7話「初めての装備」

〈装備を獲得しました――龍晶石りゅうしょうせきつるぎ

〈装備を獲得しました――すい宝石の軽鎧〉


 龍晶石ってなんだ?

 俺はステータスを開くと、"異世界記録"というページを見てみる。半透明のモニターが新たに出現し、そこには様々な情報が書かれていた。

 その中の"素材図鑑"というページに目を通す。まだ入手した事がない未知の素材には、南京錠マークが表示されている。どうやら入手済みの素材しか情報が開示されないようだ。

 素材図鑑のページを、何ページかめくると"龍晶石"という文字を見つける。


 龍晶石――龍種族の心臓部から極少量しか採取出来ないとても貴重で丈夫な水晶石。


 これ……すごく貴重なやつじゃないのか?

 ブレード部分全体が、その龍晶石ってやつで作られている。


「かわいい~! ねぇリョウくんどう? 似合う?」


 ……そろそろ俺も出ようか。


 小部屋から出るなりはしゃぐミナを見て、俺は店主から目を逸らすように少し小さい声で返す。


「似合ってるよ」

「やったぁ! ありがとうリョウくん。リョウくんもすっごく似合ってるよ」

「う、うん。行こうか」


 微かだが、店主のため息が聞こえてくる。

 店主の視線が痛かった俺は、すぐにでも店を出ようと扉を開ける。


「じゃあ、ありがとうございました!」

「はいよ~」


 店主は気だるそうに手を上げて俺たちを見送った。


「リョウくん、本当にありがとうね」


 ミナは俺の方を向きながら、足元をよく見ずに歩き始めると小石を蹴飛ばす。


「あ……」


 その方向には、見るからに関わったらロクな事にならなそうな二人組がいた。

 一人は小さく小太りのでかっ鼻、頭のてっぺんは寂しいようだ。

 そしてもう一人は、背が高くひょろ長い、顔が異常に細長く前歯が飛び出しているのが特徴だ。


「いでっ!」

「おい、どうしたブク?」


 嫌な予感は的中した。


 飛んだ小石は綺麗な放物線を描いて、小さい方の頭の真ん中……丁度地肌が見えているそこに、フィットするように乗っかった。


「フッ」


 俺は思わず吹き出してしまった。


「オマエ! 今笑ったナ!?」


 小さい方が、ドカドカとこっちに向かって歩いてくる。

 それに釣られて、ひょろ長い方もズカズカと足並みを揃える。


「ミナ、逃げるぞ」

「――んひゃっ!?」


 俺はミナの手を引くと振り返り、二人組がこっちに近付く前に全力で走った。


「アニキ! ヤツら逃げましたゼ!」

「追うんだよ! ブク! ほら、走るんだ」


 ひょろ長い方に頭を叩かれた小さい方は、すかさず走り出すも、頭から転がり落ちた石につまづいてベチンと顔から倒れる。


「おい! いつまで寝てんだブク! 早く追うぞ」


 ひょろ長い方が小さい方の腕を引っ張り起こすと、すかさず追いかけてきた。


 後ろからは、小さく「待て~」という声が聞こえる。

 俺たちは走り続けた。


「こっちだ!」

「ふひぇ!?」


 俺は息を切らして必死についてくるミナの腕を強引に引っ張り、狭い路地裏に入り込んだ。


「もう……大丈夫だろ」

「ミナっ……もう……ダメ」


 ミナはその場にへたれこんだ。

 壁と壁の隙間から様子を伺うが、追ってくる様子はない。どうやら巻けたようだ。


「少し休むか」


 俺たちは、路地裏にひっそりと佇む小さな赤屋根の家の、目の前に置かれたベンチに腰掛ける。

 そして、さっきは見れなかった装備を確認しようとステータスを開いた。


 右手には"龍晶石の剣"、左手には"ガントレット"、体には"翠宝石の軽鎧"と表示されている。


 龍晶石の剣の横に点滅している、詳細を押してみる。


 龍晶石の剣――希少で丈夫な龍晶石を使った剣。


 さっき確認した、龍晶石って素材か。確か龍の心臓から極小量しか採取できない、超希少な水晶だとか。そんなもの、本当に譲ってもらってよかったのだろうか。しかもあんな格安で。

 でもまぁ……店主がいいならいいか。後で、やっぱり返してなんて言われても返したくはないが。


 さて、次は翠宝石の軽鎧の方だな。


 翠宝石の軽鎧――この鎧は付呪されている。翠宝石の効果で、鎧の重さが軽減されている為非常に軽い。


 なるほど。

 だからあまり重さを感じなかったのか。

 着ていて痛くないように、カーブの箇所には布皮が当てられていて、着心地が非常にいい。


 ステータスを見るのに集中していると、俺の顔を覗き込むようにミナは微笑んだ。


「リョウくん、もうミナは大丈夫だよ」


 ミナの可愛らしい顔が視界に入る。


「うん、じゃあ行こうか」


 ステータスを閉じると、俺たちは当初の予定通り冒険者ギルドへと足を運んだ。

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