29話「謎の少女」
「ルルも行くです。案内役のポポが動かなくなったです。だから君について行くです」
よくわからないけど、どうやら俺についてくるようだ。
でも俺は、城に入ったらコルックを脱出させて、一緒に逃げなければならない。この少女は、ついてこれるのだろうか。そう疑問に思いながらも問いかける。
「ここから出て城に行くのはいいけど、俺は用事があるんだ。あんたはそっからどうするんだ?」
「ルルはお姉ちゃんを探すです。でもその為にポポを直さないとダメです」
少女は、身の丈に合わない大きなバッグから、小さなフクロウに似た何かを取り出した。
そしてこれがポポだと、案内役だと言う。
こいつがいないとお姉さんを探せないという事か? でもどうやって……。
動物なら動物病院にでも……と思った時、そのフクロウに目を落とすとあるものを見つける。
「これ、もしかして……」
それは、ミナのこの壊れたフェイスと同じく、針金でできた触角のようなものだった。
まさかこいつらの仲間なのか? だとしたら、ラシャーナさんが言っていた、アイちゃんの製造施設で直せるかもしれない。
「直せるかも」
「本当ですか」
俺のその言葉に食いつくように目を見開く。
だが、俺だってわからない。フェイスも修理出来るのかはわからないんだ。
あまり期待を持たせないようにと、釘を打つ。
「わからない。あくまで可能性があるってだけだ」
「それでもいいです。ルルも行くです」
どうやらその意思は揺るがないようだ。腰まで伸ばした艶やかな黒髪を、揺らしながら期待の眼差しで俺を見つめる。
そして、仕方なく承諾する。
「わかった。ただ、お前の事までいちいち見てられないからな。自分の事は自分で――」
地響きが鳴る。
「おわっ!?」
目の前に巨大なオレンジ色のスライムが降ってきた。体が透けて中心のコア的なものが見えている。あれが心臓に当たるのだろうか。
〈敵対生物を発見しました〉
こんな時にいいって!
ドスンとその場でジャンプしながら威嚇しているようだ。その巨大なオレンジ色のスライムから、次々と産まれるように小さなスライムたちが増える。
「どんだけ増えるんだよ!?」
俺はその地響きに耐えながらも、梯子の方に向かおうとする。そして気が付く。少女を見ると尻もちをついてうろたえていた。
俺は軽く舌打ちをしながら、少女の手を引っ張ると梯子に向かって走る。
「――こっちだ!」
「わっ……」
その間も敵情報アナウンスは止まらない。
〈イエロースライム――瞬時に小さな分身を生む事ができる。生まれた分身は集合体になり、更に大きくなる。押しつぶされたが最後、飲み込まれて栄養として吸収されてしまう〉
「早く!」
俺は少女の手を引いて梯子に登らせると、警戒しながら俺も後に続く。
小さなイエロースライムは、軽快に飛び跳ねながら俺たちの方に向かってくる。
俺は慎重に、だけど急いで梯子を登る。
ふと下を見ると、小さなイエロースライムがたくさん梯子の下に集まり、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
今仮に下に落ちたら……死ぬ。いや、溶ける!
俺は唾を飲み込むと再び上を見て登る。
「わぁっ!?」
すると、ふと視界が奪われる。
ズルっと足を踏み外し、上を登っていた少女が、俺の顔面に"座る"。
「うげっ!? おい!! ふざけんな、落ちる落ちる!」
俺は、綺麗にストンっと乗っかった少女のお尻を片手で持ち上げると、少女は再び梯子に足をつき登った。
「足が滑ったです」
「いいから! 早く登れって!!」
再び地響き。
なんと、巨大スライムが梯子の下でドスン、ドスンと音を立てている。たくさん集まった小さなイエロースライムを吸収するように、更に大きくなる。
もう少し。
見上げると光が漏れていた。
一番上にたどり着くと、少女は一生懸命、鉄の重たいマンホールの蓋を持ち上げようとしていた。
「なにやってんだよ!?」
「持ち上がらないです」
俺は再び少女の柔らかいお尻を持ち上げると、マンホールの蓋ごと、少女を押し上げようと試みる。
体中の血液が頭に集まるのを感じる。
――ダメだ。血管ブチ切れそうだ。
少女が重いというより、鉄のマンホールが持ち上がらない。
下の方ではドスンと物凄い地響きが伝わってくる。
目線だけで下を見ると、巨大なイエロースライムに梯子が飲み込まれ、少しずつ溶けていくのが見えた。
俺の手に更に力が入る。
少女を持っている右手に集中する。魔素を集める……。すると右手全体が鋼鉄で包まれた。
力が湧いたかのように、俺は勢いよくマンホールごと少女を押し出す。
「――ふッん!!」
そして俺もようやく地上へ出る。
「はぁッ……」
エンチャントって、素手にも使えるんだな。と考えながら、咄嗟に下を見下ろす。
すると未だに巨大スライムは飛び跳ねていて、梯子の半分は巨大スライムにより溶解されていた。
俺は慌ててマンホールの蓋を雑に閉める。
再びため息を吐くと、急な疲労が俺の体を襲う。
辺りを見渡すと、幸いここは衛兵の巡回ルートから外れているのか誰もいなかった。
俺は胸を撫で下ろし、リラックスするように両手を床につき、腰を下ろした。
そして口を開く。
「……俺はリョウ」
一息吐くとようやく口を開く。
「ルルはルルです。生まれた時からずっとルルです」
な、なんか……特殊な子だな。
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