19話「ミナの痕跡」

「ここを右……か」


 俺はミナを探す為、ラシャーナさんに地図を貰い年樹洞窟に向かっていた。


 その道中。


〈スキルを習得しました――サーチ〉


 スキル? 今のタイミングで?

 俺は首を傾げながらステータスを確認する。


 スキル【サーチ】――人や魔物の痕跡を追う。そこで何があったのか調べるのに役立つ。集中して発動する。


 支援者からの支援……なんだよな?

 どこかで俺の事、見てるのか?

 あまりのドンピシャなスキルに、俺は不信感を覚える。

 しかし、周りを見渡しても誰もいない。いるのは、常に俺を監視しているこの悪魔だけだ。


「……まさかな」


 これはギルドから支給されたものだ。

 転生時に選んだスキルと関係あるわけ……。

 あーもう! 支援者って誰なんだよ!?


「はぁ……」


 考えていても仕方ない。

 今はミナを探すのに集中しよう。


 サーチ……使ってみるか。

 まずは集中して……感じる。ミナの……痕跡を感じる!

 半透明の光る白い軌跡が、年樹洞窟の方に続いている。

 その白い痕跡を追うように足を進めた。


「……ん?」


 ふと地面を見ると、白い痕跡がその場に溜まって円を描いている。

 ここで何かあったのか?

 しかし、それ以外に目新しい痕跡はなかった為、そのまま洞窟へと向かった。


「ここが年樹洞窟……か」


 入口は、誰かが通ったかのように、ツタが掻き分けられていた。ツタの至る所に白い痕跡が残っている。


「間違いない。ここに来てるはずだ」


 そう確信し、中に入る。

 キラキラと輝く植物が、洞窟の奥まで照らしている。その一部には痕跡があり、植物が剥ぎ取られていた。

 ミナが剥ぎ取ったのか?

 輝く植物に導かれるように奥へ進むと、行き止まりで、その地面には大きな穴が開いていた。


「まさか、ここに落ちたのか!?」


 覗き込むとかなり深い穴だ。

 こんな所に落ちたなら、無事なはずはない。


「ミナ――!!」


 穴の中に向かってそう叫ぶ。

 しかし返事はなく、俺の声が反復して聞こえてくるだけだった。

 くそっ! 降りてみるしかないか。


 俺は穴の端に手をかけると、少しずつ足を滑らせるようにして降りる。

 しかし……。


「おわっ!?」


 そう上手くはいかず、急な斜面を頭から転がり落ちた。


「いって……」


 目眩がする。頭を抑えながら起き上がり、辺りを見渡す。

 すると、白い痕跡はここにもあった。


「やっぱりここに……。ミナ――!!」


 もう一度叫んでみるが、俺の声が反復されるだけ。

 すぐ近くにさっきよりも大きい穴を見つけ駆け寄る。

 その下に痕跡は続いているようだ。


 でも、さすがにこの高さは落ちれないぞ。

 何度も下を見ながら試みるが、やっぱりダメだ。

 滑り落ちるなんて無理だ。


 俺が崖の縁に手をかけて、滑り落ちるシミュレーションをしていると、聞きなれたアナウンスが鳴り響いた。


〈魔法適正がLv2になりました〉

〈魔法を習得しました――魔ブーストLv1〉


 なんだそれ?

 ステータス画面を確認する。


 魔法【魔ブーストLv1】――高所から飛び降りた時、周囲の魔素を足に集めてゆっくりと着地する。オート発動。高所を登る為にも使える。


 これはすごい魔法だ。しかもオート発動って。便利すぎる。

 どういうロジックで魔法のレベルが上がってるんだ? それに魔法を覚えるトリガーも未だにわからない。

 ……まぁ、今はいいか。その内わかるかもしれないし。


「よし」


 少し不安だが、飛び降りる。


「うわぁぁぁ!!」


 飛び降りる時の恐怖は変わらない。

 ただ……地面に着地する瞬間、足がフワッと若干浮いたのがわかった。

 これが魔ブーストの効果だろうか。

 痛くも痒くもない。

 ただそこに優しく降り立った、と言えばいいのか。

 これは色々な場所で使えそうな気がする。そう思いながら、着地した先の周囲を見渡す。


 するとそこには……。


「……うわっ!?」


 魔物の死体が転がっていた。心臓が抉り取られ、酷い悪臭を放っている。

 これ、ミナがやったのか……?


 更に辺りを見回すと、見覚えのある物を見つける。


「あれは……!?」


 そこには、試験を受ける前にミナに買ってあげたあの杖が、乱暴に転がっていた。


「ミナ……」


 俺はその場所に近付くと腰を下ろし、杖を優しく拾い上げる。そして少しの間、杖を見つめミナの事を考えると、杖を強く握りしめ異空間ボックスにしまった。

 そして立ち上がり辺りを見渡すと、杖が落ちていた横には水色のゼリー状の何かが……落ちている。


「……ふきゅ?」


 その何かは急に動き出すと飛び跳ねた。


 ――魔物か!?


 咄嗟に剣に手をかける。


 よくゲームに出てくる王道の魔物、スライムのような姿をしている。

 そのスライムはよく見ると、体をプルプルと震わせ物凄く怯えているようだった。

 長い間、一人でここにいたのだろうか?

 もしかしてミナと一緒に……?


 俺は抜きかけた剣を鞘にしまうと、更に辺りを見渡す。するとミナの監視目玉……フェイスが床に転がっていた。


「これを見れば何かわかるかもしれない!」


 フェイスを拾い上げる。

 しかし反応はなく、俺の悪魔のように飛び回る様子もない。

 ダメだ。壊れているのか?

 戻ったらラシャーナさんに聞いてみるか。


 俺は一通り痕跡を調べ終わると、魔ブーストを使って崖を登ろうと崖下に立つ。


「ふきゅっ……ふきゅっ」


 何やらそこにいたスライムが傍に寄ってくる。


「……ついてくんなよ」


 スライムは愛らしい顔付きで複数回地面で飛び跳ねると、俺の体をよじ登るように跳ねながら頭の上に居座った。


「ふきゅう……」

「ぐっ……仕方ないな」


 俺はため息を吐きながら、魔ブーストを使い一気に崖上まで登る。


「うぉぉぉ――!? すごいな、これ……」

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