第33話 【ユメノミライ】

俺はキラメ達と別れウィリアムさんのいる場所へと戻ってきた。


「お!夏さんお話オワリましたか?」

「ああ、しっかりと話し終わったよ。それでこっちはどうなったんだ?」

「コチラはデスね」


そう言ってウィリアムさんから俺が居ない間に、再度海斗が暴れ回り警備長の顔面を殴ったが、それをモノともせずに警備長が片手で海斗の事を担いで、「コイツを警察に突き出してくるから、おまえらもさっさと持ち場に戻れよ」と声をかけて来た事を聞かされた。


「そうだったのか、どうりで戻って来た時に警備長と海斗の野郎の2人がいないと思ったよ」

「私も海斗さんが急に警備長さんに殴りかかった時はビックリしましたよ。それと夏さんもう一つ気になったコトがありまして」

「気になった事?」

「ハイ、実はですねサッキ海斗さんが暴れた話をしましたけど、その途中から海斗さんが右手を痛そうに押さえ込んでたんです。まぁそのおかげで警備長さんが楽に海斗さんを連れて行けたんですけど……ってどうかしましたか夏さん?」

「あ!いや別に何でもないぞ。それより俺たちも早く持ち場に戻らないと不味くないか?持ち場を離れてからもう10分以上は経ってるだろ?」

「oh!それもそうデスね!私たちも早く戻りましょう!そろそろカネコちゃんの出番なんです!」


ウィリアムさんは近くにあった時計を見てそう言うと、廊下をその鍛え抜かれた身体の全速力であっという間に駆け抜けていった。


その様子を見ながら俺は、そういえば海斗の腕を握っている時にミシミシって音が聞こえていたのを思い出して、額に少し嫌な汗が流れた。


そんな風に俺が少し考えていたせいで立ち止まっていると、廊下の端からウィリアムさんが大きな声で俺の名前を呼び、そこでいちいち俺があんな奴の為に思考するのは無駄だと思い、ウィリアムさんにすぐ行くと声をかけて俺も走り出した。


そうして持ち場に戻った俺とウィリアムさんは、以前よりも少し真面目に周りを見回ったりしながらもライブを楽しんだ。


そんなこんなでその後何事もなくライブは順調に進み、先程ライブ最後の曲の全体曲を全員で歌い終えた。


その瞬間会場からは鼓膜が破れるほどの歓声や拍手が鳴り響いた。

俺もそれに釣られる様に大きく拍手をした。


そんな中俺の隣からこの会場内で1番でかいのではないかと思う声でブラボー!!と言う声が聞こえ、少し笑いそうになりながらも俺は隣を見るとそこには、目から滝の様な涙を流しながら、どこから出したのかわからない金城カネコの顔がプリントアウトされたうちわを大きく両手で振っており、そこで俺はウィリアムさんのその行動に我慢できずに吹き出してしまった。


その後は会場が一旦歓声は静まり返り、それから少し立った後どこからかアンコールと言う声が聞こえ始めた。


その声に釣られる様にして会場内からは、一つまた一つとアンコールを望む声が聞こえて来た。

次第にその声は徐々に大きくなると、あっという間に会場内をアンコールと言う声が支配した。


もちろん俺やウィリアムさんも周りと同じ様に手を叩きながらアンコールと呟いた。


そしてその声に応える様に再度ステージに光が灯ると共に一期生である星野キラメをセンターに、そレヲ挟む様に軍神ミリーと母出マミの2人が現れた。


それと同時に会場は先程とは比べ物にもならない声量の歓声で包まれた。


「みんな!アンコールありがとう!それじゃあそのアンコールに答えれる様に頑張って歌いたいと思います!聞いてください私達今の一期生の想いが詰まった一曲【ユメノミライ】」


キラメのその掛け声と共に会場にはイントロが流れ始めた。


それと同時に会場内が少しざわつき始めた。


それもそうだろう。

何たってこの曲は二期生達がデビューする前の曲、つまりまだ俺がまだユメノミライのメンバーだった頃の初のオリジナル楽曲で、例の事件があってからは運営が俺の痕跡を消す為に削除された楽曲でもある。


なのでそもそもがこの曲を知っている者がごく僅かで、更にこの曲内には俺たち一人一人のソロパートがあり、今会場内では特にこの曲の存在を知っている者達が、お互いに小声でざわめきあっていた。


そしてそれは俺も同様で、まさかこの曲が歌われるとは思っていなかったので驚いたのと、それと同時によく上層部がこの曲を歌うのを許可したなと、そんな事が頭の中で埋めきあっていた。


そんな風に1人悶々と色々考えていると、隣にいたウィリアムさんから肩を叩かれた。


「ん?どうかしましたかウィリアムさん」

「すいません夏さん。少し気になったのですが公式に【ユメノミライ】って曲アリマシタか?私その記憶になくて、もしかして新曲ですかね?」


それを聞いてそう言えばウィリアムさんはユメノミライを二期生から、つまりは軌道に乗ってから知った事を思い出し、確かその頃にはこの曲が削除されていた事を思い出し、俺は深い事情は話さず昔にあった曲だよと簡単にこの曲の事を説明しておいた。


