第4話 「握抜」
他のも似たようなもので全て免罪武装と銘打たれており、七つあるだけあってⅠからⅦとナンバリングされている。
効果に関しても要求される感情が違うだけでさっきの奴と似たような感じだった。
七つの大罪って奴がモチーフなのは見れば分かるが、これは安易に手を出していいのか迷う。
『傲慢』『嫉妬』『憤怒』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』
以上の七つで字面だけで見るなら分かり易い。
だが、それを支払うと具体的にどうなるのかが一切分からない点が怖すぎる。
念の為にとしつこく鑑定をかけたが、感情を支払う以上の事が分からない。
ついでに名称も引っかかる。 免罪武装――大罪ではなく免罪という点が凄まじく気になるのだ。
どうする? 調べた感じ使わなければ問題はなさそうだが、持って行くか?
七つ全部は持って行けない。 無限に収納できるアイテムボックス的なものがあれば話は別だったが、あの精霊はそんな都合のいいものを支給してはくれなかった。
まぁ、あるのかも怪しいけど、ないものねだりしても仕方がない。 一つか二つ、最大限欲張っても三つが限界か。
自衛の手段は絶対に必要なので持って行かざるを得ないのだ。
こんな怪しすぎるアイテム触りたくもないが、背に腹は代えられない。
問題はどれにするかだ。 感情を喰わせないと威力を発揮しないので、必然的に俺が抱き易い感情に対応した者を選ぶ必要がある。
――となると『憤怒』『嫉妬』『怠惰』辺りか。
憤怒は剣、嫉妬は籠手、怠惰は短剣と拾えと言わんばかりに都合よく全部持てそうなところも気に入らない。
あの精霊、本当に転移はランダムなんだろうな。 ここまでお膳立てされているとこれも仕組まれているんじゃないだろうなと勘ぐってしまう。
俺は何度か深呼吸して覚悟を決めた。
取りあえず憤怒――
その柄を握って引き抜く。 特に抵抗もなく、重さも感じなかった。
……何も起こらない。
考え過ぎだったか?とちらりと考えたと同時だ。
握った手に痛みが走ったのは。 よく見ると柄から茨のようなものが生えて俺の手を貫通していた。
咄嗟に手放そうとしたが茨は俺の手に噛みつくように絡みつき、それを許さない。
外せないってこういう事かと何とか剥がそうと手をかけようとしたが、これはほんの始まりに過ぎなかった。 茨は次々と剣から噴き出し俺の腕を覆うように絡みつく。
激痛に悲鳴を上げるが、剣は一切気にせず俺の腕を茨で完全に覆い尽くす。
まるでギプスか何かで固めたような有様になった腕は痛みでどうなっているのかもわからない。
俺はひいひいと情けなく泣き叫びながら止めろと叫ぶが、なんの意味もなく状況は続く。
剣の本体がゆっくりと動き出す。 茨で繋がった状態ではあるが俺の手から離れたのだ。
そして俺の掌に固いものが当たる感触。 おい、まさか、冗談だろ?
「止めろ! 止めろぉぉぉぉ!!」
叫ぶがどうにもならない。 柄が俺の掌を貫いてゆっくりと俺の腕の中に入り込んで来る。
手から腕にかけて凄まじい激痛と異物感が襲う。 あぁ、俺の嫌な予感は正しかった。
こんなものに触るんじゃなかった。 激痛と共に後悔が押し寄せるが、もうどうにもならない。
痛すぎて死んで楽になりたいとすら思い、自身のステータスを確認するがそれを見て更に愕然とする事になる。 クソ雑魚であろうステータスの貧弱なHPが欠片も減っていないのだ。
こんなに痛みを感じているのにステータス上はノーダメージ? 冗談だろ?
ふざけやがって、この数字は見せかけだけじゃないのか?
そうであって欲しいと祈っていた俺の心に現実は畳みかけるように見たくないものを見せる。
茨の一部が地面を這っているのだ。 それだけならそこまでは気にしなかったが、明らかに他の免罪武装を狙っている。 この茨は俺と繋がっているのだ。
そんなものが他の武器に触れたのならどうなるのか――
「――い、嫌だ。 嫌だぁぁぁ!」
俺は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を歪めながらほぼ確実に現実になるであろう未来に絶望していた。 茨が他の武器に触れたと同時に他の武器からも茨が噴き出す。
あぁ、畜生。 これじゃあ一つ触った時点で結果は同じじゃないか。
失敗した。 まずは外の様子を確認してから考えるべきだった。
誰か、誰か助けて――俺は必死に誰かに助けを求めた。
両親、クラスメイト、親戚、知り合い、奏多。 様々な人物が俺の脳裏を通り過ぎる。
だが、彼等の顔を思い浮かべて助けを求めたのだが、心のどこかでこうも思っていた。
――誰も助けてくれる訳ないじゃないか、と。
……あぁ、そうかもな。
俺は自身の無意識に同意して意識を失った。
「う……」
俺は小さく呻き、意識を取り戻した。
むくりと上体を起こす。 痛みは消えていたが酷い有様だった。
全身を茨で覆われた所為か服はボロボロ。 そして肝心の免罪武装はどこにもなくなっていた。
俺を痛めつけて満足したのかと思いたいがそんな事はあり得ない。
自身のステータスを確認するとスキル欄に契約武器と記され全ての免罪武装の名前が羅列されており、現在のスペックも表示されていた。
結局こうなるのかよと溜息を吐く。 便利な事に使い方も何となくだが頭に入って来る。
腕に意識を集中すると手の皮膚を突き破って剣の先端が顔を出す。
ドロドロと血が流れるが不気味な事に痛みを感じない。 戻れと念じると引っ込んだ。
「はは、こりゃ便利だ」
俺は皮肉気にそう呟いて立ち上がる。
どうなっているのか想像もしたくないが、持ち運びには困る事はなさそうだ。
意識を取り戻したばかりだが、先々の事を想像するとどっと疲労感が押し寄せてこのままここに閉じこもっていたいといった気持ちに――なりかけたがならなかった。
一瞬前まで存在した感情がごっそりと消え失せたのだ。
流石に自分でも分かる程に不自然だったので、免罪武装のステータスを確認すると僅かに性能が上がっていた。
……そういう事か。
感情を抱いた時点で免罪武装に吸われるようだ。
つまり俺はこいつ等の餌になる何かを抱く事すら許されなくなった。
また俺は搾取されるのか。 そう考えて怒りが湧き上がるが、それすらも即座に霧消する。
「――クソが」
俺はせめてもの抵抗にそう呟くと部屋の出口へと歩き出した。
せめて状況が好転しますようにと間違いなく届かないであろう願いを抱きながら。
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