第13話 「根絶」

 バキリと水晶塊と化したイアベトゥスが砕け散った。

 

 「あぁ、ちょっとすっきりした」


 そう呟いた俺は内容とは裏腹に平坦な口調でそう呟いた。

 すっきりはしたけど、後にはマジで何も残らないな。

 イアベトゥスがただの水晶の塊になるのを見ても一瞬だけ気持ち良くなるが、即座に消える。


 ……で、問題なのは今、叩き潰したイアベトゥスが十体目だという事だ。

 

 ここまで殲滅を繰り返すといい加減、掘り出す感情も枯れ果てるかとも思ったがそんな事はなく不毛な感じはするにはするがモチベーションは衰えない。

 それだけアルフレッドが大事だったとも思えるが、それだけなのかとも思い、自分で自分が分からなくなる。 頭が痛くなりそうな悩みだが、悩む際に発生するもやもやした不快感すらも消えるので何が分からないのかすらも分からない。


 それでもやる事だけははっきりしているので俺は次の仇を探してこの迷宮を彷徨う事になるだろう。

 


 レベルはさっぱり上がらないが、武器のスペックは微妙に黒字だった。

 客観的に見ると俺はもう異常者の類なのだろうが、仇を滅ぼす度に免罪武装のスペックが上がっている事だけが数少ない救いだった。 増えるという事はそれは俺がアルフレッドを大事に思っていた証拠だからだ。

 

 この階層は端から端までさらうつもりなので途中に上への道を見つけはしたが今は用事がないのでスルーする。 気が付けばこの階層の連中では相手にならず完全に一方的な駆除作業と化していた。

 本音を言えばもうちょっとみっともなく命乞い的なアクションをして欲しいと期待したが、こいつらにはそんな上等な行動はとれないのかもしれない。


 幻晶と銘打たれた仇を作業のように屠りながら俺はステータスを確認する。

 レベルも上がらずスキル欄もほぼ空っぽ。 成長という点では頭打ちなのだろうが、わざわざスキル欄作ってるんだから何かあってもいいんじゃないか?


 俺の偏っている上に薄いゲーム的な知識で語るなら、熟練度を満たすと習得できる。

 剣を振ったりとかだな。 それとも下地になるような物を習得しないと駄目なのか?

 だったら空っぽの俺は最初からアウトじゃねぇか。 クソゲーといった単語が脳裏を過ぎる。


 後はアイテムで習得とかか?

 なんたらの秘伝書的な代物を使うとスキルを身に着け、後はそれを育てて派生技を覚えるとかだろう。

 そんな代物この迷宮のどこを探しても見当たらなかった。 どうでもいいけど、いや、良くないのだけど、ここって迷宮の癖に何で宝箱やドロップアイテムの一つも手に入らないんだよ。


 宝物庫だか宝物殿だかにあったのは免罪武装だけ。

 この指輪の鑑定結果を信じるなら他にも二つ似たような迷宮があってそこにも似たような性質の悪い武装が眠っていると考えると夢も希望もないと思ってしまう。


 免罪武装は強力だから頑張る価値はあるだろうと反論されそうだけど、デメリットが重すぎる。

 ついでに言うならあそこまで実力で辿り着けるような連中からすれば免罪武装とか普通に要らないだろ。 神晶帝を倒せる実力があるなら絶対にあんな武器拾わない自信があるぞ。


 進んで拾う奴なんて俺みたいな追い詰められて、必要に迫られた馬鹿だけだ。

 余裕ができた所為か色々と考えてしまう。 精霊の言葉、勇者召喚。

 そもそもこの世界の形すら満足に把握していないので、知らない事が多すぎる。


 ……勇者、か。


 手持ちの情報で考察できそうなのはそれだけだった。

 異世界転生のお約束、チートの配布も行ってくれるらしいので今頃その勇者様達は楽し気に異世界ライフを満喫しているのだろうか? そう考えると腹が立って来るな。


 即座に免罪武装に喰われるから怒りの感情はないけど。

 あの精霊は言った。 俺は勇者召喚に巻き込まれたと。

 そうそうないケースではあるが、縁が深ければあり得る事らしいとも言っていた。


 この場合、俺を引っ張り込んだのは誰だろうか?

 考えるまでもない。 あの場にいて俺を巻きこめそうな奴は一人だけだ。

 奏多。 あのクソ女。 まぁ、まだ決まった訳ではないが、この世界にあの女がいれば確定となる。


 そうなったら俺は間違いなくあの女を八つ裂きにするだろう。 怒りは免罪武装に食いつくさせたはずなのにまるでアレルギー反応のようにあの女の事はナチュラルに殺したいと思ってしまう。

 我ながら都合のいい話だとは思う。 日本にいた頃はあの女の言いなりで、逆らう気力すらもない腑抜け。 それが俺の正体だ。


 異世界に来て力を手に入れて、強くなった途端にそんなイキった事を考えるんだから本当にどうしようもない奴だな。 やる事は変わらないけどやっている事には溜息が出てしまう。

 取りあえずだがここを片付けたらさっさとこの迷宮から出て行こう。


 後は――出てから考えるか。

 歩きまわって気が付いた事ではあるがこの迷宮は結構な広さで、未だに端に辿り着かない。

 袋小路のような行き止まりはいくつか見つけたが、本当の意味での端っこには未だに辿り着いていないのだ。 ただ、下の階層に関しては話は別で、俺の初期配置である免罪武装のあった部屋が最奥となるので終点と言える。


 ……指輪をコンプしたら通れるであろう謎の扉はあったが。


 現状でマップの踏破率が何パーセントかは分からないけど、棲息しているモンスターの種類は概ね把握した。 

 幻晶弓兵ディオネ、幻晶槍兵テティス、幻晶歩兵フェーベ、幻晶騎兵ミマス。

 この辺は職種が違うだけで基本的にほぼ似たようなものだった。 鑑定した結果、弓術、槍術、剣術、騎乗という特性を活かす為のスキルは保有しているので、襲ってくる際は適当に振り回すだけという訳ではない。 他の共通点としては迷彩とかいうスキルを持っていたのでこれで姿を隠していたようだ。


 もっとゲーム脳を拗らせていたなら何の疑いも持たなかったが、スキル欄に文字が入っているだけで剣やら槍やらが扱えるようになるとかどうなってるんだこの世界は?

 ――で、残りの幻晶将軍イアベトゥスだが、こいつに関しては別格だった。


 さっき挙げた雑魚全てのスキルを保有しており、軍団掌握やら軍団指揮やらそれっぽい物をいくつも持っていた。 興味深いのは思考伝達とかいうスキルだな。

 俺の鑑定では字面以上の事は読み取れなかったので、配下に効率よく意思を伝える為の能力なのだろう。


 散々、ぶち殺しまくって感じた事だが、恐らくこのフロアはイアベトゥスを中心に群れのような物がいくつも形成されており、領地のように縄張りを持っているようだ。

 そこに足を踏み入れれば襲って来ると。 仮にそれが正しかった場合、俺はもう仇を討ち終わっている事になるが正解ではない可能性もあるのでやはり根絶やしは決定だな。


 免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディアの煙幕に引っかかった奴が出て来たので俺は始末するべく武器を振るった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る