24話「ダンジョンズアイ」
「よし」
俺は魔ブーストを使い城に向かいながら、どうやって城の牢屋に忍び込むかを考える。
確か牢屋は城の地下にあったはず。小さい頃に両親と城に行った時、興味本位で近づいた時があったんだ。もちろん、衛兵に止められたけど。
――ダメダメ。この先は極悪人がいる牢屋なんだ。子供は通せない。ママの所へ行きなさい。
俺を子供扱いした衛兵が、そんな事を言って邪険にした。まぁ、見た目は子供だが中身は大人なんだけど。その時は仕方なく引き下がったが、お陰で貴重な牢屋を見る事は叶わなかった。
おそらく、あそこには衛兵が常にいるのだろう。
だとすると、中から行くのは得策ではない。かと言って外から回り込む、なんて事が出来るのか?
「ちょっと偵察してみるか」
横に長く、無駄に大きい城の外周を軽く回って様子を見る。
大抵、ゲームだったらこういう時、城付近に下水道とかあって、そっから城の中に忍び込めたり……なんて、そうそう都合よくあるわけないか。
۞
『久しぶりにポクの出番でふ!』
「来たの? 来たのね!?」
『ふっふっふにっ』
「なに? 勿体ぶらないで早く言ってちょうだい」
フー二はいつも以上にその場でくるくる回ると、体を左右に振り、妙な踊りをすると口を開いた。
『ザ・ダンジョンズアイぃ!』
「な、なんて?」
あまりの甲高い声に上手く聞き取れなかった私は、自慢げなフー二の顔を上げ聞き直した。
『ダンジョンズアイでふよ! 知らないんでふか?』
「知るわけないわよ。で、どんな効果なの?」
『それはでふね~』
目の前に出された神様ショップを見上げると、いつもとは違う"何か"が表示されていた。
――異世界旅行……券?
『ふにぃ! 間違えたでふ~! こっちじゃなかったでふ!』
フー二がそう言うと、目の前に表示されていた半透明の文字列が一瞬にして消えた。そして、すぐにいつもの神様ショップが表示された。
「今のは……」
一瞬だったけど、金色の枠内に半透明の文字で『異世界旅行券』って表示されていた。
フー二は慌てた様子で短い手を高速でバタバタと動かし、言い訳するように口を開く。
『ち、違うでふ。今のは忘れるでふ。まだダメでふよ。ポクはネタバレは嫌いなんでふ!』
「ネタバレって……」
『と、とにかく忘れるでふよ! 今はこっちのスキルの方が大事なんでふ!』
フー二は小さい指先を伸ばし、神様ショップに並ぶ文字列を指さした。
「わ、わかったわ。えっと……」
ダンジョンズアイ――瞳から取得できる情報量を増やし、まだ発見していないダンジョンや建物の位置を瞬時に把握する事が出来る。オート発動。
これで、亮太が探していたお城への隠し道を発見出来るのね。相変わらずスキルっていうのはすごいのね。
これは……20,000円か。なんだか麻痺してきたのかしら。これくらいの金額だと安いとすら思うようになってきたわ。
「はい、これお金ね」
『もぐもぐ。ふに。ひょっとポクはこの後、用事があるからまた後でれふ!』
フー二は口の中でお金を動かしながらそう言うと、くるっと回りながら瞬時にその場から消えた。
実は、これは初めてじゃない。最近、フー二がいなくなる事が多い。
何か理由をつけては私の前からいなくなるの。
今まではずっとここにいたのに……。寝る時でさえ一緒だったわ。
何しているかすごく気になるけど、私には追う術がない。だって、その場から跡形もなく消えるんですもの。
フー二の事は気になるけど、どうにも出来ないから仕方ないわ。
私はそう思い直し、不安を取り払うように液晶に目を移した。
「異世界旅行券……」
その文字列が、ふわっと私の脳裏を過ぎる。
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