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黄山国の農村で魔法による人体実験が行われていた事件について、現場で捜査にあたっていた魔法管理機構中央局所属の紅龍国人シュプール師五名が、昨日夕方、「反魔法主義団体」を名乗る三十数名の武装集団に襲われました。襲撃時の実際の映像です。
「…………」
僕たちは三人とも微笑みあってしばし、押し黙ってた。テレビが何処か遠くで起こってるどうでもいい事件を隔離室の沈黙へ垂れ流した。
――おいっ、何者だ、入ってくるな! 現在この研究所は機構が封鎖している――我々はし、し……不法侵入者へ警告する! 現場保存のため魔法管理機構の権限により施設内立ち入りおよび魔法使用を禁じ、即座に応じない場合は強制……ガハッ――我々はしん……ぐあああ! ――我々は、真実を世に知らしめる反魔法主義団体である! 現代社会は貴様ら機構が裏で世界を牛耳り千年以上の歴史を血に染め作りあげた、管理社会、人間の尊厳を踏みにじるディストピアだ!
「……………………」
三人とも、黙りこくってる。
――機構という暴君に操られ奪われていったいのち、希望、思想、愛、ほんものの、自由を、人生の選択肢を、我々反魔法主義団体が解放する――!
電源が入りっぱなしのテレビは観る者などいなくとも怒号の入り乱れた映像を健気に映し続ける。何故なら電源が入ってるからだ。プログラムされたとおりのことしかしない、それが、道具の役目だ。
僕は考え始めた。
――くっ……おいやめ……ガガガガ――人々よ、聞け! この人体実験は黄山国の兵士たちの犯行とされているが、事実は機構が世界各地に無数の研究所を隠し持っており、その一つが見つかったにすぎない――。
僕は、考えていた。
――目を覚ますのだ! 若い兵士たちへ濡れ衣を着せ、「捜査」という名目で機構は堂々と研究所の証拠隠滅に勤しんでいる! 我々はいのちに代えても未来ある若者の無実を証明し――。
僕は考え終えた。
「ロットーさん? 説明は終わりましたけれど、なにか分からないことはありますか?」
「ううん。分かりやすかった。マーフィさん、こちらから訊きたいことは特に無いよ」
「あー言い忘れていましたがあなたは金輪際、死ぬまで他人の名前を呼ぶことを禁止します。ふとした拍子に記名式魔法を使われたくありませんので」
「君、名乗ってないじゃん」
「魔術師のちからなんてわたしたちには予測不可能です。名乗りを受けずに記名式魔法を使わない保証が無いですよね」
「……」
僕が考えたことはこうだ。
十五年間閉じこめられてた暗い地下室で自分が〈検索〉しまくって吸収した膨大な知識は、すべて検閲官たちに情報操作されてる。今自分が「知ってるべきなのに知らない」不自然なことは二点だ。
一、僕はたぐいまれな圧倒的才能を持つはずなのに装置の〈カバー〉が読めない。検閲官が魔術師を装置で操るために、装置の構造について僕へ伏せてたんだ。
二、魔法分子が無い隔離室で、どうして装置が動いてるのかが分からない。魔術師でさえ魔法を発動できなかった空間だよ? このくだらないピアスは食事をしてない生物に対して引き続き生命維持機能を保ってる。
うん。
僕は考え抜いて決めたことを行動に移すことにした。
ろくにからだを動かしたことがない魔術師が機構の戦闘職員に素手でかなうはずがないと、彼らはおもってるんだろう。
はは。
ばーか。
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