23話「小さな希望」
「これ、直りますかね?」
ミナの動かなくなったフェイスを差し出して、ラシャーナさんの顔色を覗う。
「う~ん、完全に再起不能になっているわ。何も反応しないもの」
そう言ってラシャーナさんは、瞼を閉じているフェイスに手をかざした。
「そうですか……。これが見れたらミナがどこに行ったかわかると思ったんですけど」
ラシャーナさんは、眉を八の字にして頬に手を当てるとボソッと呟く。
「そうね。アイちゃんを製造している施設にでも行かないと直せないかも……」
「え、今何て!?」
重要な事を言ったような気がした俺は、ラシャーナさんの目を見て聞き返す。
「え? アイちゃんを製造している施設に行かないと……って、え? 行くつもりなの!?」
俺の顔を見ると、ラシャーナさんは驚いた表情をする。どうやら自然と目に力が入り、行く気満々の表情で見つめていたようだ。
製造施設っていうのがあるなら行く。そこでコレを直せる可能性があるなら尚更だ。
俺は二つ返事で首を縦に振る。
「もちろんです。可能性があるなら、どこだろうと行きます!」
すると、ラシャーナさんは急激に不穏な空気を漂わせ、再び困り顔で口を開く。
「でも……製造施設はバルディア族の管理下にあるのよ。リョウくんも見たでしょう? バルディア族になんて近づいたら警戒されて捕まるかもしれないわ」
バルディア族……。俺はニヤリと笑う。
これはチャンスではないだろうか。
これから俺は、あのバルディア族のコルックという奴を牢屋から助け出す。そしてコルックをバルディア族の元へ送り届ける。
そうすれば、バルディア族だって見直して力を貸してくれるかもしれない。
何が何でも、フェイスを直す方法を聞き出すんだ!
よし。
「俺、やっぱり行きます!」
俺はすぐに背を向け、アトリエの扉に手をかけた。しかし、背後から聞こえる小さくて幼いが俺を呼び止める。
「あ、お兄ちゃん待って!」
振り向くと、女の子は笑顔で小さな茶色い布袋を、小さな手に乗せて差し出している。
この子は確か、年樹洞窟にミナが行ったって教えてくれた女の子だ。
「……これは?」
そう問うと、無邪気な笑顔で答える。
「これ、アタシが作ったの! 初めてだから出来は悪いけど、でも……持って行ってほしいの!」
「リョウくんが帰ってきたら渡すって言っていたわ。ミナちゃんを見つけてほしいって。ふふ。貰ってあげて?」
茶色い布袋の中を覗くと、そこには緑色の液体が入った細長い瓶が入っていた。
「これは……」
ゲームとかでよく見るポーション的なヤツか?
俺が袋の中を覗いていると、ラシャーナさんは微笑みながら口を開いた。
「それは治癒ポーションよ。道中魔物も出るでしょう? きっと役に立つと思うわ。調合を出来る人が少なくて、下級アイテムの治癒ポーションですら貴重なのよ。この子も何度も失敗してやっと成功出来たの。だから数少ないけど、ないよりはマシだと思うわ」
そんなに貴重な物なのか?
ゲームとかだと、超序盤で大量に道具屋から買えるから希少度は低い。
そういえば、この世界では治癒士に成れる人は数少なくて、世界でも数人しかいないって聞いた事がある。
だからミナのお母さんも助からなくて……いや、今はミナの事を考えるのはよそう。
ただ、そんなに貴重な物を貰うわけにもいかない。俺は女の子に布袋を返すように手を出し、口を開く。
「そんな貴重な物、貰えないよ。それに初めて成功したんだろ? なら――」
「ううん、いいの。お兄ちゃんはミナちゃんを探す旅に出るんでしょ? 危ない目にも遭うんだよね? だから持っていってほしいの」
俺が全てを言い終える前に、女の子は布袋を突き返すようにして笑顔で言った。
そこまで言われたら、断るのは逆に失礼だ。ここは遠慮なく貰っておく事にする。
「じゃあ貰うよ。ありがとう」
女の子の頭に優しく手を乗せる。
「う、うん! 必ずミナお姉ちゃんを見つけてね!」
女の子は頬を赤く染め、少し照れくさそうな笑顔でそう言った。
「じゃあ俺は行きます。色々とありがとうございました」
「えぇ、気をつけてね。無事を祈っているわ」
ラシャーナさんにお礼を言うと、今度こそ扉を開く。
「またねお兄ちゃん!」
「うん……またな」
女の子は俺の背中に笑顔で手を振る。
俺は振り向きざまに手を振り返すと、そのまま扉を閉めた。
そして、貰った治癒ポーションを異空間ボックスにしまうと……城に向かった。
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