第14話 「脱出」
「あれ?」
どれぐらいの時間が経っただろうか? もう、感覚が曖昧なので分からない。
ただ、目の前の状況には変化があった。 壁があったのだ。
脳裏で散々、歩き倒したこの階層の地図を広げる。 多分だが見逃した場所はないな。
「やったぜ。 マップコンプリート! ――はぁ……」
一通り回ったという事は敵討ちが終わった事を意味する。
本来なら達成感の一つも抱けるのかもしれないけど、今の俺にあるのは虚しさだけだった。
そしてやる事がなくなった事に対する虚無感が渦を巻くがそれも次第に消える。 次はどうしようか?
自らに問いかけると自然と上を目指そうといった結論に落ち着いた。
上はここの連中より更に格が落ちるようだし、突破だけならそう難しくはないだろう。
一応、元の世界に帰る方法も探しておきたいし行くか。
取りあえずやれる事があるならやっておくべきだ。 そう考えて俺は上へと向かう道へと足を向けた。
案の定と言うべきか。
やはり上の階層は下より格が落ちる。 出て来たのは水晶でできた虫みたいな奴らだった。
大きさにはかなりばらつきがあり、小型は一メートルあるかないか、大型は十メートル近い。
魔晶蟲ソフィエフカ。 魔晶蟲ペルチャー。
基本的にはこの二種類だ。 ソフィエフカはカマキリとバッタが合体したような形状をしており、壁などを跳ね回ったりする。 ペルチャーはカブトムシとクワガタが合体したような見た目をしており、頭部先端に衝角と呼べるほどの立派な角とその脇に巨大な鋏が付いていた。
ステータスは大きさに依存するらしく、見た目で大雑把な強さが分かる。
それでも下にいた連中と比べるとかなり見劣りした。
基準がグラニュールなので比べるのは酷な話かもしれない。
神晶のように圧倒的なステータスもなく、幻晶のように集団で襲っても来ない。
はっきり言ってこの階層は大した事なかった。 仕留めても大した経験値を持っていない上、アイテムもドロップしない。 とどめに特に何も思う所のない相手なので免罪武装を使えば使う程に赤字になる。
ここで戦う事は俺にとって何のメリットもないのだ。
その為、消耗を抑えつつ適当に相手をして突破を図る。
地形としての雰囲気としては他と変わらないが、決定的に異なっている点が一つだけあった。
天井――つまり上が見えるのだ。
まさかとは思うがここが最上層になるのか? だったら尚の事、さっさと抜けてしまうべきだ。
まだ見ぬ外の世界に少しだけワクワクした気持ちになった俺は少しだけ急いた気持ちで、鬱陶しく纏わりついて来る虫型を返り討ちにして先へ先へと進んでいく。
目当ての場所はそうかからずに見つかった。
いや、もしかしたら結構な時間が経っているのかもしれない。
無心で進み続けているのだ。 もう最後に眠ったのがいつなのかすらも思い出せない。
――何故なら眠っている間に番をしてくれるアルフレッドはもう居ないのだから。
だから俺はここで安心して眠る事はできない。
ここのモンスターは大した事はないが、俺の素のステータスで考えれば充分な脅威だ。
簡単に仕留められると甘く見てうっかり眠ってしまうと文字通り寝首を掻かれてしまう。
免罪武装のお陰で疲労は問題ないし、眠気も吸い取ってくれる。
敵を屠り、先へ先へと進んでいく。 立ち塞がる敵は全て免罪武装で滅ぼし俺は進む足を早める。
そうして見つけた物は小さな光――明らかにこの空間に満ちる奇妙な輝きではなく、日光のそれだ。
俺は思わず光に向かって駆け出した。 坂道を登り切ると全身に風が当たる。
風だ。 それすら懐かしく感じ、新鮮さを感じる。
真っ直ぐな道を走り、出口へと向かう。 そこはバリケードのようなもので塞がれていたが今の俺には関係ない。
こうして俺はこのクソのような迷宮から脱出に成功した。
最初に目に入ったのは眩しいぐらいの夕焼けだった。
振り返ると巨大な山が見える。 どうやらさっきの迷宮はこの山――というよりは連なっているから山脈か――の地下に存在していたらしい。 そんなどうでもいい事は思考の片隅に投げ捨て、俺は久しぶりに見た太陽の光に心を奪われていたが次第に興奮も冷めていく。
小さく溜息を吐くと俺は周囲に視線を向ける。
俺が居るのは広い草原で、少し視線を遠くに向けると丘が見えた。
後はあんまり開拓されていないような印象を受ける自然。 何をするにも情報が足りない。
一先ずは人里を探しさないと――俺は何の気なしに
特に何かを感じた訳ではない。 単純に迷宮でやっている索敵を手癖で行っただけだったのだが、無駄にはならなかったようだ。
「な、何だこの煙は!?」
「落ち着け! 風の魔法で吹き散らせ!」
少し離れた場所から声が聞こえ、隠れていたらしい連中が喚きながら姿を現した。
出て来たのは少し変わった見た目をしている連中で、黒っぽい肌に角の生えた者、人間離れした巨体に大きな一つ目。 狼と人間を足して二で割ったような奴と中々にバラエティーに富んでいる。
適当に鑑定をかけると種族と固有名称、ステータスが明らかになる。
名前があるって事は原住民って事でいいのか?ステータスは驚くような数字じゃない。
魔晶蟲より低いぐらいだ。 代わりにスキルの保有数が多い。
言葉が理解出来たので会話はできそうだけど、こいつらが信用できるかは別の話だ。
まぁ、隠れて近寄って来る時点でかなり疑わしくはある。
俺は姿を現した連中に
向けられた連中は立て直したのか応じるように持っている武器を構える。
「俺に何か用ですか?」
尋ねながらも返答次第ではいつでも放てるように矢を生み出して弦を引く。
「我々はこの近辺の警備を行っている者だ。 話し合う意思があるなら武器を下ろしてくれないか?」
先頭にいた狼男――鑑定結果によると名前はイルバンでいいのか?
そいつは持っていた手斧を腰のホルダーに収めて両手を上げて見せる。
他もそれに倣って武器を下ろす。 それを確認して俺も矢を消して
「まずは確認をさせてほしい。 君は見た所、人族のようだが何の目的で世界迷宮に近づいた?」
……近づいた?
それを聞いて何を言ってるんだと思ったが、バリケードを吹っ飛ばしたことを思い出して納得した。
こいつ等は俺を迷宮への侵入者と思っているようだ。
まずは誤解を解く所からか。 俺はどう説明したものかと考えながら経緯を話す事にした。
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