第5話 聖女候補様
朝食が終わった後、街に出るのに、地味な色合いで、肌触りがちょっとごわごわする生地の服に着替えた。
平民ポイ格好でいくんだって。お忍びっていうのかな。兄様と二人でお出かけ。
母様、姉様、マーリエは別行動。ブティックに行きたいからといって普通に外出用の服を着てでかけていった。
途中までは馬車でいって途中から歩きなんだって。貴族街を出て、目立たないところで馬車を止めて、王都の石畳に足をおろした。
風が冷たい。まだ冬が明けたばかり、辺境のエルストベルクよりは温かいんだけど、ちょっと寒い。思わず重ね着した布の服から腕をごしごしと擦った。
「ごめんね、思ったより寒かったね」
「ん、大丈夫。多分歩けばあったかくなるよ」
済まなそうに眉を下げる兄様に、僕は笑ってみせた。
広場の向こうに、空を突くような突塔とアーチ型の窓がある教会らしき建物があった。何やら沢山人が並んでいる。
「わあ、何の行列だろう!」
僕は駆け出して、行列が向かう先を見に行った。背後で兄様が何かいっているきがするが、後で確認しよう。
行列は教会の入り口に向かっているように見える。
「すみません。何の行列ですか?」
並んでいた子連れの女の人に聞いてみることにした。
何となく優しそうに見えたから。
「聖女様がお見えになっているのよ」
「聖女様?」
聞けば、一年くらい前に、光の魔法属性が芽生えて、教会で聖女候補となった女の子がいるのだそうだ。なので正確には聖女候補なんだって。
「ほぁ、光の属性魔法‥‥」
「光の属性魔法は、癒しの力があるのよ。その恩恵を受けようと、こうして並んでいるのよ」
僕が質問をした母子は、特に健康上に問題があるわけではなく、単に、何か恩恵があるかもとか、話の種にとかという理由で、並んでいるそうだけど
怪我や病気で、癒しの力を求めて並んでいる人も多いんだそうだ。
よく見ると、腕や足に包帯を巻いていたり、足を引きずっていたり、杖をついている人が多い。
質問をした母子との会話が終わるのを見計らったように、兄様が、僕を抱えるように引っ張った。行列から少し離れた場所に移動させられた。
「もう、気になるとすぐ走っていくよね。ソーマは。」
「うーん、ごめんなさい。でも、聞いてた? 聖女様って‥‥」
「行列の邪魔になるから、ここから離れようね」
兄様は、ニコニコしながら、僕を抱えて、教会から離れた。
こういう時の兄様の笑顔は、なんだか目が笑ってない気がするんだよね。
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