8話「監視目玉のアイちゃん」
「
俺は地図を見ながら大きなため息を吐く。
この森は薄気味悪い。
この、俺の周りを浮遊している、目玉に羽が生えた奇妙な生物はもっと薄気味悪い。
俺はなぜこんな事になっているかというと……。
――
立派な紋章を掲げる大きな建物。金のグリップにシルバーのブレード、綺麗な曲線を描く刀剣がモチーフの紋章だ。曲線に沿って、冒険者ギルド【ルマニール】と書いている。
俺は、冒険者ギルドの扉をゆっくりと開けた。
入り口から右側には依頼掲示板が、左側には受付嬢が並んでいる。
掲示板の前は冒険者で溢れかえっていた。ここには、冒険者の仮登録をした時に一度来ているが、その時はあまりの冒険者の多さに驚いたものだ。
「冒険者ギルド【ルマニール】へようこそ!」
入ってすぐのカウンターの受付嬢が笑顔で出迎える。
ここは総合的な手続きをする受付だ。俺が仮登録をしたのもこの場所だった。
この間は本登録まで一度に出来なかったが、今日は日にちも経ってるし出来るだろう。仮登録と本登録の間に、日にちを設けなければいけない決まりらしい。
「先日、冒険者の仮登録をお済みになった、リョウ・ラリアー様とミナ・マリア様ですね。本登録の受付はあちらになります」
受付嬢は、笑顔で手のひらを胸から外側に動かし、その場所を示す。
左側のカウンターの奥には受付嬢、手前の広間には椅子が等間隔に置かれていた。
俺は受付嬢に一礼すると、左側のカウンターに足を運ぶ。
「あの……冒険者の試験を受けに来たんですけど」
一番近くにいた受付嬢に話しかける。
「はい。お待ちしていました。リョウ様とミナ様ですね」
どうやら、この受付で合っていたようだ。
受付嬢は笑顔を崩さず更に続ける。
「まず、こちらに目を通して下さいね」
羊皮紙に描かれた薄紫色の文字が浮遊している。
どうやらこれは、魔術か錬金かわからないが、そういった類のもので作ってあるのだろう。
俺とミナ、それぞれにその羊皮紙を渡すと、笑顔を崩さずにじっとこちらを見つめている。読み終わるまでそうしているつもりなのだろうか。
その羊皮紙に描かれている事を要約すると……。
まず、冒険者の試験は必ず一人で遂行しなくてはならない。
試験遂行中に受けた負傷は、自己責任で冒険者ギルドは責任を取らない。
騎士や治癒士など、希望の冒険者によって試験場所が違い、各場所には試験官がいて、その試験官のルールは守る事。
試験の合否は、現場の試験官に全てを委ねる。
試験に合格した者は、必ず現場の試験官から冒険者ギルドバッジを受け取る事。それが冒険者の証となる……か。
最後に、この羊皮紙の下部には、冒険者ギルド【ルマニール】の刻印が押されていた。
「読み終わりました」
「ミナも読んだよ!」
ミナは、受付嬢に羊皮紙を渡そうとする。しかし、それを押し返すように受付嬢は口を開いた。
「では最後に、こちらの羊皮紙に手をかざして下さい」
言われるがまま羊皮紙に手をかざす。すると、手形スタンプのように薄紫色の印が羊皮紙に浮かぶ。
「規約を承諾したという証ですので、いかなる場合も規約違反は許されません」
受付嬢はそう言うと、俺たちから手形スタンプ付き羊皮紙を回収し、更に続けた。
「これで試験を受ける準備は整いました。規約にも書かれていた通り、試験は一人で受けて頂きます」
「でも、どうやって一人でやった事を証明するんですか?」
俺がそう問うと、受付嬢は用意していたかのように懐から何かを取り出した。
「なんだこれ!?」
浮遊する羽を生やした目玉が、俺たちの周りを飛び回る。
「これはあなた方冒険者を監視してくれる目玉、通称アイちゃんです」
まん丸い白目に大きな黒目をギョロギョロと動かし、本当に監視されているようだ。
「かわいい~!」
「……え?」
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