第11話
「やあ、起こしちゃったかい?完成したよ。君のスーツだ、お気に召すかどうか」
と手渡されたスーツは真っ黒な素材と重量感のあるものだった。
「わざわざ君の着替えを凝視する趣味もないからね。私は色んなことの準備に戻るよ。端末で警察無線を傍受できるようにしておいたから、とりあえずはヒーローごっこ──いや、君の力なら本当のヒーローになってしまうかもね──がしたいならしてきたまえ。変質者になりたくなければリミッターは三十パーセントまでにしておきたまえよ。その服とて耐えられない。」
と、ヴィクターは部屋を出ていった。
「ケプラーか?いい素材を使ってくれているな」
服を脱ぎ、袖を通す。突っ張るような感じもなく、動きを邪魔することは無さそうだ。
ライダースジャケットのような真っ黒な上下と、装飾と言った感じの腰マント。髑髏の仮面と相まっていくらかヒーロー然としている。
「なかなかいいセンスしてるじゃないか、ヴィーちゃん──さて、ちょっくら人助けといってきますか」
下水道をつたい──匂いにも随分慣れてきた──倉庫から、バイクで国道を駆け抜ける。カーチェイスの逃走車に蹴りを1発くれてやり、燃え盛るビルから子供と犬を助け、通り魔の拳銃を引き伸ばし膨らましてプードルを作った後警察署の前に放り出し、自販機荒らしのバールでプードルを作りとしているうちにやがて日が登る。
「戻るか」
バイクの燃費もけして良いわけではない。燃料は十分にあるが、ヴィクターが根を詰めすぎていないかも心配だし、とヴィクターはハンドルを切り、来た道を戻り始める。
街頭のひび割れたモニターには、「【速報】奇妙なヒーロー?」の見出しが流れていた。
「なかなかいい働きをしたんじゃないか?」
満足気にエンジンを唸らせ、帰途に着くランケの姿をビルの上から見ている誰かがいるのに、上機嫌な彼が気がつくはずもなかった。
「
上裸に赤のネクタイとストライプのダブルスーツを羽織り、豊かな胸筋をさらけ出す紳士は、たっぷりとたくわえた白い口髭を弄びながら傍らにしゃがんだ少年に問う。
「倒すべき敵は一緒なんでしょう?大きくて、僕らふたりじゃ手に負えない、そんな敵」
「そうだね、この国といずれ切り離さなければ、腐り堕ちてしまう、そんな強大な敵とこれから私たちは戦うんだ。だからこそ──仲間は選ばねばならない」
「できるといいなぁ、僕と同じ、"生ける屍"の友達が。ねえ、│
「そうだねえ、友達になれたらお祝いをしなくてはね。何か欲しいものはあったかな?」
「いいの!?やったあ!僕ね、釣竿が欲しいな。軽くて丈夫なの!楽しみだなぁ。また会おうね、屍くん」
ビル風が朝の砂埃を舞いあげ──次の瞬間には、ビルの上から2人の姿は消えていた。
「おかえり、大活躍だったみたいだね。ヒーローくん。朝帰りとはなかなかやりおる」
帰ってきたランケにヴィクターは薄いコーヒー──挽きが甘かったらしい──を振る舞いながら茶化す。
「なかなか悪くなかったよ、ヒーローごっこも。それにこのスーツ。あれだけ酷使したのにほつれのひとつもない」
「そうだよ、私の自信作さ」
「アンリのだったんだろ、あのバイクも、秘密基地も」
ヴィクターの表情が少し強ばる。
「──君は本当に勘がいいね。」
「俺が死んだ翌日にしちゃ、準備が出来すぎていたからな。それにスーツだけ無いと来た。妙だと思わないほど俺はぼーっと生きてない。いや、もう死んでるか。いいのか?アンリのために用意したものを俺が使って。」
「いいんだ。生き返らせたのが君でよかったよ。君はヒーローが好きで、私のコーヒーを下手だって言って、私を損得混じりでも助けてくれて、私の前にあるもの全部ぶっ倒してくれる。アンリと一緒だ」
「俺は、あの子の代わりにはなれないぞ」
「いいさ、その方がいい。君は君だからね。疲れただろう、少し休んでおきな。煙の匂いもする。シャワーも浴びてきた方がいいね」
「そうだな、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「夜になったら、次の遊び場で遊んで来てもらうよ。次はもっと大きくて、きっと強い敵もいるはずさ。だけど──」
「ああ、ぶっ倒してくるよ」
「私も疲れたから寝るよ、おやすみ」
「おやすみ」
おやすみ、といい会う日常なんていつぶりだろうな、と思いながら、ランケは浴室に向かった。
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