4話「支援者からのギフト」

「そろそろ出ようか」


 俺は席を立つが、一瞬立ちくらみのような感覚に陥った。


「リョウくん大丈夫? ミナの肩、使っていいよ?」


 するとミナは、すかさず俺の体を支え、可愛らしい声で心配そうに顔を覗かせた。


 少し飲みすぎたか。

 俺はそそくさと酒場を後にした。


「もう……大丈夫だ」


 外の空気を吸って、少し気分が落ち着いた俺は、ミナに心配をかけまいと笑顔を見せる。


「本当? リョウくんはすぐ無理するから。辛い時はミナに言うんだよ?」


 ――一瞬だが、あいつの顔がチラついた。


 いや、そんなはずはない。俺があいつの事を気にするなんて有り得ない。

 お節介な母親。なぜだか今更、あいつが泣いている姿が思い浮かぶ。俺がいなくなって、泣いている姿が。

 でも、もう十六年も経っているんだ。俺の事なんて忘れてる……か。


 それに……今の俺にはもう関係ない事だ。俺はもう別の人生を歩んでいるからな。


「行くぞ」

「リョウくん待って! どこ行くの?」


 そう言って、ミナは俺の服の裾を軽く掴んだ。

 そして歩き出すと、俺の腕を掴んでくっついてきた。


「あんまくっつくなって!」

「どこに向かってるの? 試験は? やらないの?」


 俺はため息をつきながらひたすら街を歩いた。




 そうこうして今、街を散策中なんだが、一向に支援者とやらからギフトが届く気配がない。

 どうなってるんだ?

 四女神サリアからは、この十六年間一度も連絡なんか来ないし。いや、連絡は……寧ろ取りたくないか。

 十六歳になって冒険者ギルドに登録したら、ステータス画面全体に掛かっていたロックが外れたんだ。つまり、支援者からギフトが貰えるようになったって事だと思うんだ。


 俺は、待ち遠しい思いでソワソワしていると、唐突に機械的な声でアナウンスが聞こえてきた。


〈ギフトが届いています〉


 すかさずステータスを開く。

 するとさっきまではなかった、リョウ・ラリアーの横に、見覚えのない箱のようなマークを見つけた。

 瞬時に察した。やっと支援者からギフトが届いたのだと。

 俺は、心が弾む思いでギフトボックスを押してみる。


「うわっ! こんなに!?」


 どうやら、大量の"発送人不明"のアイテムが届いているようだ。

 ステータスが映し出されているモニターとは別に、半透明の水色のモニターが出現し、たくさんのアイテム名が並んでいた。その下部では、"全て取得"の文字がゆっくりと点滅している。

 俺は、その点滅している文字に触れてみた。


〈異空間ボックスに全アイテムを移動しました〉


 機械的な声がアナウンスをする。


 異空間ボックスとは、容量や重量制限がない鞄のようなものだ。この世界の人がコレを使っているのを見た事はないが、噂では極々稀に異空間ボックスを使いこなす人がいるらしいが……まぁ、俺には関係ないけど。


 俺は異空間ボックスを確認する。

 すると、訳の分からないアイテムからお金であるユニ、なんだか懐かしい気持ちになるアイテムなど、沢山の物が入っていた。

 主に換金アイテムが多いみたいだ。


「なんだコレ?」


 その中に、なんだか見覚えがあるようなないような。懐かしい気持ちにさせる魅力的なアイテムがあった。


 それは、子供が工作したような、継ぎ接ぎだらけの鉄で出来た腕だった。




 ۞




『リョウに届いたみたいでふよ』

「本当に!?」


 私は液晶に飛びつく思いで確認する。

 亮太は色々な物を、半透明の箱……のような場所から、取り出し見ていた。

 すると、神様ショップで贈った覚えのない物まであった。

 おそらく、買い物から帰ってきて、部屋にばらまいた時に紛れ込んだのね。


『よかったでふね。リョウは喜んでいるでふよ。そういえば、時止め中なのにどうやって買い物したでふか? 盗んだでふか?』

「まさか! そんな事しないわよ。お金ならちゃんとカウンターに置いてきたよ」


 一度は、そのままお店を出ようかと考えたけど……やっぱりダメね。そんな事をしたらバチが当たるわ。


『律儀でふねぇ! ふくぅ……』

「ちゃんと払うものは払わないと」


 私は改めて液晶に映っている亮太に目を移す。そして嬉しさが込み上げる。


「ふふ……ようやく受け取ってくれた」


 初めて亮太が物を受け取ってくれたのを見て、喜びを隠せなかった。それと同時に、ふと疑問に思った事がある。


「ねぇ……私もちょっと気になる事あるんだけど」

『どうしたでふか?』


 フー二は、不思議な顔で大きな頭を傾げる。


「亮太は転生したのよね?」

『そうでふよ』

「じゃあどうして、ここには成長した亮太が映っているの? それに顔が亮太そっくり」


 私は不安な気持ちで液晶を指さす。


『それはでふね……』


 フー二は、目を閉じて暫く黙ると、唐突に目を見開き両手を上げ、元気よく言い放った。


『ザ・スキップぅ~』

「え? スキップ?」

『ポクがスキップしたでふよ。リョウが大人になるまで。その様子をこの液晶に映してリョウコちゃんに見せてるでふ。顔が同じなのは、亮太くんに限りなく近いDNAを転生先に選んだからでふよ。えっへん!』

「へぇ~そんな事が……フー二は何でも出来るのね」


 今更、どんな答えがきても驚く事はないけど、まさかスキップしているとは思わなかったわ。

 それに、限りなく近いDNAだなんて。そんなの可能なのかしら。

 多少の疑問は残ったままだけど、ある程度は理解したわ。


『ふっふっふにぃ……ポクは神の使いでふよ。何でも出来るでふ! 凄いでふ!』


 あからさまに調子に乗ったフー二は放っておいて、私は再び液晶に目を移した。すると亮太が、見覚えのあるものを手にしていた。


「あれは……」


 よく見ると亮太が小学生の頃に、図工で作ってきた腕に似ているわ。

 異世界だと、あんなふうに変換されるのね。

 鉄で出来てるけど似ている……。


 ――母さん! これ、ガッコで作ったんだ。あげる!


 そう言って、何層にも重なったダンボールをガムテープで固定した、継ぎ接ぎだらけの腕を嬉しそうに見せてきた。


『そういえば、リョウコちゃんが持ってきた物の中に、ゴミのようなのが紛れ込んでいたでふ。でもそのまま送ったでふよ』

「そう……」


 私は懐かしい気持ちで微笑みながら、液晶に目を移した。




 ۞




「換金アイテム……か?」


 俺は、継ぎ接ぎだらけの鉄の腕を試しにと、左腕に近付けた。すると、自動的に継ぎ接ぎ部分が左右に開く。

 腕の中は全体が柔らかい皮で出来ていて、腕の形にフィットするようになっている。俺は何の迷いもなくそれを装着した。

 元から、俺の腕に合わせて設計されたかのように着け心地がいい。それに、なんだか強くなった気までする。


〈装備を獲得しました――ガントレット〉


 アナウンスが聞こえる。

 俺はすかさずステータスを確認すると、名前が"継ぎ接ぎだらけの鉄の腕"から、"ガントレット"に変わり、装備欄に表示されていた。


 俺は満足げにステータスを閉じると、そのまま商店街通りへと歩みを進めた。

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