第2話
「復讐だと?一体何に?」
己の命を救った──いや、厳密には救った訳では無いのだろうが──と嘯くヴィクターに、ランケはオウム返しのように問いかける。
現代に甦った人造の怪物、そのような伝奇物に出てきそうなフリークスに己を仕立て上げた理由、なるほど。復讐というのならばそれもまた良かろう。
妙な納得感を持ちつつも、しかしその僅かに口篭るような、どこか含みのある曖昧な物言いに僅かな疑念を抱く。
それゆえにランケはあえて問うたのだ。一体何に復讐を?と。
「何に、か。そりゃあ、気になるよね」
「当然だろ。殺し、とか”そういうこと”なら俺をこんな大仰なモンにする必要は無いんだ。アンタ──わかったわかった、ヴィーちゃん、が安物の銃でも握りしめて、クソッタレの誰かさんの所に乗り込んで、引き金をバン──それで万事方がつく。俺がやられたように。違うか?」
「違わないね。その通りだ」
ニコリ、といやらしげな笑みさえ浮かべながらヴィクターは、途中アンタと言われた瞬間に軽く睨んで訂正させたものの、ほとんどランケの言を肯定した。
末法の世の中だ。銃を入手するなど簡単で、裏道の万事屋なんかに軽く20ドルを握らせて頼めば、あれよあれよとトントン拍子に、小袋にでも梱包されたニューナンブ──警察からの横流しが多いというクソのような時代には嫌気がさす──が殺しに必要な数だけの銃弾とともに送られてくる。
だから、尚更分からない。自分をこんな始末にして、成し遂げようとしている”復讐”とは?
「うん、では詳細を語ろうじゃないか。シューくんを一方的に甦らせておいて、さらに復讐だなんて我ながら不義理極まりないとは思うけどね」
かけたまえ、とふらつくランケを一瞥し、手で机と椅子を指し示す。
本格的な会話は座ってしよう、ということらしい。手をかけて後ろに引けばと僅かに軋む音を立てながら椅子は思い通りに動いた。
未だふらつく体を椅子に沈みこませると、ギシッと音を立てる。チラリ、と窓の外を見ると未だに雨はやまない。
ランケがそうしたように、ヴィクターも椅子に座ろう、としたところで忘れ物を思い出したように、部屋の隅に安置された冷蔵庫と古びたシンクの方へ向かう。椅子が安物ですまないね──などと言いつつも、悪びれた様子など見せずに笑いながら。
「飲み物は?」
「……コーヒー、なければ水でいい」
「なるほど、消化器系や欲求は再生出来ているようで何よりだよ。少々待ちたまえ」
「……説明を早くして欲しいんだけどな、俺としては」
「なあに、時間はまだあるから」
鼻歌さえ歌いながら、ヴィクターが湯を沸かしにかかる。豆から挽くタイプということらしい。この時代では珍しいことだ。
その様子に嘆息しながら、ランケは待つことにした。時間なら確かに、あるのだから。
雨の音が響く。傷が僅かに疼いた気がした。
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