第19話

「はぁ……我ながら随分派手にやったな……」

粉々。文字通り粉微塵となった人形の残骸に、ランケは溜息をつく。

──俺はまだ弱すぎる。そしてもう、強すぎる──

素人同然の格闘術、何とか当たりはするが、お粗末と言っても差支えのない銃の腕前、そしてそれに釣り合わない、無理やり制御している膂力。

「逆に言えばもっと強くなれる、ってことなんだろうが……どうやって?」

今であっても、人形一体なら倒せないほどではない。だが、もしこれが複数体なら?そして、守るべき者が後ろにいて、守り通せるか?不安は尽きることは無い。魔女の仕業とされる画像は、あの人形一体で引き起こせると思えないほどの惨状だった。魔女が全力を出した時、果たして切り抜けることができるのか、と。

「浮かない顔だね、お兄さん。今日は月がとても綺麗なのに」

かけられた声に振り向くと、数日ぶりに見る、幼げな中にも憂いを含んだ顔がランケを見上げていた。阿威だ。

「見てたのか?」

「助太刀してくれれば良かったのに、って?悪いけどあれを倒せないようじゃ足手まといだからね。思っていた以上に力押しだったけど、まあギリギリ合格ってとこかな」

「そうか。合格出来て何よりだ。ここに来たってことは……稽古をつけに来てくれたか?」

「僕も多忙だからね。とりあえずはこの人形の後始末をしに来たってとこかな。そのまま置いておくと周囲の気が乱れて良くないからね」

阿威は人形の残骸に近づくと懐から紋様の書かれた札を取り出し、手で印を結ぶ。

髪の焼けるような嫌な匂いと共に破片が燃え、消し炭になる。

「随分とオカルトだな……」

「お兄さんもね。にしてもわざわざ情報屋を使って僕らに連絡を取ってきたのは少しびっくりだったよ。内容も「稽古をつけて欲しい」だもんねえ」

「通信空手で強くなれるようなまともな肉体じゃないんでな」

「まぁ、その度胸に免じて……と言いたいところだけれど、さっきも言った通り、僕らは多忙でね。それこそ通信空手でもやってもらった方がいいと思うよ。」

「なら、俺もあんたたちの仕事を手伝おう。足手纏いにはならない程度だとは認めてくれているんだろ?」

「なるほど、そう来たか。こちらとしても助かる、けど……派手にやりすぎないようにしておくれよ」

「大丈夫だ……多分」

「期待してるよ。また連絡するから、これアドレス」

ランケは端末に送られたアドレスを登録し、阿威はビルの屋根に飛び移り去っていった。

「見て盗む、が出来りゃいいんだけどな……」

阿威の身のこなしや技を身につければ、ランケが現在抱える問題のひとつである素人同然の格闘術は少なくとも改善する。身につけられれば、の話ではあるが。

「魔女もいつ来るか分からないしな。そもそもなぜ俺を明確な殺意をもって殺しにくる?知り合いならまだしも、俺の顔を……なぜ俺の顔をみな知っている?もしかして俺は人気者なのか?サインの練習でもしておくか」

そんなわけあるか!と声がどこかからしたような気がするが、気の所為だろう。






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