第25話
「で、何か策は?」
往来を歩きながらランケはセブンスアームズに問う。わざわざ連絡を寄越して来たのだ、何かしらはあるのだろう、と考えてはいたが──
「何も。まあ三人寄れば文殊の知恵とも言うしな。なんとかなるだろう」
考えていた以上にこの異形は能天気だった。
「何か無いのか、あんた、魔女の姿見たんだろ。似顔絵やら写真やらは……」
「悪いが、俺には生前から絵心がなくってね。あんたがドレスを着たヒキガエルを探し続ける羽目になってもいいなら描くが……」
「……写真は?」
「そんな暇があるかよ。見た目の特徴──黒よりも真っ黒なドレスとか、白い髪とか青白い肌のガキ──くらいなら教えてやれるが、そもそも人前に姿を表すとは限らないぞ」
「そうだな……人形に襲われる時も近くにそれらしき人影を見たことは無いし、中に手がかりでもないかと人形を丁寧に分解したらただの土塊だったり肉塊だったりでただ手が汚れて腹が立つだけだったし……」
「…………そもそも魔女はどうやってお前に人形を差し向けているんだ?何かマーカーでもつけられてるんじゃないのか?」
「マーカー、か……呪術的なものだとお手上げだが、アジトやら倉庫やらにいる時は人形は襲ってこないしな、何かタネがあるのかもしれないな……」
2人が大通りから少し狭い路地に入ると、ガシャァ、と屋根の上から人形がランケに襲いかかる。
話してる最中に迷惑な、とランケは人形の顔を裏拳で砕き、その膝を踏み抜き行動不能にする。
「慣れたもんだな……」
「慣れたくないもんだけどな……」
ランケは屋根の上に伏兵が居ないかと目をやり──気がつく。
「なぁ、セブンスアームズ。下水道になくって、この街の至る所にあるものってなんだと思う?」
セブンスアームズは上空を見上げ、頷く。
「なるほど、可能性のひとつとしてはあるな……それにしても、これは……骨が折れそうだな」
2人の目線の先には、治安維持のためと言いつつあまり用を成していない防犯カメラがあった。
「もし、魔女が防犯カメラを目として利用しているのだとしたら──アジトにも下水道にも人形が入ってこない説明がつく」
下水道の中には防犯カメラは無い。それを伝って入るアジトや倉庫への足取りはそうそう掴めないだろう。
「だとしたら、俺たちを今も見ているかもしれないあの魔女は相当厄介な奴ってことになるぜ?街ひとつの防犯システムを一人で掌握できるハッカーなんて──」
「そう、とんでもない技術力、それに呪術とやらまである。だが、だからこそ、その厄介な相手に出来ないことがある程度分かるわけだ。例えば魔女は俺たちを見ることは出来るかもしれないが、今この場で呪い殺すことは出来ない、とかな」
「ふむ……だとして、どうする?街ひとつ掌握できるハッカーに対抗出来る奴なんてそうそう居ないぜ?まして俺たちみたいなのに力を貸してくれる奴なんて……」
「まあ、探してみるさ。そっちも何かあったら教えてくれ。死ぬなよ」
「お前もな。」
2人は別れ、別々の方向へ歩いていく。
ランケは歩きながらウェアラブルの端末を操作し、情報屋のクロコダイルに電話をかける。
「ああ、元気してたか?突然なんだが、凄腕のハッカーを知らないか?いたら紹介して欲しいんだが──」
電話を切ったランケは肩を落とす。情報屋はハッカーの類に関してそこまで明るい訳では無い。並の腕の奴ならダースで紹介できるらしいが──下手なハッキングでは逆効果になりかねない。
「先は長いし、タイムリミットは短いし──どうしたもんかね……」
誰にともなく呟いたランケは裏路地から下水道に入ると、アジトへ戻る道を歩き始めた。
熱帯夜のフランケンシュタイン @wasihato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。熱帯夜のフランケンシュタインの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます