第24話
「ブギーマン、か。それが組織の名前……ね。お前さんからそれを聞くとは思わなかったな、セブンスアームズ」
「ハッ、手土産だよ。お前らも復讐したいんだろ?俺も復讐がしたい。だったらよ、はみ出しもの同士手を組もうって話だよ」
「そいつは……まあ、構わないが」
喫茶リバティ。
古い言葉で”自由”を意味するその店は、商談をするにはうってつけの場所だった。
いわゆる、裏社会の社交場……とでも言うべき不文律がその喫茶店では保たれる。
店内で仕事はしない、銃は抜かない、金払いは惜しまない……といったようなものだ。
つまり、その店で仕事をする、ということは、端的に言ってしまえば武力によらない交渉を行うという互いの了解が取れていることを示唆する。
ゆえ、この2人は今ここで会話しているというわけだ。
ランケ・シュータとセブンスアームズ。
殺した側と殺された側──奇妙な言い方であるが、これ以外にこの二人の関係性を語るにふさわしいものがない───である、本来ならば水と油であるはずの2人は、これまた不思議なことに、穏やかな雰囲気で会談を行っている。
理由は単純明快。復讐先が同じ……厳密には違うが、括りとしては同じベクトルの先にある者たちに、2人とも復讐を計画しているがゆえの、一時的な呉越同舟ということであった。
それを頼むために、セブンスアームズは恥を忍んでランケに繋ぎを取ったのだ。
「明確に復讐する先が分かったのはこちらにとって、とても助かることではあるんだが……」
「なんだ?何か引っかかることでもよう、あるんかよ」
「いや、守秘義務とかいいのか?お前さんも奴らに雇われだった身だろう?」
ぽかん、とした表情でセブンスアームズはランケの顔を見つめる。
瞬間、破顔して爆笑する。
守秘義務、そうだそうだ。そんなものもあったなあ、と半ば忘れかけていた言葉が目の前の男から飛び出したことに笑いが収まらない。
それを止めるためにグラスに注がれた冷えた水を一気に飲み干し、数瞬ほど経った後落ち着いた様子でそれに答える。
「あー……悪い悪い。意外な言葉が出てきたもんでな。変にツボに入っちまった」
「それは構わんが……こちらこそ笑わせちまったのは悪いな」
「いんや、良いんだ。その事だけど、俺はもう死んだ身だろう?そもそも裏切ったのはあっちの方だ。義理立てする必要なんざもうねェよ」
それもそうか。妙な納得とともに、ランケはその話を受け入れた。
死人に口なし、をするのなればその死人にバラされても仕方ないだろう。殺したのは自分だが、その死体を再利用したのはあちら側なわけで。
そうともなれば、そのようなことを気にするほど優しい性分でもないのがランケだった。
そんな会話を挟みつつ、会談は次のフェーズへ移行した。
いよいよのところ、誰を、どうやって、どこで、どのように、殺すのか。あるいは屈服させるのか、という話になる。
まず、上げることが出来るのは確定している。
「そりゃあ、魔女本人だよなぁ。いい加減鬱陶しい。人形を使ってちょっかいを掛けてきやがるのはもう御免だ。本体をそろそろ殺る」
ランケが先の人形を撃退してからはや1週間。その間に、街に出る度に人形どもに襲撃されている。人形、というがその中には当然操られた死体も入っている。
そんなものが、外に出る度に起こるのだからランケとしてもたまったものでは無い……というのが正直な彼の心情であった。
おちおち散歩もしてられないし、買い物すら覚束無い。なにより、戦闘によって自分たちとは関係ない一般市民に犠牲が出るとなれば寝覚めが悪くなる。
あまりにイラつきすぎて、一度スコッチを飲んでいる時に襲撃された時には、瓶をぶん投げて人形をブッ壊したことすらあった。念入りに踏み砕いて用を成さなくなるまで怒りをぶつけた。
少しは発散出来たが、大元を断たねばこの醜悪かつ面倒なウロボロスは永遠に続くことになるだろう。それに、あの性悪──死体を運用して弄ぶなんぞろくな手合いでは無いと半ば嫌悪を込めてそう呼び捨てている──のことだ。このまま膠着状態が続けば……生者を手当り次第に殺傷することで、”素材”を生み出そうとするかもしれない。いや、もしかしたらそれが既にもう行われているかもしれない。
それは止めなければならない。ゆえ、それをセブンスアームズに告げると、手を上げて歓迎するような仕草をしてそれに返す。
「へっ、あのメスブタ野郎は俺の……元上司を俺の目の前で殺しやがった恨みもあるからな。罪状は数え切れねぇ……そのターゲティングには同意するぜ。場所は……俺が探るし見つけてくる」
「俺も手伝う。さっさと殺さないと被害が広がるばかりなんでな」
「決まりだな、乾杯」
「乾杯」
カチン、と音を立ててグラスをかち合わせてランケはコーヒーを、セブンスアームズは頼んでいた酒を一気に飲み干して。
「店主、お勘定」
「あいよ」
こうして、本来は交わらないはずの二人の男の道筋は交差し、肩を並べて雑踏の喧騒の中へ、足を殺意と復讐心を漲らせながら踏み出したのだった。
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