第2話 「説明」
「ま、巻き添え?」
球が告げた残酷な事実に俺の声は震えてしまう。
『うん、要するに君は定員外。 元々、お呼びじゃない感じだね』
要は本来呼ばれる連中に引っ張られてここまで来たらしい。
俺は駄菓子についてるおまけか何かかよ。
「……マジかよ。 ちなみにこういう事故って結構あったりするの?」
『うーん。 なくはないってレベルだね。 原因としては召喚された勇者の誰かと縁が深かったとかがあるけど、やっぱりないかな? 親子とかでもそうそう起こらないから偶然でしょう。 運がなかったね』
いや、そのなくはないレベルの事故に俺は巻き込まれたのか? というか縁が深い? まさか勇者って――いや、流石にそれはないだろう。 ないと思いたい可能性を排除して俺は頭を抱える。
モノレール事故だってなくはないレベルだろうが! 何で二回連続で事故ってんだよふざけんな!!
脊髄反射でキレかけた俺だったが、いや待てと思い直す。
俺は漫画やラノベをこよなく愛する歴戦のオタクだ。
異世界転生、転移のセオリーは頭に入っている。 確かに勇者様御一行に混ざれなかったのは不幸だが、こういった状況でも一発逆転の何かを手に入れて無双できるはずだ。
脳裏に現実と虚構の区別ぐらい付けろよと囁く声が聞こえるが、目の前の状況こそファンタジーそのものだろうが。 ならファンタジー展開を期待したって何の問題もない。
――というか期待させてくださいお願いします。
「ま、まぁ、話は分かったけど、俺ってこれからどうなるの?」
『あー……かなり言い難い話になるんだけど、ちょっと分からない』
「……どういう事?」
球はこの世界の現状について簡単にだが教えてくれた。
世界はざっくりと二分されており、人と魔族の二種類の種族に分かれて殺し合っているらしい。
それで勇者召喚というのはどちらかの種族が古より伝わる召喚の魔術が刻まれた石板で呼び出す。
つまりどちらかの勢力が保有する石板が召喚先となる。
で、俺の場合は呼ばれてもいないのに来てしまったので、召喚先が指定されていないのだ。
「ごめん。 俺馬鹿だからよく分からないんだけど、勇者の行った道が使えないなら俺はどこに召喚されるんだ?」
『分からない。 この世界のどこかになると思う』
「は? マジで人里じゃない所に落ちる可能性もあるって事か?」
『それぐらいならいいけど、土の中とか雲の上とかの可能性もあるんだ』
「……え、じゃあ俺ってついた瞬間に死ぬかもしれないって事か?」
球はうんと即答。
「あ、あー……、ところでここって求人とかしてません? 俺、ここで働きたいな――えー、あ、ごめん。 何さんだっけ?」
『ん? あぁ、ごめんごめん。 名乗ってなかったね。 私は異世界の勇者を導く精霊。 名前とかはないから好きに呼んでよ』
「じゃあ精霊で。 ちなみにここで精霊の手伝い的な――」
『うん、無理。 この空間ってあくま一時的に魂のエネルギーから肉体が再構成されるまで置いておく場所だから制限時間があるんだ』
それを過ぎると俺は問答無用で放り出されるらしい。
あぁ、畜生、どうしてこうなった。 決まっている奏多――あのクソ女の所為だ。
間違いなくくたばっているであろう幼馴染にありったけの呪詛を飛ばす。
『そろそろ時間だけど何か聞きたい事ってある?』
精霊はもう話を締めにかかっていた。 あぁ、どうしよう。
何か聞いておく事はないか? 今の内に聞いておかないと多分だけどここにはもう戻って来れない。
「あ、ところで召喚特典ってあるのか!? ほら、チート的な奴!」
『あるけど勇者専用だね』
「畜生! また勇者かよ! ちなみに何で!?」
『召喚魔法陣に能力を付与する機能があるから、到着と同時に貰えるからだね』
「なるほど! その辺に放り出される俺は適用外って事だな! 本当に何もなし?」
『あ、一応、ここに来た時点で言語共通化の技能付与はされてるから言葉は通じるよ。 後は物品や土地の情報を得る能力――鑑定スキルが付与されるね』
あ、定番の鑑定スキルはくれるんだ。
会話に関してはもっともな話だな。 そうでもなけりゃ俺はこの精霊と会話すらできてないか。
「……帰る方法は?」
『なくはないね。 件の召喚の石板で送還はできるはずだよ。 ただ、こちらからは観測できないから本当に帰れるかの保証はできないけど』
「更に訳の分からない場所に飛ばされるかもしれないって事かよ」
『そうだね』
あぁ、これは駄目だと諦めに似た感情が湧き上がった。
何故ならこいつはもう俺との会話を終わったものと見做している。
その証拠に質問は終わりか?と会話を切り上げたがっていた。
他に何か聞いておくべき事はないかと必死に考えるが、咄嗟に出てくる訳ないだろうが!
そうこうしている内に俺の体が光に包まれる。
『じゃあ頑張ってねー』
「待ってくれ! 話はまだ――」
俺の言葉は最後まで形にならずに光に呑まれて消えた。
……う、どうなった。
意識を失っていたようで頭がぼんやりする。
現状を思い出そうとして――俺は目を大きく見開きそのまま跳ね起きた。
真っ先に行ったのは自身の状態の確認だ。 五体満足のようで、特に違和感もない。
取りあえず即死するような場所には飛ばされなかったようだ。
次に周囲の確認。 水晶のような床に壁はぼんやりと光っており、薄暗くはあるけど視界は確保できている。 ただ、少し離れると途端に見えなくなるので、何か居たら気が付くのに遅れそうだ。
服装は事故に遭う直前と同じ私服。 鞄はない。
指に見覚えのない指輪が嵌まってるけどこれは後にしよう。
ポケットを漁ると財布とスマホが出て来た。 試しにスマホを動かしてみるが当然圏外だ。
どちらも異世界では役に立たなさそうだな。 いや、珍品として何かと交換に使えるか?
そこまで嵩張るようなものでもないので、特に邪魔にはならないか。
「――で? ここって何なんだ?」
そういや鑑定スキルが使えるって聞いたな。
どうやって使うんだ? 内心で首を捻りながら脳裏でステータスオープンと念じると視界――というよりは脳裏に情報の羅列が渦を巻く。 俺の名前に始まり、
腕力は攻撃力って解釈でいいのか?
10とか15しかないんだが、これって高いのか低いのか分からないな。
平均13ぐらい? 耐久は100に魔力は50って書いてある。 まぁ、特典なしらしいから低いんだろうなぁ。
後はスキルは――あぁ、確かに言語理解と鑑定があるな。
他はなんもなし! さて、一通り確認は済んだしさっきから気になっていたこれは何だ?
俺は左手の人差し指に嵌まっている指輪に視線を落とす。
綺麗な指輪でよく見ると中で小さな星のような光が無数に瞬いている。
何だか眺めていると気持ちが落ち着くなぁ。 取りあえず鑑定を試してみるか。
念じればいいっぽいので、意識を集中すると鑑定が効果を発揮して指輪の詳細情報が脳に入って来た。
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