第30話ライブ開始

ユメノミライのライブの列整理を始めて30分、長身イケメンの外国人という事でウィリアムさんの周りに少し人が集まっており、それに巻き込まれて状態で俺達2人は数少ない女性ファンに囲まれていた。


「いや、だから何度も言っていますけど、写真などは困ります」

「コマリマス」


俺とウィリアムさんがお客様に詰め寄られて困っていて、海斗さんに助けを求めようと海斗さんの方を見ると、何と列整理もせずに木陰に腰掛けて休んでいる様子が見てとれた。


いや海斗さんせめて仕事はしろよ!


そんなこんなでその後も海斗さんは一向に仕事をしようとせず、俺は顔のせいでまた問題が起きると面倒だと思ったので、顔が見えないほど帽子を深く被りながら1人で3人分の仕事をし、ウィリアムさんはその後も何度も女性客に声をかけられ続けて使い物にならなかった。


そうして俺が1人で仕事を回していると、あっという間に時間は過ぎライブ会場が開きゆっくりだが客も会場内に入って行き、俺たち3人もそれに続く様にと会場の中へと入っていった。


会場に入る際に俺はウィリアムさんに、流石に会場内であんな事を起こされたら流石に迷惑なので、帽子を深く被る様にお願いした。


そうして会場の中に入った俺達3人なのだが、やはりというか案の定と言うか、海斗さんは早々に俺達の持ち場に着いた途端壁際に移動すると、そこでしゃがみ込みスマホをいじり始めた。


流石にバイトとは言えお金が入ってくる以上、俺たちが今やっているのは歴とした仕事だ。


それを堂々とサボるのは流石に俺も見過ごせなかったので、海斗さんに仕事をする様に言ったところ、海斗さんは静かにチッと舌打ちをしてその場から立ち上がり、その辺を適当に歩き始めた。


それを見て俺はようやくやる気を出してくれたのかと感心したのも束の間、俺から少し離れた場所に移動した海斗さんは先ほど同様に、壁際に移動するとその場でしゃがみ込みスマホをいじり始めた。


流石の俺もこれにはムカつき、こう言う輩はいくら言ったところで無駄な事は、自分のリスナーを見ていてわかっているので、バイト終わりに警備長に告げ口をする為の証拠の為に、俺はバイト中に堂々とスマホをいじりながらサボっている海斗さんの姿を、自分のプライベート用のスマホで撮影した。


その様子を見て何をしているのか気になったウィリアムさんが俺に声をかけて来た。


「夏さんナニをしてるんデスか?」

「ああ、後で警備長に海斗さんが仕事もせずにサボってたことを告げ口する為の証拠集めですかね」

「オー!それはナイスなアイデアですね!」


そう言うとウィリアムさんも自分のスマホで、サボっている海斗さんの姿を撮影し始めた。


そうしてその後も海斗さんは堂々とサボり続け、俺とウィリアムさんで海斗さんの分も見回りを続け、そしてついにその時はやって来た。



先ほどまで明るかった会場の電気は一気に消え、周りは真っ暗の暗闇に包まれた。


だが、それに恐怖するものなどこの場に1人もいなかった、逆に会場は電気が消える前まではあったちょっとした喧騒も無くなり、この場はしんと静まり返った。


だがその静寂も長くは続かなかった。


暗闇と静寂が支配する会場の真ん中で、この会場にいるものなら何度も聞いたことのある、ユメノミライが始めて出したオリジナル曲『夢と未来』のイントロと共に、会場の真ん中に設置されている機器により、見覚えのある6人のアイドル衣装を見に纏った姿が映し出されると共に、先ほどの静けさは何処へいったのかと思ってしまうほどの歓声で会場は溢れかえっていた。


「カネコちゃーん!!」


もちろん俺の横にいる長身イケメンで制服を着込んだ男性も、他の客に負けじと自分の推しの名前と、何処からか取り出したのかわからないサイリウムを両手に持って、今がバイト中と言うことも忘れて盛り上がっていた。


まぁこのライブを見にわざわざアメリカから日本にやって来たんだ、流石にずっととはいかないが今は特に問題も起こってないし、ウィリアムさんの分も俺が周りを警戒していれば大丈夫だろうと思い、俺は軽くみんなの頑張っている姿を見て、自然と笑みを浮かべながら不審な動きをしている人はいないかと周りの監視を始めた。


その際ついでに海斗さんの様子も見にいったのだが、ライブが始まってもなを仕事をするでもなく、今までと変わらずスマホをいじり続けていた。


その様子に俺は怒りを超えて呆れ果ててしまった。



「みんなー!今日は私達の初ライブを見に来てくれてありがとう!」


一曲目の『夢と未来』を一期生と二期生全員で歌い終えると、一旦キラメを除いた他のメンバーが画面?と言うかホログラムと言うか、どう言う原理で映し出されているのかわからないが、舞台の上から手を振りながら消えていった。


そして舞台の上に1人残されたアイドル衣装の星野キラメがそう言うと、その様ず周りで見守っていたユメノミライのファン達は一斉に各々が、その問いかけに思い思いの返信を返した。


「わーみんな応援ありがとう!それじゃあそろそろ時間だから次の曲いってみよう!」


キラメがそう言って握り込んだ手を上に勢いよく振り上げた瞬間、舞台の上に勢いよく黙々と白い煙が立ち込めるとキラメの姿は見えなくなり、その次の瞬間爆音と共に俺を除いた一期生全員が再度登場して歌を歌い始めた。



その後も色々なメンバーが様々なコンビで歌ったりしたりしており、その中でこの前まで喧嘩していたノマドとミリーが仲良さそうに歌っているところを見て、俺は2人がしっかりと仲直りできていることに安心した。


そんなこんなで俺もウィリアムさんと同様に途中から、今がバイト中だったと言うことを忘れライブを楽しんでいた。


そうしてライブを純粋に楽しみ始めて約30分後、ライブでは今は歌ではなくMCパートに入っており、メンバー達が楽しそうにいつもの配信の様に話しているところで、俺はようやく今自分がバイト中だった事を思い出した。



……やっちまった!普通にすごかったから純粋にライブを楽しんでしまった!


そんな事を考えながらも俺は自分がライブにかまけて周りの監視を怠った内に、なにも問題が起きていないかを確認するために急いで、自分達が任されている担当エリアをぐるりと一周した。


そこではさっきまでの自分と同様に周りの目も気にせず、ライブを純粋に一生懸命応援しながら楽しんでいる大きなお友達が多くおり、特段不審な動きをしている客の姿もなかったので、俺はホッと一息ついてからウィリアムさんの所に、そろそろしっかりと仕事をする様に伝えにもといた場所に戻っている所で、俺は一つの違和感を覚えた。


「あれ?海斗さんは?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る