2-05
◆
遠くから呼ばれておぼろげに脳が覚醒した。って、寝てた? そっか。ゼクーくんの部屋に乱入したの夜中だったもんなぁ。ぷりぷりとソファーで怒りながらそのまま寝ちゃったんだ。
知らない声が低くなにかを話しかけてくる。思考がぼうっとした。あっ、これ夢のなかだな。水中にもぐったときみたいに声はくぐもってしまって、なにやら小難しい魔法の説明をしてるっぽいけどひとつもうまく聞き取れない。なぁに? なんて言ってるの? 初めてではなかった。繰り返し見てる夢だ。ああそうだ。毎回ここで不意に気がつくのだ。声は僕のために自殺の方法を教えてくれてる。しかもなるべく苦しまないやつをだ。
冷たいくらいに淡々としてるのに隠しきれない優しさが声に滲んで、あまりにあたたかくて、そして、かなしいほど真摯で、真摯すぎて、おもわず涙があふれた。生死は問わないからとにかく出口に行かせてよ。縋ったのは僕で、声は痛みに耐えかねたように時折揺らぎ、それでも感情を隠して淡々と続ける。死んでは駄目だ、とは言わない。やっても構わないし取りやめにしたっていい、どちらにしろ必ず助ける。いつだって誠実だった。何度も見た夢だ。お互いに、出るためには死しかないのを解ってた。僕にどれだけ魔法の知識があるのか確認しつつ、時間をかけてひとつひとつ丁寧に自殺方法を解説する。苦痛も恐怖も無い。眠るだけだから、と。
あのね。じつはさ、今回は僕死にたくないんだ。今回は、だけど。ありがとう。今日は起きることにするね。この恩は決して忘れない。助けてくれてありがとう。
「起きろ」
軽く揺さぶられた。
まどろみのなかに低い声が重なる。
「おい。起きろ」
たぶん夢だけでなく現実でも僕は泣いてる。
「……うー、おはようこの世、おはようゼクーくん……居眠りしちゃってた……」
――呟きながら重すぎる目を開けて、僕は目を疑った。暗闇だった。目をこすってみようとしたら右手が持ちあがらなかった。右手? 違う。なにも動かせない。首も腕も腹も脚もほかにも全身に拘束具をつけられ、何個も、何個も、何個も何個も何個も何個も何個も、指先まで一本ずつ椅子へがっちり固定されてる――。
――――――絶叫した。
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