第6話 「晶骸」
やった後に後悔するというのはよくある話だ。
今回に関してはまさにそのケースだった。
とんでもない数字だ。 神晶帝には通用しなさそうだが、グラニュールとかいう雑魚ぐらいなら二、三発喰らわせれば殺れそうな感じではある。
これだけ見ればいい事ばかりに見えるだろう。
俺は感情を喰わせるといった行動を甘く見ていた。 奏多に対する怒りや憎しみが一切、湧き上がらない。
不愉快、または屈辱的なエピソードを思い出しても「そんな事もあったな」とぼんやりと思うだけでそこに付随する筈の感情が抜け落ちてしまっている。 思い出せはするが、何も感じない。
その時の感情を永遠に失う。 正直、かなり重い代償だと思った。
凄まじい性能になった
なくなって清々したって思いは当然ながらある。
だが、それ以上に胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになるのだ。
これを永遠に抱える事になるのかと考えると気持ちが落ち込み、それすらも免罪武装に喰われて消える。
取りあえず火力面での不安は消えたが、それ以外がクソ雑魚の現状では行った所で死ぬだけだ。
ついでに言うなら剣なんてろくすっぽ振ったことのない俺に使いこなせるわけがない。
へっぴり腰で死ぬほどダサい斬撃を繰り出す姿が目に浮かぶ。 想像しただけで死にたくなる。
まぁ、失敗したら死ぬけど。 絶望的な状況ではあるけど、僅かながら勝算はある。
免罪武装だ。 これ以外に何があるんだといった話だが。
こいつらの能力は俺の脳みそをデフラグしてパワーアップするだけじゃない。
御大層な名前が付いているだけあって相応の特殊能力を備えているのだ。
こいつを使えば勝てる――かもしれない。 いや、勝てるといいなぁ……。
俺は軽く検証を済ませた後、この世界で生き残る為の最初の勝負に出た。
神晶種グラニュール。
水晶でできた怪獣といった感じだった。 尻尾にがっしりとした両手脚。
そして鰐を思わせるような巨大な口。 そいつはぼりぼりとその辺に落ちていた水晶を食っていた。
一応、念の為に後ろを素通りしようと試みる。 万が一、水晶を齧るだけで何もしなければ襲ってこない無害な生き物なら無理に殺す必要がないからだ。 それに正直、大きい生き物を殺す事にも抵抗があるのでやらずに済むならそれに越した事はないと思ってもいた。
「……ですよねー……」
グラニュールは俺に気が付くとゆっくりと振り返り、全身が明滅する。
唸ったりはしないのか。 明らかに友好的ではない感じなので俺は
どこに入っているのかさっぱり分からないけど、出るのだから受け入れよう。
グラニュールは声もなく俺に向かって僅かに身を縮め、飛びかかろうとしたが――それは敵わなかった。 何故ならいつの間にか地面が黒い何かに覆われ、それに絡め取られたからだ。
憤怒を冠する能力の一つで俺を中心に黒い影のような物を発生させて触れた相手を焼きながら拘束する。
代償に
グラニュールは拘束から逃れようと暴れるが、影は足から全身を侵食するように広がって地面に引き倒した。 鑑定でステータスを確認するとスリップダメージは効果があるようで、凄まじい勢いでグラニュールの耐久値が減って行っている。 同時に
結構な勢いで持って行かれるのでさっさとした方がいい。
俺はグラニュールの背に飛び乗ると
効果ありと判断し何度も抜き差しを繰り返してその首を切断。
念の為にと鑑定するとまだ耐久が残っているので胴体を何度も斬りつけ突き刺す。
それを死ぬまで繰り返した。 グラニュールの耐久が0になり、動かなくなったと同時にその姿が崩れて水晶の塊に変わったところで俺は拘束を解除。
「は、やっぱりこういう所はゲームっぽいな」
自嘲気味にそう呟く。 理由は自身のステータスだ。
レベルが何と三百も上がっている。 ステータスも百倍ぐらいに膨れ上がっているが、元々平均十かそこらのゴミが平均千になった所で大差はなかった。
俺の中に残っている怒りの感情は軒並み売り飛ばしたので、この先大した回復は望めない。
……大事に使おう。
そう考えながらグラニュールの死骸を漁る。 レベルにステータスと来ればドロップアイテムだろ。
神晶骸とかいうよく分からない代物ばかりで、鑑定しても素材になるとかしか書いていない。
鑑定ってもうちょっと便利な代物かとも思ったけど、ステータスとフレーバーテキストみたいな毒にも薬にもならならないような情報しか取れないみたいだ。
こう「相手の全てを見透かす」みたいな使い方は難しそうだった。
「……ん? なんだこれ?」
体の中心付近に何か大きな塊を発見。 抱えられるぐらいの水晶の塊でその辺に転がっている神晶骸と見た目的には大差ないが鑑定すると明らかに別物だという事が分かった。
神晶核。 素材と魔力を注ぎ込む事で晶獣と分類される使い魔を作成する事ができる。
……使い魔! いいね!
素材ってその辺に転がっている神晶骸でいいんだろうか?
取りあえず試してみるか。 念の為に周囲に何もいない事を確認し、神晶骸の上に核を置く。
これでいいのか? 取りあえず試してみよう。
むん!と核に手を置いて念じる。 なんか強くていい感じの使い魔こい!
そこまで考えて待てよと思い直す。 これってもしかして専用の作成スキル的な物が必要なんじゃないのか? だったら一人でこっぱずかしい儀式をしただけになるんだけど――
止めようとした瞬間だった。 核が光を放ち、周囲の残骸を取り込んでいく。
おぉ! 凄い! やればできるじゃないか!
何かの間違いでチート級の力を持った使い魔が誕生しちゃうのか!?
さっきのグラニュールと同等クラスいや、せめて半分、いやいや、三分の一ぐらいの能力があれば助かるんだが……。
光が収まるとそこには――
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