第7話 「御供」
そこに居たのは俺の半分ぐらいの大きさの人型の何かだ。
グラニュールと同様に水晶でできており、何だか弱そうに見える。
鑑定をかけてみると魔晶兵――名前はなし? あぁ、俺が付けないと駄目なのか。
触ってみるとつるりとした手触りにひんやりとして気持ちいい。
調べると名前を付ける事で正式に俺の使い魔になる感じのようだ。
それに魔晶? 神晶じゃないのか。 ステータスを見るとかなり格が落ちる感じなのは俺が作ったからかな。
レベルも低く、ステータスも俺よりも少し高い程度だった。
取りあえず名前を付けるか。 少し考えて出て来たのは――
「アルフレッド。 お前の名前はアルフレッドだ」
どっから出て来たのかというと死んだ爺さんが飼っていた犬の名前だった。
俺にもよく懐く可愛い奴で、死んだときは悲しかったな。
「――あ、クソが」
小さく舌打ちする。 犬が死んだときの事を思い出した事によりその悲しみの感情も消えてなくなった。
喰われたのだ。 それにより思い出からただの記憶へと変質した。
不快感が湧き上がるがそれすらも喰われて消える。 苛つくがそれすらも喰われ、
まぁ、いいかと溜息を吐いてアルフレッドと名付けた水晶の塊を抱き上げると思ったよりも軽くて驚いた。 戦力としては微妙だが、旅のお供が出来たのは悪い気持じゃない。
独りぼっちで心細かったので一緒にいてくれる誰かが居るのは本当に嬉しかったのだ。
こうして俺はアルフレッドと名付けたモンスターと共に歩き出した。
アルフレッドと行動して数日が経過した。
一緒に行動してみるとアルフレッドは非常に役に立つ。 先行して敵がいるかの確認をしたり、仮眠を取る時は見張りをしてくれる。 子供ぐらいのサイズでちょこちょこと動き回る姿は非常に愛嬌があって見ていて癒された。 俺はアルフレッドに色んな話をした。 こいつは口がないので喋れないが聞いてくれているのは分かり、ちゃんと相槌も打ってくれる。
奏多の所為で友達が居なかった身としてはこうして気軽な話ができる相手は新鮮で俺は嬉しかったのだ。 強さなんてなくてもいい。 俺はこのアルフレッドの事をたったの数日で気に入っていた。
……それにしても……。
周囲を見る。 風景に変化はなく、どこまでも水晶でできた空間が広がるばかりだった。
幸いな事は見かけるのはグラニュールばかりで、他を見かけない事だろう。
群れない点も俺にとっては都合が良かった。 どうにも群れる習性はないようで、縄張り意識が強いのか出くわすと潰し合う傾向にある。 それを利用して他に擦り付ける形でやり過ごしたりもした。
免罪武装のステータスを確認すると『暴食』の能力値が上がり始めている。
それもその筈だ。 俺はこの数日なにも飲み食いしていないので、空腹を通り越して飢餓感すら感じているがそれも免罪武装が喰らっていく。
何で餓死しないのかというと、免罪武装――
ここを構成している水晶は魔力を大量に含む晶石とかいうカテゴリーに分類される代物らしい。
中でも最高品質の神晶石とかいう凄い物らしく、内包する魔力量は非常に高い。
今の所は順調だ。 ただ、グラニュール以外の個体を見かけていない事が怖いな。
グラニュールしかいないのならそれはそれで何とかなりそうなので俺としては助かる。
正直、グラニュールを仕留めてレベリングをする事も考えたが、俺のステータスの伸び幅を考えたら焼け石に水にしかならない。 百倍に膨れ上がったステータスもグラニュールに殴られれば一発で吹き飛ぶ。
そして免罪武装は使ったらなくなる。
なら、余計な戦闘は避けてここから逃げる事に集中するべきだ。
俺はアルフレッドを連れてこの迷宮の出口を求めて先へと進む。
時間の感覚もあやふやだが、体感で半月ぐらいは経ったのかもしれない。 判断材料は寝た回数だ。
疲労はあるけど免罪武装が吸い取るので眠気は感じない。 ただ、軽い眩暈などが起こるので寝ないと不味いと判断して疲労を感じた段階で眠るようにしている。
本来ならスマホか何かで時間を確認するべきなのだろうけど、残念ながら免罪武装に纏わりつかれたタイミングで壊れてしまった。 服もボロボロなってポケットにも穴が開いているので持ち運べずに捨てた。
お陰で免罪武装以外は本当に何も持っていない。
あの精霊もステータス付けるぐらいならアイテムボックスも寄越せよ。
チートとかのセオリーの話をするぐらいならこの辺も押さえとけよな。
物を持ち運べないから前に仕留めたグラニュールの残骸すら回収できなかったぞ。
それにしても異世界って奴は実際に来てみると本当に夢がないな。
痒い所に手が届かないというか、思ってたのと違うというか……。
アルフレッドだけがこの状況での癒しであり救いだった。
グラニュールを躱し、免罪武装で地面から活力を吸い上げ、疲れたら武器のステータスを確認して眠る。 目を覚ましてまた先へと進む。
半月経過して免罪武装の能力もそれなりに把握できた。
ざっくりとだが――
最初の数日はちょっと増えたけどそれ以降はピクリとも動かない。
こっちも同様に最初の数日だけでほぼ増えない。
奏多の事を想っていたら自然と爆上がりした。
一体、俺はどれだけあいつに対して怒り狂っていたんだ。
今でも緩やかに増えているので将来的には使えそう。
疲労や気持ちが挫けそうになると数値が増えて無理矢理立ち直らせてくる。 鬼かな?
物欲的な物に反応するが、伸びはあんまりよくない。
割と順調に増えている。 食欲に反応するので放っておけば憤怒を超えるかもしれない。
色欲に反応するので思いつく限りのエロい妄想を脳裏で展開したがこの程度の数字にしかならなかった。 そして喰われた妄想で二度と勃たなくなった。
恐らく俺は一生童貞を貫く事になるだろうな。 マジもんのゴミ。
ステータスから
そして一回使うだけで結構な能力が落ちる。 しかも酷い事に能力の威力はステータス依存なので、使えば使うほどに効果が薄くなると。
俺が可能な限り戦闘避けたい最大の理由だ。
前途は多難。 なにかいいニュースが欲しい所だ。
そんな事を考えているとアルフレッドが何かを見つけたのか慌てて戻ってきて手招きをしていた。
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