第11話 「狂笑」

 最近は出し入れするのが面倒になってきたので両手に免罪武装Ⅵプルガトリオ暮者節制グラ免罪武装Ⅶプルガトリオ不純抱擁ルクスリア。 免罪武装は破壊不可能らしいから盾代わりに使うつもりだ。 身体能力的に武器は無傷でも使い手がぶっ壊れそうではあるが。

 片手には免罪武装Ⅲプルガトリオ朦朦悔悟イラ


 他は必要に応じて入れ替える。

 出してなくても免罪武装固有の能力は扱えるので振り回し易い剣が何かと都合が良かった。

 剣の振り方なんてさっぱり分からないから適当――というよりは完全に能力頼みだ。

 

 いくらレベルを上げても剣術とか弓術とか覚えないから振り回す武器としてはさっぱり扱えない。

 こういうのって剣振り回してりゃ熟練度的な物が上がって習得に繋がるんじゃないのか?

 ゲーム臭い癖にクッソ使えないシステムだな。 何が勇者召喚だよくだらねぇ。


 アルフレッドの仇を討って外に出たら帰る手段を探すのと並行して勇者召喚した連中も皆殺しにしてやる。

 ついでに俺を巻き添えにした勇者連中も皆殺しだ。 人を文字通りの地獄に落としやがって、絶対に落とし前を付けさせてやる。 怒りが噴出するが即座に鎮火され、免罪武装が喜んでいるかのように輝く。


 その反応に更に苛ついたがそれすらも喰われるので、凪いだ心で冷静に思う。

 俺の不幸に関与したクソ共は全員死ねと。 よくよく考えればあの精霊も同罪だな。

 将来ぶち殺すリストに入れておこう。


 ――とまぁ、一通りイキってすっきりしたところで現状を確認する。


 数えるのも馬鹿らしい数のグラニュールを仕留め、武器の能力も概ね把握した。

 強化も充分。 レベルはそろそろ五千に届きそうだがステータスは未だに上にいた雑魚にも届かない。

 それでも強くはなった。 俺ではなく武器がだが。


 準備も整い、アルフレッドを殺したクソ共を皆殺しにできる。

 確実に勝てるかは怪しいが、冷静に考えて行けるだろうと判断した結果だ。

 もっと粘って勝率を上げるのも良いかもしれないが、別にやり込みゲーをやってるわけじゃない。


 カンストさせる意味がない。

 そもそもどの程度上げるとカンストするのかも分からないからいちいちやってられないのだ。

 まぁ、そんな訳で俺はさっさと坂道を軽快な足取りで登る。 悲しみや怒りが完全に消え失せた人間はどうなるのだろうか? そんな質問をされても答えられる奴はそういないだろう。


 だけども今の俺なら答えられる。 悲しくも腹も立たなくなった――発生する要因が悉く消え失せた人間はな、笑うしかなくなるんだよ。 自分でも分かるんだ。 俺は笑顔で坂を駆けあがっている。

 周囲の床や壁を見れば俺の姿が映し出され、答え合わせができるだろう。


 ……それはできなかった。


 だってそうだろう?

 何が悲しくて情緒がぶっ壊れてトチ狂った人間の姿を直視しなければならないんだ。

 自覚はあるけど見たくない。 理解はしている。 それでも知らない振りをさせて欲しい。

 

 俺はまだ自分が正気であると信じたいんだ。

 


 幻晶と銘打たれたゴミ共が蔓延る層へと俺は辿り着いた。

 見覚えのある景色を見れば見るほどにどこにあったのか怒りが噴き出すが、早々に消え失せ何の感慨も湧かないただの風景に成り下がった。

 

 軽快な足取りで先へと進む。

 それなりに向上したステータスは以前なら数時間はかかった距離も易々と踏破する。

 連中が俺に気が付いて襲ってきそうなポイントに来た所で俺は足を止めた。


 残念ながら修羅場を潜った俺は殺気を感知できるようになったのだとか、新たな力に目覚めたとかいう事はない。 だから、勘で俺はそれを実行した。

 手を翳し払いのけるように下ろす。 その行動が齎した結果は甚大だ。


 俺を中心に広範囲の地面が陥没。

 魔法か何かで隠れていたであろう連中を残らず地面に張り付けた。

 免罪武装Ⅰプルガトリオ高慢重石スペルビアの能力で自分を中心に重力のような物を発生させて相手を押し潰す。 かかるプレッシャーは性能依存だ。


 取りあえずグラニュールを潰せる程度の威力まで強化すれば行けると思っていたが、想像以上だった。

 散々、俺達を追いかけまわしたゴミ共が潰れた虫のようだった。 圧を強めると耐え切れずに圧壊。

 俺は重力を維持したまま歩く。 それだけで敵がぺしゃんこになる。


 「おいおい、この程度かよ。 折角、頑張って強化して来たんだからもっと頑張れ」


 効果範囲外から矢が飛んでくるが俺に届く前に地面に落ちて砕ける。 

 射程外からの飛び道具か。 ゴミの癖に賢いじゃないか。

 だったら俺も使っちゃうぞ。 免罪武装Ⅲプルガトリオ朦朦悔悟イラを引っ込めて禍々しい形をした弓が俺の体を突き破って現れる。


 免罪武装Ⅱプルガトリオ身焦瞼縫インウィディア

 こいつに矢は要らない。 弦を引けばやや青の混ざったどす黒い光を放つ矢が現れる。

 飛んで来た方向を見ればどこを狙えばいいかは分かるが、方向さえあっていれば割と適当でいい。


 放つ。 矢は真っ直ぐに飛ぶと空中で破裂。 真っ黒い煙のような物を周囲にまき散らす。

 傍から見ればただの目晦ましだが、こいつの性質の悪さはここからだ。

 煙は意志を持っているかのように蠢くと複数に分かれて何かに纏わりつく。


 すると偽装が剥がれたのかマネキンみたいなナリをしたゴミ共が姿を現す。

 こいつの能力は破裂させた矢によって煙を起こす。 そしてその煙は手近な存在に纏わりつき、視界を奪いつつ魔力MPを奪い取る。 隠れている奴を炙り出すには非常に便利だ。


 そして普通に矢としても使えるので、射貫く事も出来るが――


 「うん。 当たらん」


 狙ってはいるけどさっぱり当たらない。 

 グラニュールでも何度か試したが、五メートルぐらいまで近寄らないと命中率が一気に落ちる。

 我ながらノーコン過ぎて悲しくなるな。 もういい、敵を炙り出すのにだけ使えればいいや。


 俺はあちこち矢を放ち続け、景気よく煙を撒き散らす。

 瞬く間に煙は周囲に充満し、隠れていた連中を片端から引きずり出した。

 こうなれば後は簡単だ。 免罪武装Ⅲプルガトリオ朦朦悔悟イラに持ち替えて大きく振るう。


 炎が俺を中心に嵐のように吹き荒れて周囲を焼き尽くす。

 ゴミ共が悶え苦しみながら崩れ落ちる。 本当ならわざわざ炙り出す必要はないんだが、こいつらが燃えカスになる所を見ないとすっきりしないからな。


 同時にアルフレッドを殺した連中が苦しんでいる姿を見るといい気分になり、免罪武装に喰われれて即座に冷静になる。 これから徹底的にやるつもりだが、先は長いんだ。

 じっくりとやるさ。 その為にはこいつらを可能な限り苦しめなければならない。


 目的と手段が入れ替わっているような気もするがもう俺には何が正しいのかを正確に認識できなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る