37話「謎のお守り」
海中をどうやって移動しようかと思考を巡らせている時だった。
〈スキルを習得しました――マジックエリア〉
これを使えば水中で息が出来る……か。よし。
「二人とも! 何とかなりそうだ」
俺はステータスを閉じようとする。しかし同時に"ギフトボックス"が目に入る。箱のような形のアイコンが点滅していた。
「本当ですか」
俺はルルの声を無視するように動きを止めると、ギフトボックスにゆっくりと指を重ねる。
そして中を開くと、一つのアイテムが目に飛び込んできた。
謎のお守り――差出人不明
お守り……? 一つだけアイテムが届いた事に疑問を覚えながらも、謎のお守りを受け取る。
〈謎のお守りを異空間ボックスに移動しました〉
異空間ボックスから"謎のお守り"の詳細を確認してみる。
謎のお守り――謎に包まれたお守り。温かみと優しさを感じる。
……何の説明にもなってねぇよ!!
俺はため息を吐くと、異空間ボックスを閉じようとして、ある事に気がつく。
「んー、どっかで見た事あるような……」
俺の記憶の中にあるお守り。
それは俺が中学ん時に母親が渡してきたお守りだった。それが一瞬でフラッシュバックする。
もちろんその時の俺は受け取らなかった。母親からのプレゼントなんてダサいって思っていたからだ。
――は? こんなモンいらねぇよ。
なんであんな事言ったんだろうな。母親の悲しそうに涙を浮かべるあの顔を思い出す。
このお守りもしかして……。いや、でもそうなると支援者って奴が母親って事になる。それだけはない……だろうな。
俺は思考を振り払うように、首を左右にぶるんと振る。
そして違うと分かっているけど、母親の温もりを感じたその"謎のお守り"を、再び異空間ボックスから取り出した。そして、腰から下げている剣の鞘にキーホルダーのように括りつけた。
――よし。
その瞬間、暖かい光に包まれたような気がした。
あの時は反抗期というか俺にも事情があったというか……。だから受け取らなかったけど、いなくなってようやく気付くモンもある。
こっちの世界で既に十六年過ごしているが、今でも鮮明に覚えている。母親の顔は……。
満足した俺は微笑み、鞘に付けたお守りを優しく握る。そして我に返ったように前を向くと、ルルが顔を覗き込んでいる事に気が付いた。
「リョウ、どうしたですか? 一人で面白い顔してるです」
「あーいや、なんでもない。それで水中の事なんだけど――」
俺は話を誤魔化すようにルルの顔を見下ろす。
「何か案が見つかったですか?」
「あぁ、水中を移動出来る術があるんだ」
説明するより実際にやった方が早い。そう思った俺は、目の前に広がる海に近付いた。そして少しずつ海の中に入っていく。
「リョウ、死ぬ気ですか」
その声に振り返る。
「二人とも近くに来て」
俺のその言葉に、半信半疑で二人は近寄る。
そして俺は二人が両脇に来たのを確認すると、集中し周りに魔素空間を作り出す。その空間は、俺たち三人を包み込む。まるで大きなシャボン玉のようだった。外側を優しくつついてみるが、跳ね返すような弾力性、割れる気配がしなかった。
「よし、これなら行ける!」
「これ、不思議です」
俺はそのまま魔素を操るように、空間ごと移動する。まるで重力を無視して水中を自由に移動出来ているようだった。
「で、バルディア族の集落ってどこなんだ?」
「ずーっと下だよ。深い深い水の中」
俺たちは水深へ移動する。
囲われる空間の外には、魚が泳いでいる。たまにシャボン玉に突っ込む魚がいるが、突き返すように魚を弾き飛ばす。
初めての経験に戸惑いながら、ひたすら深部へと落ちるように下がっていく。
「もう少しで朽ちた船が見えてくるよ」
思った以上に、この魔素空間を移動させるスピードが早いのだろうか。気が付くと、周りを優雅に泳いでいた魚たちの姿も少なくなり、見渡す限り青い。どうやらかなり深い所に来たようだ。
俺はふと目線を下に移し見下ろす。すると、所々穴だらけの壊れた船の残骸を見つける。
残骸に近付くにつれ、その姿が明らかになってくる。
海の底に沈む沈没船。海藻が絡みつき、地面の砂には船体が突き刺さっている。
ゆっくりと近付く。
「朽ちた船……あったです」
「あれだよ。あの中から入るんだ」
「え、あそこに集落があるのか?」
どうも集落があるように思えなかった俺は、不思議に思いながらもその"朽ちた船"に入る。
「こっちだよ」
コルックは駆け足でマジックエリアから飛び抜けるように朽ちた船に入る。
「あ、待て!」
そうか、コルックはバルディア族だから海の中は平気なんだっけ。
それを思い出した俺は冷静になる。
そしてコルックに続くように、船の地下深くへと"移動"した。
本当に朽ちた船だ。中に入ると、まるでゲームに出てくる沈没船のようだ。朽ちてボロボロになった木片がそこら中に散らばり、樽や木箱が散乱していた。
壊れている木箱の中を覗いたが中には何もなく、所謂お宝的な物は何もない。
俺は少しだけ残念そうに、船体の下へと移動する。そこには鉄の大きな蓋があり、コルックはそれを簡単に持ち上げると中へ入って行った。
俺とルルは顔を見合わせ不安を共有する。そして恐る恐るコルックに続き、その鉄の蓋の中へ入っていく。
すると俺たちは驚愕する。
そこはなんと、家やテントなどが並び人が住んでいる様子さえあった。まるで海底の集落という感じだ。
しかも、一番驚いたのが……。海底のはずなのにここには水一つない。
鉄の蓋を潜った瞬間、そこがまるで別空間かのように空気が変わった。
「ここがミィたちの集落だよ」
コルックは、久しぶりの故郷に舞い上がったのか、集落の奥にある一際大きな建物の方へ駆け足で走って行った。
コルックに続き俺たちも急ぐ。俺たちの姿が珍しいのか、時折視線を感じる。
その視線を掻い潜りながら、ようやく大きな建物に着くと扉を開く。
「コルック!? なぜここにいる!? それにその者たちは――」
あの時に見たバルディア族の長……ディアングが俺たちを出迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます