第6話:戦う理由

(ああああなんで呼んでくれないのおおおお)


 理由は色々と思いつく。

 俺を傷つけられたくないから。

 周囲に馬鹿にされるから。

 居ても役に立たないから。


 何が真実かは分からないけれど、どれも事実で嫌になる。


(はあ、最近元気なさそうだし。 はあ)

「が、頑張って強くなったらいいんじゃない?」


 俺のため息に、フォレストドッグが言った。

 彼は俺と同い年のパートナーと契約した精霊、つまり同期ということで仲良くなった。


 彼は七級精霊だが、控えめで人見知りなため他の精霊と馴染めなかったらしい。


 だから最近は彼、レストとよく一緒にいるようになった。


(そうなれたら苦労しないっての!)

「ご、ごめん! でもそんなに会いたくなるくらい仲良しなんて羨ましいなあ」


 彼曰く、普通は訓練や戦闘の際に呼ばれ、終わればハイサヨナラというのが普通らしい。


「僕も人間界のご飯食べてみたいなあ」

(ハートフルじゃなくて食い気かよ!)


 強くならないと学校では呼ばれない。 一緒にいる時間も減るし、もっと人間界を見て回りたいし、助けになりたいとも思っている。

 俺に何が出来るかなんて思いつかないけれど。


(なあお願いがあるんだけど)


 レストにしかできないとても大事なことだ。


(リサの様子見てきてくれ! 頼む!)

「えええ!? 無理だよお」

 

――


「精霊召喚しなくていいのか?」

「必要ありません」


 少年と少女の模擬戦闘訓練だ。

 少年の横にはゴブリンが醜悪な笑みで棍棒を構えていた。

 しかし少女は一人ぼっち。


「早く始めてください」


 戦いはすぐに終わった。

 地面に這いつくばる少女と、つまらなさそうにそれを見下ろす少年。


 少女自身の能力は少年よりも高く見えた。

 しかし二人相手に出来るほどではない。 もしも彼女の戦闘を手助けできる存在、精霊がいれば彼女と彼は逆の立場になっていただろう。


「あのさ。 魔女とか呼ばれて勘違いしてるみたいだけど、召喚なしとか舐め過ぎだから」

「必要、ない、か、ら」

「必要ないじゃなくてできないんじゃないの? 十級のミミックなんて役に立たなくて、恥ずかしいから」


 少年が言った瞬間、少女の魔力が膨れ上がった。

 離れている僕の背中がぞくりと震えた。


(この魔力、怖い)


「……せ」

「は? なに?」


 ボロボロだった少女はゆらりと立ち上がる。





「取り消せ」





 魔法ではない。

 言葉の魔力だけで、さっきまで囃し立てていた野次馬が静まった。


「お、俺は間違ったことなんか」

「もういいよ」


 怯えた様子の少年に吐き捨てるように言って、少女は突っ込んでいく。


 ゴブリンがパートナーを守ろうと棍棒を振るうが、少女は狂戦士のように振り切った。 そして少年を張り倒し、馬乗りなって


 ぼこっ、


 ぼこっ、


 ぼこっ、


 ぼこっ、


 生々しい殴打の音が響く。

 教師が慌てて止めに入り、戦闘は終わった。


(に、人間こわいよおおお)


 僕は逃げるように精霊界へ戻るのだった。


――


「ということがあってね。 ぼ、僕はもう怖くて怖くて」


 震えあがる精霊にお礼を言いいつつ、俺はリサとの日々を思い浮かべる。


 勉強が好きで、俺が何かに興味を示すと嬉しそうに教えてくれた。


 野菜が苦手で親に隠れて俺の皿に移していたことがバレて、二人で叱られたこと。


 嵐の夜は雷が怖くて俺を抱きしめながら震えていたこと。


 初めて会った時、彼女が言った心からの「ありがとう」


 優しくて、勉強が好きで、魔女と呼ばれている、ただの普通の女の子。


 そんな鬼のようになった彼女は家に帰ると泣いている。


 相手はクラスメイトだとしても元の原因は、、、、


 もしも強くなれたら彼女は泣き止むのだろうか。


 もしも強くなれたら彼女は鬼にならずに済むのだろうか。


 もしも


 もしも


(だったらもう逃げてる場合じゃないだろう、俺)


 彼女は俺を守る言った。


 じゃあ誰がリサを守るんだ?

 彼女自身?

 いや、違う。


(俺、強くなるから)


 俺はその日、かつて逃げ出したあの場所へやって来ていた。


「何をしに来た」

(強くなるために)

「何のために」

(想ってくれる人の涙を止めるため)

「良かろう。 ならば拳を構えろ」

(はい!!!!)


 俺はもう諦めない。

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