第3話 「指輪」
「『到達者の指輪Ⅱ』?」
思わず名称を呟く。 鑑定ってのは便利だな。
念じるだけで詳細な情報が入って来る。
名称は到達者の指輪Ⅱ、特殊な効果を発揮する装備品らしく身に着けているだけでいいらしい。
効果は二つ。
・世界迷宮ラグランジュ最下層宝物庫への入退室。
・世界迷宮最深部の開錠1/3
世界迷宮ラグランジュ? 明らかに場所の名称なんだけど、もしかしなくてもここの事か?
宝物庫って事は何か金目の物でもありそうだな。 ラッキーと思いながらもなんでこんな物が俺の指に嵌まってるんだ?といった疑問も湧く。
その疑問は追加で入ってきた情報で更に深まった。
・神晶帝ハミルトン=ラグランジュ撃破の証。
……?
神晶帝って何? 何で俺が倒した事になってるの?
察するにこの世界迷宮?って所のボスであろう事は分かるが、身に覚えが全くない。
まぁいいかで流しても良い――いや、良くないだろ。 これ、絶対に知らないままだと後で問題になるパターンだ。 俺は詳しいんだぁ。
周囲を窺って何かが居る気配がない事を確認しつつ考察を進める。
まずはっきりしている点は俺の指に指輪が嵌まっており、こいつは神晶帝ってのを倒さないと手に入らない。 鑑定が間違った情報を寄越した可能性もなくはないけど、これを疑うと何もできないので全面的に信じるべきだ。
以上が動かしようのない部分だが、身に覚えがないので手に入った理屈が理解できない。
可能性としては俺の意識していない部分で何かが起こって撃破扱いになった。
例えば転移の際に凄まじい衝撃が発生してそれに巻き込まれて神晶帝は死んだとか。
そう考えると一応、筋は通るがここまで都合のいい事って起こるのか?
素直にチートアイテムゲットだぜとか喜ぶ所だが、俺は勇者でも何でもない。
その手の補正がかかる立ち位置にはいない――物語の主人公のように華やかな道を歩けるようにできていないんだ。
だってそうだろ?
俺はクソ女――奏多のおまけで離れる事すら満足にできなかったキレの悪い金魚の糞だ。
現状に不満はあっても脱却できないと諦めて下ばかり向いているそんな奴にわざわざチャンスを恵んでくれるかね?
俺は漫画が好きだ。 ラノベが好きだ。
数多の物語の主人公達は抜きんでた何か、華とも呼べる何かを持っている。
故に彼等は主人公足りえる。 そしてだからこそ、俺のような読者はその生き様や個性に惹かれるのだ。 でも、俺はそんな時にふと我に返ってこう思う。
……少なくとも俺には絶対に無理だと。
己を客観視するとなんて卑屈なんだろうと思う。
もしも全てを見通す神がいるならそんな奴には絶対にチートを恵んでやらない。
あぁ、クソ。 全てあいつの所為だ。 可能であるなら殺してやりた――はぁ、余計な事を考えるといつもこれだ。 過去の光景がフラッシュバックして気分が一気に落ち込む。
額を手の甲で何度か叩いて余計な考えを追い出す。
今は現状の把握に意識を集中しろ。 クソ女への恨み節は安全を確保した後にゆっくりやればいい。
とにかく指輪を手に入れた原因をはっきりさせるべきだ。
鑑定で調べられるのはここまでなので次にこの場所を調べる事にした。
まずは床に鑑定をかけると世界迷宮ラグランジュと出た。
分かり切った事ではあったので驚きは少ない。 ただ、それ以上の事は分からなかったので、現状ではあまり使い道のない情報でもあった。
段々と暗闇に目が慣れて来たので恐る恐る奥へと歩きだす。
学校の体育館を思わせる足音の反響音から、広くはあるけど密閉された空間なのかもしれないと思いつつ少し進むと何かが見えて来た。
最初に目に飛び込んで来たのは無造作に突き立てられた武具。 全部で七つ。
剣や槍、大鎌、籠手のような物も落ちていた。 デザイン的にもそこら辺で手に入りそうな量産品でございといった代物ではなく、明らかに一点物といった感じだった。
簡単に言うとどれも強そうだった。 そして全てに共通している事だが、全体的にあちこちが尖ったりしており、禍々しい印象を受ける。
……何か抜いたらヤバそうな感じだな。
これ見よがしに置いてある点も非常に怪しい。
一先ず武器は置いておいて視線を奥へと向けると壁のようでこれ以上は進めないようだ。
念の為にと壁に近寄ってみるが、特に何も――ん?
指輪が仄かに光る。 何だと思っているとそれに反応したのか壁の一部にも光が灯った。
近寄ってみると壁に三つのシンボルマークのような物が刻まれており、そのうちの一つが光っている。
最深部の開錠がどうのとかあったな。 1/3って事は指輪が他に二つあるって事か。
道理で名称にⅡが入ってる訳だ。 つまりⅠとⅢを用意すればここが開くのか。
足りない以上はここから先へは向かえない。 他に出口を探すべきか?
取りあえず踵を返して反対側に向かうと同様に壁があったが、さっきと同様に指輪に反応があった。
同じシンボルマークが刻まれており、こちらは一つしかない。
つまりここからは出られる可能性が高い。 ぐるりと見回ったけど、この空間は両端に扉、後は怪しい武器が転がっているだけとなる。
……安全って判断してもいいのかね?
ここはといった但し書きは付くが、外に出ればその限りではない。
何が出てくるか分からない以上、自衛の手段は必要だ。 何も出ないとは思わない。
この指輪はボスの撃破報酬だ。 つまり撃破しなきゃならない何かが居るのは間違いない。
こちとらステータスは平均10前後の恐らくクソ雑魚なのだから装備で補わないと話にならない。
「……結局、こいつらを使わないと駄目か……」
目の前には剣やら槍やらの武器。 怪しすぎて触りたくない。
鑑定って触らずに行けるのかな? 取りあえず、手近に刺さっている剣に意識を集中すると成功した。
詳細が頭に入って来る。
「……うわ、マジで触らなくてよかった奴じゃねぇか」
思わず呟く。 それ程までに剣呑な代物だったからだ。
・
名称の時点でヤバそうな感じはするが、内容はもっとヤバかった。
まず装備すると契約したと認識されて外せなくなる。 攻撃力などのスペックも一応は参照できるが、数値が存在しない。 つまり何らかの条件で変動する仕組みなのだ。
それが何なのかというとこいつは使用者の怒りの感情を喰らって威力が上がるらしい。
怒りなんてものはただの感情の発露で好きに喰わせればいいとか思わなくもないが手にしたが最後、二度と手放せないと考えれば明らかにヤバい。
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