第4話:少女の夢
村の教会へ子供たちが集められた。
いつもは騒がしい男子も静かに神父様の話を聞いていて、現金なものだと思う。 しかしそれも仕方がないことだ。
今日、行われる儀式によって私たちの人生が良くも悪くも決まるのだから。
「これより精霊との契約の儀式を始めます」
精霊との契約。
古より、人々は魔力を代償に精霊の力を借りてモンスターと戦い、戦争をし、文明を築いてきた。
契約できる精霊は一柱のみ。
変更をすることはできず、人間は相手を選ぶことができない。
強い精霊と契約できれば、国からスカウトが来ることもある。 逆にハズレと言われる精霊と契約することになってしまったら、かなりのハンデとなるのだ。
(絶対一級の精霊と契約してやる)
私には夢がある。
憧れる兄のような冒険者となって世界を見て廻るという夢が。
それを叶えるには力が必要なのだ。
そのためにずっといい子にしてたし、勉強だって頑張ったし、お祈りだってかかさずした。 きっと大丈夫、私はそう自分に言い聞かせて儀式へと臨んだ。
儀式は個室で行われる。
真っ暗闇の中で、契約が成されるまで食事も睡眠もせず精霊に語り掛け続けなければならない。
そして私は部屋に入ると、膝をついて強く願う。
願う。
願う。
願う。
どれだけの時間が経っただろうか。
もう膝が痛みを通り越して感覚がなくなった。
お腹が空いた。 少しだけ眠い。
この儀式は日を跨ぐほど時間がかかる場合もあるというから気長にやるしかない。
不安はまだない。
(大丈夫、大丈夫)
他の人は儀式を終えただろうか。
あとどれだけ続けなければならないのだろうか。
精神的にも、肉体的にも辛くなってきたがやめるわけにはいかない。
(私には夢があるから)
聞いた話によると、精霊と契約できない人はほとんどいないらしいから大丈夫、、、
(大丈夫……だよね?)
しかし無情にも時は過ぎた。
体が疲れと睡魔でふらつく。 脳裏にやめちゃおうかな、なんて甘い考えが浮かんでは何度も振り払った。
――聞こえますか
――誰か、お願い、答えて
誰も答えてくれない。
(私は失敗するの?)
みんながパートナーと戦う中、一人ぼっちの自分を想像した。
(いやだいやだ、一人は嫌! もう上級がいいなんて我が儘言いませんから)
――誰か
――お願い
――苦しい、もうやめたい、諦めたくない
――誰か、誰か、だれか
必死の願いは虚しく脳裏に反響していく。
――おね、がい
(あ、体に力が入らない……)
自分の体が地面に吸い寄せられるかのように倒れていくが、抵抗することができない。 もう限界みたいだ。
(あーあ、終わっちゃった)
そう思った時、目の前が眩い光に覆われた。
そして現れたのは私が抱えられるくらいの簡素な宝箱だった。
(十級精霊ミミックだ)
不思議と落胆はなかった。
ただ安心と、歓喜と、愛しさで胸がいっぱいになって、
「ありがとう」
振り絞った力でなんとか言葉を紡ぎ、満足した私は安心して瞳を閉じたのだった。
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