35話「ようやく脱出!」

「くそっ……行くぞ」


 俺は頭の上でピョンピョン跳ねているスライムを、異空間ボックスに乱暴に放り込む。


「ふきゅっ!?」


 そしてルルの体を左脇に抱え、コルックの体を右脇に抱えて魔ブーストで一気に駆け抜けた。


 ここに来た時のあの地下道はもう使えない。怪物はいるし、巨大スライムだってまだいるかもしれない。そもそも梯子を溶かされた時点でその選択肢はない。


「おー! 早いです」


 今ならマジックハイドで透明になっていて、城の中を通ってもバレないはずだ。

 俺は棒立ちする衛兵を掻い潜るように、スピードに乗って一気に城の外に出た。


「はぁッ!! やっと、出れた」

「疲れたです」


 ここは……城の正面ではないな。どうやら裏口から出たようだ。

 マジックハイドを切り姿を現し、抱えていた二人を一度地面に下ろし、両手をぶらぶらと振りリラックスする。


「とりあえず……ここから離れよう」


 衛兵が追って来ないとも限らない。

 俺は、もう一度ルルとコルックを両脇に抱えると魔ブーストで城から離れる。


 しばらく走った所で――


「リョウ、えっち」

「……はぁ!?」


 風を切りながら優雅に飛んでいると、唐突にルルがそんな事をいう。


「ルルのおっぱい触ってるです」

「……ッ!?」


 俺は急ブレーキをかけるように慌てて止まる。そしてルルを落とすように手を離した。


「痛いです」

「ご、ごめん。そんなつもりは――」

「ルルがペッタンコだからってダメです」

「いやだから……」


 俺が弁解しようと冷や汗を垂らしながらルルと話していると、横からコルックが口を挟む。


「あの!!」

「ん?」


 俺はコルックを地面に下ろし注目する。


「助けてくれてありがとう!」

「あ……うん」


 我に返ったように返事をする。


「ミィはコルック!」

「リョウだ。こっちは――」

「ルルはルルです。生まれた時からずっとルルです」

「リョウさんとルルさん! それで……何で助けてくれたの?」


 まだ幼いのだろうか。そんな雰囲気が声色に残っていた。

 俺は国のやり方が気に入らない! と、言いたい所だが、実際はそれ以上に目的があった。それを正直に話す。


「これなんだけどさ……バルディア族なら直せるかもって聞いたんだ」


 ミナの壊れて動かなくなったフェイスを見せる。

 するとコルックはあからさまに眉をひそめ悲しそうな顔で言う。


「そうだよね……理由がないとミィなんて……」

「あ、いや! あの髭面のやり方が気に入らなかったというか、見ていられなかったのもあるんだけどな」


 俺は焦ったように弁解する。

 すると、コルックはわかりやすく表情が緩み、明るく言った。


「そうなんだ。多分直せるかも――」

「――本当か!?」


 食いつくように口を挟む。


「うん。ミィは無理だけど、ミィの父ならできると思う!」

「そうか、なら案内してもらえるか?」


 コルックの顔色を伺うように尋ねる。


「うん、いいよ! 助けてもらったお礼をしなくちゃね。ミィから父に言ってみるよ」

「助かる。で、お父さんにはどこに行けば会えるんだ?」

「ミィの集落はね、隠れてるんだ……」


 そう言うとコルックは立ち止まり、こちらを向き直して続ける。


「でも……リョウさんたち……人間だよね?」

「ん? あぁ、うん」


 当たり前の事を聞かれ、一瞬たじろぐがすぐに頷く。


「人間は集落に入れない……かも」

「何でだ? そういう決まりでも――」

「ううん! 集落は海の中に隠されてるんだ」


 ――は!?

 思考が停止する。

 そしてしばらく後、ルルが口を開いた。


「ルルは泳げないです。水着もないから無理です」


 いや、そういう問題じゃないだろ。

 でも泳げないんじゃ、そもそも海に入る事すら厳しいよな。俺も泳ぎはあんまり得意じゃないし、ルルを担いで泳ぐなんて無謀すぎる!

 そもそも息が続くかどうか。


「やっぱり無理だよね。バルディア族は水の中でも生きていけるんだ。呼吸だって普通にできるしね」


 詰んだ。

 さすがに海の中は無理ゲーだろ。

 頭の中が混乱している俺に、追い討ちをかけるようにコルックが続ける。


「それにね、集落はすごーく海深くにあるんだ。人間は耐えられなくて破裂しちゃうと思うんだ」


 なんか今、サラッと怖い事言ったような……。

 ダメだ、完全に手詰まりか。

 さすがに異世界で破裂して死にたくない。今度死んだら転生出来るかわからないし。


 支援者!! こういう時の支援者だろ!? 俺に助けの手を差し伸べてくれ!!

 って、そう都合よくいくわけないか……。

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