20話「襲撃」

「よっしゃ、一回街に帰るか」


 魔ブーストを使い、一気に年樹洞窟から脱出した俺は、街に向かう。


 そういえばこの魔ブーストって、上下にしか行かないのか? このままブースト出来たら、超早いんじゃないか?

 俺の好奇心を掻き立てる。


「よし」


 試しにやってみよう!

 足に集中して……っと、ん!?


「おわっ!? うわぁぁぁ!!」


 発射する瞬間、ぼふっとエンジンがかかるような音を鳴らす。そしてそのまま天高く……。


 ダメだ! これ、上にしか行かないやつ――!


 止まれ……止まれ!

 足に集中していた魔素を解き放つ。

 その瞬間、空中で時が止まったように俺の体は一時停止する。そしてすぐに落下。


「うぁ……うわぁぁぁぁぁぁ!?」


 やばいやばいやばい。

 死ぬ死ぬ死ぬ。

 この高さは完全に死ぬ!


 その落下速度は尋常じゃなく早い。俺に、冷静な判断をする時間を与えてはくれなかった。


 ぽふっ。

 そんな軽い空圧と共に、両足で地面に着地。


「……え?」


 そうか。忘れていた。

 この魔ブーストには、高性能な着地機能があったんだ。


「ふぅ」


 俺は額の冷たい滴を拭うと軽く息を吐く。

 破裂寸前だった俺の心臓は、徐々に鎮まりつつあった。


〈魔ブーストがLv2になりました〉


 アナウンスが鳴る。

 まだ残っている高揚感を鎮めながら、ステータスを開き確認する。


 魔ブーストLv2――横移動にも使えるようになる。通常の五倍の速度でブースト移動する。


 多少なりとも鎮まりつつあった高揚感を再び得る。


「よし、一気に行くぞ!」


 ステータスを閉じるや否や、機能が増えた魔ブーストを使ってみる。


「うぉぉぉ!!」


 風を切って走る。

 いや……飛ぶ、が正しいのか。

 一応方向操作も重心を動かせば出来るみたいだが、俺にはまだ難しい。慣れが必要なようだ。

 緩やかなカーブならギリ、曲がれるかな。

 俺は曲がり角の度に魔ブーストを切り、再び使う。を繰り返し街まであっという間に到着した。


「うわっ、なんだ――!?」


 街の入口に立っている兵士には驚かれたが、気にする暇もなく瞬間的に通り過ぎる。


「……ほいっと」


 着地はもう慣れたもんだ。

 魔ブーストの余韻を残しつつ、集めていた魔素を遮断する。

 これで綺麗に着地出来るんだ。


 アトリエの前まで魔ブーストで来てしまった。

 そういえば、街に人が全然いなかったな。何かあったのか?


 勢いよくアトリエの扉を開く。


「ミナの痕跡見つけ……まし――」


 しかし、中には誰一人いなかった。


「どこ行ったんだ? ラシャーナさん?」


 諦めて外に出る。

 少し街を見てみるか。なんで一人も歩いていないんだ?

