第1章 そして冒険者へ
3話「そして転生」
「リョウくん、何ボーッとしてるの?」
「あ、あぁ……何でもない」
目の前の空間には、半透明の水色の文字列が浮かび上がっている。これが俺のステータスだ。
指で空間を右にスライドさせるとステータスを開く事ができ、左にスライドさせると閉じる事ができる。
俺はステータスの全ページを確認するが、何も変化はなく、何かが届いている様子もなかった為、肩を落としながらステータスを閉じた。
支援者ってスキル選んだはずだけど、まだ何のギフトも来ないのか? そろそろ来てもいい頃だ。
それにしても、支援者が誰かは未だにわからないが、いったい誰なんだ?
十六年前――
俺、
『あなたは死にました。新たな人生を歩みますか?』
優しく包み込むような声で目を覚ました俺は、ゆっくりと体を起こすと同時に辺りを見渡す。
すると、一面真っ白な空間に一人の女性が立っていた。
「ここは……」
俺がそう呟くと、その女性はマニュアル的に同じ言葉を繰り返した。
録音された声なのかと思う程に、声色を一切変えず、表情すらピクリともしない。
気味の悪さすら感じた。
「あんた、誰なんだ? ここはどこだ?」
また同じ事を言われる前にと、半ば焦りながら言葉を発した。
『あなたは死にました。新たな――』
「もうそれはわかったって! しつこいな……」
しかし女性は、またもや同じ事を言おうとした為、途中で遮り強く当たる。
女性を見上げると、ようやく口角をほんの少しだけ上げて口を開く。
『答えて頂けないので聞こえていないのかと』
俺はこの女性に何かしたのか?
そう思う程に冷たい口調で言い放った。
だから俺は、半ば投げやりに言い返したんだ。
「だから聞こえてるよ。名前くらい名乗ったらどうなんだ? それに、新たな人生ってなんだよ?」
すると女性は、淡々と業務をこなすように俺の目の前の空間に、半透明の水色の文字列をズラっと並べた。
そしてこう言った。
『私は
嘘だと夢だと思いたかったが、これまでのやり取りや、現在起こっている事が、事実だという事を物語っていた。
「一つ聞いていいか?」
俺は唐突にそう言った。
目の前の空間に出された文字列を避けるように、左側に重心をかけ、四女神サリアと名乗る女性の顔を覗き込んだ。
『なんでしょうか』
「新たな人生を望まない場合、どうなるんだ?」
四女神サリアは一呼吸置くと、唐突に冷たい声色で語る。
『死という概念がない、あなた一人の世界をここで、永遠と生きて下さい。何億年と、誰にも干渉する事もされる事もなく、たった一人で生きて下さい。ただ、"無"という時間を、限りがない時間を生き続けて下さい』
四女神サリアは、眉一つ動かさず、真剣な面持ちで俺の瞳を見つめた。
四女神サリアの目は……死んでいた。瞳の輝きは失われ、淡々と業務をこなすロボットと化しているようだった。
恐怖を感じた俺は、早く終わらせたい。この場から去りたいとすら思うようになった。
「ゆ、ユニークスキル? だっけ……これは、ど、どんなスキルなんだ……?」
俺は最初に目に付いたスキルを指さし、四女神サリアから目を離さないように、恐る恐る聞いた。
『支援者――他者から支援を得られます。支援者によりあなたに時折ギフトが贈られ、ギフトによりあなたは強くなります。ただ……』
「じゃ、じゃあ、それでいい!」
俺は、半ば適当に、話を最後まで聞かずに決めてしまった。
『ユニークスキル"支援者"……登録完了しました。変更は受け付けません』
俺の目の前から文字列が消えた。
『それでは転送致します……よい人生を』
そのスキルにはまだ続きがあったんだ。
――ただ、自分一人では成長が出来なくなる。
という、重い枷付きだったんだ。
そして俺は無事転生し、ラリアー家の母アリーと父ルークの元に、リョウという名前で誕生した。
一人息子として大切に、何不自由なく育てられた。
隣人のマリア家とは親同士が仲が良く、一人娘であるミナとはよく遊んでいた。
俺たち家族で出掛ける時は、必ずと言っていい程ミナも一緒だった。ミナの父親は仕事が忙しく、よくラリアー家に預けられていたんだ。
そして、五年、十年、十五年、俺たちは共に成長してきた。いつしか、ミナは俺の大切な存在になっていたんだ。
月日はあっという間に流れ、二度目の十六歳の誕生日を迎えた。
「かんぱ~い」
俺は今、酒場にいる。
この世界では、十六歳になると大人として扱われ、冒険者になる為の許可が得られる。
冒険者ギルドへの登録は済ませたが、俺たちはまだ最低ランクのDランクにすら到達していない駆け出し。
正式な冒険者になる為の試験を、やりに行く途中だったんだ。
だがその前に……前祝いだ。
俺の隣には、桃色の髪の色白な女の子……ミナが、いい匂いを漂わせ座っていた。
ミナとジョッキを酌み交わしながら、ふと、幼い時の事を思い出した。
ミナの母親は幼い頃に病気で亡くなっている。泣きじゃくるミナの震える体を、小さな腕で精一杯抱きしめた。あの時の事は今でも覚えている。
そのすぐ後だったな、あの約束をしたのは。涙と鼻水でぐちゃぐちゃの笑顔を俺に向けたんだ。
そしてミナはゆっくりと小指を出し、俺はその指に同じく小指を重ねた。
――ミナは最強の治癒士に! リョウは、最強の騎士になるの! 二人で最強の冒険者! ヤクソクだよ!
世界中を回って、病気の人や困ってる人を助けたい。それがミナの願いだった。
俺はこの時、誓ったんだ。
――俺がミナを守る、と。
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