第3章 欲望と希望、そして出会い

18話「ミナの散策」

「ミナ、遅いな」


 俺はもう、三日連続で冒険者ギルドに通っている。ギルド依頼をやるわけでも、他の冒険者と交流するわけでもない。ただ、ミナの帰りを待っている。

 ミナは少し子供っぽい所があったり、おっちょこちょいな所はあるけど、約束を破るような奴じゃない。

 それぞれの試験が終わったら、ここに集まるって約束したはずだ。


「あれからミナ、ここに来ました?」


 もう何度目だろうか……俺は受付嬢にそう尋ねる。

 すると受付嬢は少し困った顔で言った。


「来てませんね……」

「そう、ですか。何度もすみません」


 大きく肩を落とす俺の背中に、受付嬢が再び声をかける。


「あの……心配でしたら捜索依頼、出しておきますか?」


 捜索依頼……か。

 本当なら一刻も早く出したい所だ。

 でもいいのだろうか。俺に取ったら三日帰って来ないなんて一大事だ。しかし他の冒険者に取ったらなんて事ないんだろう。

 一週間、一ヶ月帰らないなんて当たり前なのだから。この間、行方不明になったって話していた冒険者がいたんだ。でもその冒険者は、行方不明者の事は心配していなかった……。


『大丈夫だって。ひょっこり帰って来るさ。カフェでも行って待ってようぜ』


 そんな事を言ってケラケラと笑っていた。

 ギルド区画にあるカフェ、そういう使い方をされていたのか。

 とてもじゃないけど、俺はそんな真似は出来ない。


 やっぱり捜索依頼を出すべきなのだろうか。


「あのっ! 捜索依頼を出して見つかった事例ってどのくらいありますか?」

「えぇっと……ちょっと待って下さいね」


 そう言って、受付嬢は目の前のモニターに何かを入力する。


「結構ありますね。さすがに全て解決しているわけじゃありませんけど……未だに行方不明の冒険者もいますし。でも……全体の70パーセントは解決していますよ」


 そう微笑みかける。

 捜索依頼が出された中の70パーセントが解決……やっぱりこれに賭けるしかないのか。

 何の手がかりもなく探し出すなんて無謀だ。それにすれ違いになったら、今度はミナに心配かけてしまう。


「じゃあ……」


 俺は捜索依頼を出す決意をして話しかけるが、それを遮るように受付嬢が口を開く。


「そういえば、アトリエに行ってみました?」

「いや、行ってないけど……」


 アトリエ……そうか! ミナの試験は確かアトリエでやるんだったよな。俺は今まで心配するあまり、ミナの試験場所の事をすっかり忘れていた。

 アトリエは確か、冒険者ギルドの道向かいにある建物だ。


「何かミナ様の情報を得られるかもしれませんよ?」

「はい、ちょっと行ってきます」


 そう言って背を向ける。


「捜索依頼! 出しておきますね」


 その声に振り返ると、受付嬢は笑顔で手を振っている。

 おそらく、俺を不安にさせないように笑顔で振舞ってくれているのだろう。


「ありがとうございます」


 俺は冒険者ギルドを飛び出し、アトリエに足を運んだ。

 そして駆け足でアトリエに向かうと、そのまま扉に突進するように勢いよく開く。


「すみません!」


 おっとりした綺麗な女性が、驚いた表情で出迎える。


「……どうしましたか?」


 すぐに、俺の慌てぶりを見て心配する。


「あのっ、ミナは……ミナがどこに行ったか知りませんか!?」


 息を切らしながらそう尋ねる。

 すると、小さな女の子が近寄り横から口を開く。


「ミナお姉ちゃん、年樹洞窟に行ったっきり、帰って来ないの! ラシャーナ先生もあたしも心配してるの」


 この女性はラシャーナさんと言うらしい。

 それと年樹洞窟? 帰って来ないって……。嫌な予感しかしない。


「もしかしてリョウくん?」


 ラシャーナさんが口を開く。


「はい、そうですが……?」

「ミナちゃんが言っていたのよ。一番大切な人だって」


 ミナ……もしかしたら何か事件に巻き込まれて?

 魔物にやられて怪我をして動けないのかも。

 絶対に……見つけてやる!


「その年樹洞窟って、どこにあるんですか?」

「待ってね」


 ラシャーナさんは、地図を取り出し場所を教えてくれた。


「ここよ……行くのね。でも、気を付けて」

「はい、ありがとうございます。もしミナが帰って来たら、ここで待っているように言ってもらえますか?」

「えぇ、わかったわ」


 よし、行こう。


「お兄ちゃん、ミナお姉ちゃんを必ず見つけてね!」


 扉に手をかける俺の、背中に向かって女の子が話しかける。


「あぁ、ミナと一緒に帰って来るよ」


 扉を閉めた。

 そして年樹洞窟へ。




۞




『キタでふ! やっとキタでふよ!』

「え、何が?」

『この愛らしい角で感じるでふ。ビンビン感じるでふ!』

「亮太? 亮太の事ね」


 亮太は、あっちの世界での幼なじみの女の子、ミナちゃんって言ったかしら。行方不明になったミナちゃんを探す為に街を出たのよね。

 今、何か亮太の為に出来る事があるのかな?


『では発表するでふ!』

「はいはい。お願いします」


 お決まりの長い長い溜めの後、短い両手を天高く上げ、元気よく言い放った。


『ザ・探知機ぃ~!』

「た、探知機? なんか随分アイテム的になったわね」


 魔法とかスキルとか、そういうのじゃなかった……?


『これは立派なスキルでふよ!』

「へぇ~」


 あ、スキルだったのね。


『いいでふか。探知機ならぬ探知システム……んーいや……』


 何やら一人で呟いた後、また妙な動きと共に、溜めた後に言い放つ。


『ザ・サーチぃ~!』


 名前が変わったわ……。


「ど、どっちでもいいから! それがどう役立つっていうの?」


 フー二を急かすように、強い口調で言い放つ。


『これは人や魔物の痕跡を追えるすごいスキルなんでふ!』

「痕跡……じゃあミナちゃんも無事見つかるのね?」

『それとこれは話が違うでふよ。ふくぅ……』


 そんなに、あからさまにため息吐かれても。


「どう違うの?」

『痕跡は追えるでふけど、それで見つかるとは限らないでふ。対象が消えた場合とかは、痕跡が途絶えるんでふよ!』

「それじゃあ、見つからないじゃない」

『だから、そう言ってるでふ』


 でも、少しでも痕跡が追えたら見つかる可能性も上がるのよね?

 だったら亮太の役に立つのかしら。


「それで、いくらなの?」

『じゃじゃーん!』


 偉そうに腕組みをしながら、目の前に神様ショップを出した。


 スキル【サーチ】――10,000円


 やっぱり不完全だからかしら? そこまで高くはないのね。

 魔法適正に比べたら全然安いわ。


「はい、これね」

『がふっ――』


 私はフー二の口の中に、一万円札を無理矢理詰め込んだ。もう慣れたものね。


『もぐふに』

「あら、今回は飲み込むのが早いのね」

『金額が少ないと飲み込みやすいでふ!』


 フー二の体が光に包まれる。


「もうキタのね?」

『ふに! 今回は早いでふ』

「じゃあ、さっそく亮太を見てみましょう」


 液晶の亮太に目を移す。

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