第8話:リベンジと家族


「ふん、ふんふん」


 体がリズミカル揺れる。

 外の景色は新鮮で、このまま遊びに行けたらいいのにと思った。


「ご機嫌だね」

「うん! 本当はね、ずっとこうしたかったからすごく嬉しくて」


 しかし学校が近づくにつれリサの足取りが重くなっていく。


「気が重い?」

「……うん」


「大丈夫!」俺はリサの腕から抜けて拳を構えた。


「俺が付いてる!」

「うん!」






「先生~、リサさんじゃ訓練にならないから相手替えて下さいよ~」


 座学を終え、戦闘訓練の時間だ。

 リサの相手役の少年が面倒くさそうに言った。


「今度は大丈夫だから」

「いやいや、そんなこと言われてもこっちにとっては時間の無駄なんだけど」


 リサは少年の言葉を無視して構えた。


「今度は簡単には負けないから!」

「ふーん、まあいいけど」


 少年のパートナーはゴブリン種。

 ゴブリンは八級。

 知力は低いが好戦的で体力が優れている。


「では、初め!!!」


 ついに俺の戦闘デビュー戦だ―――




「いててっ」

「大丈夫? 魔力いる?」

「お願いします」


 俺たちは負けた。

 敗因は俺に攻撃力がなさすぎたことだろう。


 やはり突きが少し様になった程度では、二級分の差を覆すことはできなかったのだ。


「次は勝つ!」と俺が意気込んで、

「はいはい、期待してるから今は休んでなさい」とリサが笑う。


 だけどリサが悲しそうな顔をさせていないだけで、俺にとっては実質勝ちみたいなもんだ。


 いつか本当に勝って二人で喜び合える日がくればいいなと思う。






 俺が喋れるようになったあの日から、リサが泣くことはなくなった。

 相変わらず戦闘訓練では勝てないし、俺に劇的な成長があるわけでもないけれど。


「リサどうしたの? そんなソワソワして」

「し、ししししてないよ! いつも通りりゃから!!」


 そんな今日この頃、どうにもリサの様子がおかしい。

 おでこに手を当てるが体調が悪いわけでもなさそうだ。


(なんだなんだ、まさか恋煩い?)


 いやいやリサに限ってまさかと、思ったその時



 ぞくり、



 と震えあがるような巨大な魔力を近くに感じた。


(は? さっきまで何も感じなかったのに! なんだ急に?!)


 すると玄関からお母さんの声がして、魔力が家の中を通ってリサの部屋に近づいてくる。


(何が出てきても盾にくらいはなってやる!)


 俺は密かに決死の覚悟を決めた。


 扉がノックされ「どどどどどうぞ」とリサが言ってしまい、扉がゆっくり開かれた。


「やあ、リサ。 久しぶり」


 軽いノリで現れたのは優しそうな男性だった。


「リサ、知り合い?」


「へー、君がリサのパートナーか」


 彼は俺を品定めするように見つめて、笑みを深めた。


「僕はリサの兄のフロラド、よろしくね」


「ええええええ!?」


 まるで怪物みたいな魔力の持ち主はリサの家族だった。


(ん? じゃあリサのこの落ち着かなさは、乙女みたいなキラキラした瞳はなんなんだ?!)


 正体を知っても疑念は深まるばかりである。


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