日もあり、そんな所も陽葵には分かっていたんだなと、長女の成長ぶりに感嘆する隼瀬。そしてこの日も遅くに冬未の車の音が聞こえて、身なりと化粧を整えて玄関で出迎える。
「おかえりなさい、冬未」
「ただいま、今日も待っとってくれたつか」
いつもありがとうと、優しく隼瀬を抱きしめる冬未。
「どうする?お風呂にする?ご飯にする?」
「隼瀬で」
そう言って、隼瀬の顎をクイッと持ち上げ口付ける冬未。
「こぎゃん玄関でもう・・・・・・」
「はは、まあ明日な休みだけんな。先に風呂にすっか、隼瀬も璃華入れて、陽葵が芳美入れて、どうせ自分なまだ入っとらんとだろ?」
「え、におう?」
「ばか、そぎゃんデリカシーにゃあ女じゃなかぞあんたの妻は」
「んふふ、そぎゃんだったね」
というわけで久しぶりに2人きりでお風呂に入る夫婦。かつては一緒に入る事も多かったが、慣れてお互い家族として見るようになってしまうのが嫌だと言う事で、結婚して陽葵が産まれた頃くらいからだんだんと別々で入るようになっていた。それもまた未だにこの夫婦が超超超円満であり続けている秘訣なのかもしれない。知らんけど。
「お背中流しますよ、あなた」
「今日なそぎゃんキャラで来るんか」
「えへへ、子供ん頃ようやったよね、こぎゃん設定決めたおままごと」
「隼瀬が演技で本気で泣いてお姉ちゃんのあたふたしたりしよったね」
「懐かしかね、いやーにしてん冬未、結構体こわっとん(筋肉が固まってる)ね、ほんといつもお疲れ様」
「んねんね、今の若いうちしかがまだされんけんな。家族に苦労かけんために私が苦労せんとしゃが」
「僕な冬未に苦労かけらるんなら、陽葵と芳美と璃華ん為にする苦労ならそら苦労とは思わんよ、だけん冬未もそこそこでよかつよ」
「そこそこか、はは、隼瀬にそぎゃん言うてもらうとちっと楽になんね」
「結婚する時も言うたろ、僕はどぎゃんこつのあったっちゃ冬未に絶対ついてくて」
「・・・私からしたら、私の方が隼瀬についてっとっとばい。あのプロポーズしてくれた日からずっと・・・・・・」
「冬未はいつもそぎゃん言うてくるんね」
「本当のこっだけん。ほら、こんだ私が背中流すばい」
「あら、仕事頑張って疲れとっとにごめんね」
「何言いよっとや、外で仕事しとるだけの私よりずっと家であん子達の面倒見て家事も全部やっていつも家ん中綺麗にしよる隼瀬のがよっぽど疲れとっどが」
「冬未・・・・・・昔からそぎゃんとこほんと好き、さすが僕の選んだ人ね」
「自画自賛?」
「えへへ」
イチャイチャしながら長いお風呂タイムを終え、今日は冬未もお酒はいらないと言うので、風呂上がりの牛乳を同じ格好で飲む双子のような夫婦である。
「「ぷはぁ!」」
「冬未、おひげついとる」
「隼瀬もたい」
「「あははは」」
互いの顔を見て笑い合う夫婦はその後、遅めの夕食をゆっくり食べる。
「隼瀬、子供達と食べとらんだったつや」
「食べたばってん、どうせこの時間お腹空くし冬未が帰ってきて1人食べさすっともでけんどち思て」
「ほんと、隼瀬が隼瀬でよかったな」
「んふふ、なんねそれ。てかそうや、冬未、陽葵と芳美にサンタさんに何頼むか明日聞いてくれんね」
「なんや、まだ聞いとらんかったつや」
「うん、僕が聞くよりママが聞いた方があん子達も気ぃ遣わんと思うし、陽葵は特にね」
「あー確かに、ならそれとなく聞いとこだい、ほんでから、隼瀬はなんか欲しいもんにゃあと?」
「うーん、なんかあるかな・・・・・・」
最近はずっと子供達優先で自分の欲しいものなど気にしていなかった隼瀬は返答に困ってしまい、去年と同じ事を冬未に告げる。
「じゃあ、僕のは冬未におまかせで」
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