第15話 「大変」

 「……そうだったのか。 君も大変だったな」


 イルバンと名乗った獣人は同情を滲ませた声で何度も頷いた。

 世界迷宮から出て来たという話を割と早い段階で信じて貰えたのはありがたかった。

 何故ならバリケードの破損が内から外に向かっているからだ。


 外から破ったのならこのような壊れ方はしないという事で、俺は事故で迷宮に放り込まれた憐れな被害者だと証明できた。 行くところもないので保護という形で現在移動中だ。

 歩きながらこの世界の事情についても教えてくれた。 この世界は非常に狭く、巨大な大陸が一つだけで中央の緩衝地帯である大砂漠を挟んでこの国と人族の国が睨み合っているらしい。


 人族というのはそのまま人間の事で、それ以外は魔族と括られている。

 分かりやすくて良いな。 こちらは大陸南端の魔族の国になる。

 人族は魔族を憎んでいるらしく、滅ぼさんと現在戦争中で砂漠で派手に戦っている最中だ。


 そんな中、唐突に俺みたいなのが現れれば警戒もされるよなとイルバン達の反応も理解できる。

 ただ、魔族の方が懐が深いのか、様々な種族が住んでいるからか人種的な偏見や差別意識は薄いらしい。

 イルバンの話では少ないが人間の住民もいるとの事。 数では負けているが身体能力など、個々人の武勇では人間を圧倒している魔族側はやや優勢に戦いを進めていたが一年前ぐらいから人族が召喚した勇者が現れた事で押し込まれ始めたのだ。


 ……例の勇者召喚か。

 

 俺と違ってチート貰って異世界で無双していやがるクソみたいな連中だ。

 巻き添えで俺はあんな地獄みたいな目に遭って、抜け出してみれば好き勝手暴れまわっている。

 実際はどうかは知らないが俺から見たらそうなので、可能であれば免罪武装の餌食にしてやりたい。


 「ユウヤ、君はこれからどうするつもりなんだ?」


 一応、俺の事情は既に話してあった。 勇者召喚に巻き込まれた事、魔法陣を介して呼ばれなかったので何の能力もない事。 ただ、どこまで信用していいのか分からなかったので免罪武装の事だけは濁した。

 どうするつもりか。 俺自身にもよく分からなかった。

 特にやりたい事はないので思いついたやる事を消化しようぐらいの気持ちだったので答え難い質問だ。


 「分かんないです。 一応、帰る手段を探そうかと考えてました」

 「帰る手段……何か当てはあるのか?」

 「ここに来る前に精霊とか言う奴が召喚に使った魔法陣なら送り返せるかもしれないって言っていたからそれを探そうかと思ってます」

 「あぁ、あの魔法陣ってそんな事も出来るのか……」

 「場所を知っているんですか?」


 俺の質問にイルバンはやや言い難そうに唸る。


 「あぁ、知ってはいるんだが、実を言うと結構前に壊れて使い物にならなくなってるんだ」


 ……何だって?



 聞けば随分前――もう数十年単位での昔に破壊されたらしい。

 どうも呼び出された勇者が碌なものじゃなかったらしく、内乱を誘発する程にやらかしたとの事。

 当時はまだ子供だったイルバンは詳しくは知らないようだ。


 ただ、はっきりしているのは以来、魔族側は勇者召喚は不可能になった事だけ。

 話が違うぞ精霊。 魔族か人間のどちらかに召喚されるんじゃなかったのか。

 あの球め、訳知り顔で色々と喋っていたけど既に破壊されている事を黙っていやがったな。


 怒りが湧くが免罪武装によって喰い尽くされ落ち着きを取り戻す。

 冷静になって考えるともしかしたら知らないのではないかと疑問が湧く。

 あいつの知識は一定の段階で止まっている? それとも俺に隠しておきたかった?


 何にせよあいつの言葉に嘘があった事は――いや、イルバン達が嘘をついている可能性もあるのか。

 

 「それでも何か手がかりがあるかもしれない。 場所を教えて貰えませんか?」

 「まぁ、誰でも知ってる場所だから教える事は出来るけどちょっと遠いぞ?」

 「構いません」

 「分かった。 後で地図をやる。 上に報告する為の書類も作る必要があるので、悪いがさっきの話をもう一度して貰う事になるが構わないか?」

 

 その程度で地図をくれるっていうのなら喜んで喋るよ。

 俺は分かったと頷いた。


 ――その後はこの世界の常識についてだ。

 

 聞けば結構、驚くような話が多い。

 まずは鑑定スキルだが、使える奴はかなり稀のようだ。 現地人ではだが。

 召喚された勇者は例外なく使えるらしいので、転生特典のチートって事だろう。

 

 逆にもう一つの言語を理解させるスキルは誰でも持っているのでこの世界には言葉の壁はない。

 これは少しだけ意外だった。 つまりこの世界の住民はどこの世界に行っても意思の疎通ができるのだ。

 会話ができると言っても、言語を操れる知能を持った生物だけなので動物――この世界では魔獣と呼ばれる生き物や虫などは無理のようだ。


 それ以外のスキル――剣術や魔術は生まれながらに授かっており、そこから発展していく形で派生スキルを習得するらしい。 ちなみに使用感は感覚的なものらしく、剣術とかも相手をこう斬りたいと意識すれば勝手に体が動くらしい。 本当にゲーム臭いな。

 

 ……それはそうと生まれた瞬間にスキルガチャをやらされるのか。


 まぁ、種族固有の能力は確定で持っているので魔族はそれを伸ばせばそこそこ成功するらしい。

 つまりは外付けで習得する事はできないと。 本当にクソみたいな格差がある世界だな。

 ただ、まったく望みがないわけではない。 魔法を発動する為の杖などを使い続けていると、稀に習得する事ができるらしいので身に着けられる事を信じて修練を積む者もいるとか。


 そこまで聞いて俺は免罪武装に意識を向ける。

 結構な回数使ったけど、何かを覚える兆候は見られない。

 カテゴリー的には魔法だと思うんだけど駄目なのかね? やっぱりどこの世界も才能が物を言うのな。


 やってられねぇよまったく。 内心でそうぼやきながら質問を重ねる。

 レベルについてだ。 今の俺のレベルは4985。 ステータスはようやく平均四万ぐらいだ。

 ちなみにイルバンのレベルは310。 ステータスは平均二万五千。


 何でレベルの桁が違うのにステータスの桁は同じなんだよ。

 元々、伸びないとは思ってたが、ここまで差が出るのか。

 レベルとステータスに関しては鑑定スキルを扱える奴がいないので分からないと答えられた。


 要は存在は知っているが認識できないので説明のしようがないとの事。

 一応、スキルを調べる為の設備はあるので見る事が不可能って訳でもないようだ。

 そうでもなければこいつ等は自分がどんなスキルを持っているか分からないだろうしな。


 何とも夢のない話だと思い俺は内心で溜息を吐いた。

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