 異様だ。

 ギルドにも、カフェにも、商店区画にも、誰一人として残っていない。


 俺は魔ブーストで街を徘徊していると、城の近くまで来る。

 すると――


「なんだ?」


 城が騒がしい。

 兵士が街人を城の中に押し込んでいる。

 冒険者や他の兵士は、街の北の出入口に向かっている。それも完全武装で。

 絶対に何かあったんだ。


 城に近付く。


「何かあったんですか?」


 兵士に問うと、慌てた兵士は俺の腕を引っ張り城に押し込めようとする。


「奴らが攻めて来たんだ。早く中へ!」

「いや、待って。奴らって?」


 外に出ようとすると、兵士は強い口調で言い放つ。


「何をしている!? 危ないから出ちゃダメだ」

「俺は冒険者です。一緒に戦います」


 奴らが誰かはわからないが、外に出る為にそう言いながら、先日手に入れた冒険者バッジを見せる。


「――協力、感謝する!」


 兵士は頷きながらそう言う。

 俺は、そのまま冒険者バッジを鎧に付けながら、魔ブーストで北出入口まで向かう。


 するとそこには、大盾を持った兵士たちが何列にもなり、遠くからの矢や大砲を食い止めていた。


「ダメだ……もう持たない!」

「弱音を吐くな! 何としてでも街を守るんだ!」


 指揮官らしき人に続き、橋の向こう側にいる敵に突っ込んで行った。

 この場にいる冒険者たちの数名は、敵陣に突っ込んで戦っているが、ほとんどは街の出入口を守ろうと留まっている。


「何が……あったんだ?」


 呆気に取られている俺に、一人の冒険者らしき人が話しかけてくる。


「お前も冒険者か? お互い災難だな。あぁやって突っ込んで行くバカもいるけどよ、俺はまだ死にたくねぇっての。な、お前もそうだろ?」

「いや……まぁ、はい……あはは」


 適当に苦笑いすると、ここぞとばかりに肩を組んできた。そして口角を釣り上げると、仲間だと言わんばかりに口を動かす。


「なぁ? やっぱりそうだよな? お前みてぇな奴がいてよかったぜ。俺はマルクってんだ。お前、名前は?」

「り、リョウ……です」


 更に微笑み続けるマルクに、俺は少しずつ距離を取ろうとするが、それに合わせるように少しずつ近寄ってくる。


「よろしくな、リョウ! しっかし、まじでこんなんやってらんねぇよな? たんまりユニとか武具が貰えるってんなら話は別だけどよ」

「あの、この街で何があったんですか?」

「おまっ! 知らねぇのかよ? いいか、このマルク様が丁寧に教えてやるよ」

「あはは……お願いします」


 マルクは得意げな顔をして、流暢りゅうちょうに話す。


「奴らは、この城に捕らわれてる奴を助けに来たらしいぜ? 俺もよくわかってねぇけど、バルディア族っていうらしくて、バル族とディア族? のハーフ族らしいぜ」

「その捕らわれてる人は何かしたんですか?」

「んいや、噂ではこの国に代々伝わる宝剣が盗まれて、たまたま街に来ていたバルディア族が怪しいから捕らえられたらしい」

「そ、それじゃあ……濡れ衣って事!?」


 だったら酷すぎる。

 でも、たまたまいたってだけで、捕らえられるのか?


「バルディア族ってのは手癖が悪いって評判なんだよ」

「だからって、それだけで……」

「それに見てみろよ。あの見た目! 焦げ茶の体に腹が出て、ツンと伸びた両耳、切り裂かれたように広がった口! まるで悪魔みてぇな見た目だろ?」


 マルクは、汚い物を見るかのような表情でそう言った。

 見た目は確かに、少し怖いかもしれないけど、それでも疑っていい理由にはならない。だって何の罪もない人を、気持ち悪いからって理由だけで捕まえていいわけがないだろう。


「ひどいな……」

「え? そうか?」


 別に敵側の味方とかそういうんじゃないけど……同情するよ。

 どっちが悪いのかわからなくなってきた俺は、戦う意味を失い、マルクと一緒にその場に留まっていた。

 すると、あれは総指揮官だろうか。みんなに聞こえるように、壇上に上がると大きな声で叫ぶ。


「怯むな! このまま押せ! 忌々しいバルディア族を根絶やしにするんだ!」

「「「うぉぉぉ!!」」」


 その声に、下がりつつあった士気が再び上がる。

 更に総指揮官は続けた。


「この戦いで功績を残した奴には王国から富と名声が贈られる! 冒険者にはランクアップを確約するそうだ! いいな、死ぬ気で行け!! 」

「「「――うぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 味方の士気は更に上昇している。

 前方にいる大盾兵は、敵軍を押し退けるように少しずつ前進し、その後ろに隠れている槍兵が大盾の隙間から敵を突き刺している。

 そして更に後ろに待機していた弓兵は、一列に並び一斉に射た。


 それを見たマルクも、俺の隣で感情が高ぶっている。


「おい、聞いたかよリョウ? 功績を残せばたんまりユニが貰えるってよ! それに無条件でランクアップって……。こりゃ、やるしかねぇな!」

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