第2話 僕は僕を振り返る
まあ、夢で見てきた不思議な都市だとか、乗り物とか、あまりにも鮮明だったから
生まれる前の記憶なんだろうなとか以前から思っていた。
それが先ほどの瞬間、バラバラに散らばっていた色々な記憶が結びついて形をなしてきて前世の自分というものを強く感じた。
王都の町並みの光景に既視感を感じたのは、あれだ。僕が作ったゲームの世界の光景に似ているんだ。
高校生の時に作ったゲームが、ゲーム会社のコンクールで入賞した。
卒業後にその会社に入社をして、いくつかのゲームに携わった後に入賞した作品をベースにしたゲームの制作に関わることができた。
僕にとっては、とても思い入れが深いゲーム「竜骨」。
山奥の谷底に眠る竜の骨に隠された秘宝を求めて勇者が旅をする。
その勇者が王都を訪れたときに目の前に広がった光景に、先程見た光景が似ているのだ。
まさか、自作ゲームの世界に転生しちゃった? さすがにそれはないかな。
そうだとしても、辺境の田舎に住む貴族の次男坊ってモブだよね。
僕‥‥、生まれ変わる前は「俺」って言ってた?大人だった?
じゃあ、僕、大人なのかな? なんか実感わかないや。僕は僕じゃないかな。
王都の道は石畳になっているようで、がたがた音を立てて馬車が進む。
音はするけれど、舗装されていない街道を走るよりも振動は少ないようだ。
馬車が進む音と街のざわめきを聞きながら僕はぼーっと考えていた。
前世の僕、なんで死んだんだっけ?
記憶を辿ってみると、リリース前のデータが突然消え騒然となった職場の光景が浮かんできた。
目が血走った上司がなんとかしろと怒鳴り散らす。鞭で打たれている訳ではないのに、まるで背後で鞭を振り回されているような緊迫感で必死に作業していた。
他のメンバーも同じだ。
バックアップも消えてしまっていたので、ベースとしていた元のゲームのデータとプロトタイプ版のデータを合わせて、無理やり体裁を整えた。ゲームの世界の規模は縮小してバージョンアップにまわすことでなんとか了承を得て、修正版をリリースすることになった。
三日くらい徹夜をした。暖房が効いてなくて体中にカイロを貼付けてた。寒くてしかたかったけどそれどころじゃなかった。目眩はするし身体は鉛みたいに重いし、それでもなんとかリリースまでは‥って思っていて、それから?
うーん‥‥、それっきりな気がするな。リリースは出来たと思うけど‥‥。
ぐるぐるぐるぐると天井が段々早く回っていくような、前世で感じていた目眩を今感じているようにくらーっとして、思わず目を閉じた。
カロウシ? 過労死だったのかな、過労死したのかな‥‥。
ゲーム世界のことばかり考えたまま死んだからそれっぽい世界に転生したのかもしれない。
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