するとウィリアムさんは、なるほどと納得したと共に俺の事をユメノミライの古参ファンと勘違いし、尊敬の眼差しを向けて来た。


その目線に少しむず痒い思いをしながらもキラメ達のいるステージの方を見ていると、何か少し違和感を感じた。


だが歌も俺のいた4人の頃からしっかりと3人用に変更された歌詞割りで歌っており、ダンスに関したら俺は一度も踊ったことが無いので何とも言えないのだが、しっかり3人でまとまっている様に見える。


だがそんな中ステージを見ていると時たま、何か足りないと感じる部分がありその違和感が気になり少しモヤモヤとしていると、1番の難所と言うか問題点のソロパートに突入した。


そこは元々原曲時点でキラメが「曲の中でメンバーがひとりひとり話すパートが欲しい」と言い出したせいで歌詞が存在せず、当時の俺達はこの曲を歌うたびに自分に割り当てられた時間に何を言うかを、いちいち考えなければならなくなり、いい案が出なかった時で1番酷かったのは、全員が「あ〜」とか「え〜」とか呟くだけで終わった事もあった。


そんなソロパートを3人がどう乗り切るか、それと同時に久しぶりに聞いた曲に昔の記憶が呼び起こされ、少し懐かしさを感じながら聴くことにした。


「みんな!今日は私達ユメノミライのライブに来てくれてありがとう!こんな大きな会場でライブをする事は初めてですごく緊張したし、それに見合う様に私達もいっぱいいっぱい練習したから、みんなも楽しんでくれてたらすっごくすっごく嬉しいです!はい、次ミリーちゃん!」


そう言ってセンターだったキラメが横へと捌けると、その代わりにミリーがセンターへと移動してくると、息をスゥっと吸って話し始めた。


「先程キラメ殿が言っていた通り我々はこの舞台へと立つ為に色々努力して来た。それは単にこのライブの為の練習だけではなく、我々ユメノミライがこの会場にライブができる様になる為の知名度向上の為の、日頃の配信活動などもその一つだ。そしてそれを支えて来たのは他でもない貴様らファンの声だ。その事をしっかりと覚えて帰ってほしい。それとノマド!私のシュークリームを勝手に食った事絶対許さないからな!マミさんよろしくお願いします」


そう言ってミリーはマミさんに頭を下げると、キラメと同じく横へと移動すると、マミさんが軽く手を振りながらセンターへと移動して来た。


「ふふふ、久しぶりなんだけど改めてこのパートって何だか少し恥ずかしいのよね。えーっと話す事よね……。そうそう、そう言えば皆さんノマドちゃんとカネコちゃん2人のダンスと歌どうでしたか?あの子達、特にカネコちゃんは最初こそロボットなのかなって思うほどカクカクなダンスだったんだけど、専属の先生をいっぱい付けて人一倍ダンスのレッスンしたおかげで、最終的には私はすっごくよくなってたと思うの。皆さんはどう思いましたか?」


マミさんが俺たちに対してそう聞くと、皆は各々でよかったやうまかったなどの言葉を呟いた。


それを聞いたマミさんはふふふと嬉しそうに笑い、続きを話そうとしたところで、持ち時間が終了してそれと同時に少し離れていた所にいたキラメとミリーが、中央に近づきマミさんの肩をトントンと軽く叩いた。


そこでマミさんは持ち時間が終了したことに気づき、少し話し足りないという顔をしながらも2人の顔を見ると、3人はお互いの顔を見合い息を吸った。


「「「それじゃあ最後はホムラくん(サー)よろしくお願いします!」」」


そう言うと3人は何も無い空間に手をやり、あたかも他の誰か4人目がここにいるかの様に振る舞った。


それと同時に俺は今までの違和感の正体に気づくことができた。


今まで3人が歌っている時やダンスをしている時に、たまに何かが足りない様に感じた違和感は、そのまま本当に1人足りないことに気づいた。


俺はてっきり4人用の曲を3人用に変えて歌って踊っているものだとばかり思っていたから、ずっと何処となく違和感を感じていたが、3人はこの曲を3人用に変えたのではなく、俺が抜けていても曲として成り立つ様に歌詞割りを考えたり、振り付けを考えたのだと今になってようやく気づくことができた。


だがこんな物俺か、それこそユメノミライを本当に初期の初期から知っている人しかわからない様なことで、今のユメノミライのファンのほとんどは最初期の事を知らない為、会場は少しざわついていた。


そんな様子を見て俺は3人の俺への気持ち知り、少し目頭が熱くなったのと同時に、自分が3人の足を引っ張っていることがすごく悔しく、そして何より恥ずかしかった。


その後3人は何事もなかった様に続きを歌い始め、それを見ていたファンのみんなも少し困惑しながらも、3人が何事もなかったかの様に歌い踊っている姿を見て、同様に何事もなかったかの様に再度盛り上がりを見せ、ユメノミライの初ライブは大成功の3文字がピッタリな程の成功を収めて無事終了した。

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