03 風俗街を取り締まるゴブリン兄弟襲来!!(危険度★★)

 俺はユナにこう提案した。


「店の雰囲気を変えてみないか?」

「啓示さんもやっぱりそう思うよね。わたしも暗すぎるかな~って思ってたところ」


 現状、お店のコンセプトがホラー寄りすぎて“ホテル”って感じじゃないんだよな。これでは呪われた館でしかない。


 お客さんこそ、そこそこ来るけど……これでは経営も厳しそうだ。


「お金ないのか?」

「……維持費だけでほとんどお金が消えてる」

「それはまずいじゃないか。利益がないってことだよな」


「……うん。どうやったら稼げるのかな」


 つまり、困っていると。

 ここは社会経験だけは豊富な俺が知識を貸してやるしかないだろう。――とはいえ、会社を経営したことなんてないけど。

 が、幸い会社で営業を任されていた時期もあった。その経験を今活かすか。


 だが、こんな時に来客があった。



「邪魔するぜえ!!」

「ここがラブホテル『オリンポス』か!?」



 なんかゴブリンみたいなヤツが二人現れた。



「いらっしゃいませ。ご利用ですか」

「男、てめぇに用はねえ!! ユナ、お前に用があるんだよ!!」



 どうやらゴブリンは、ユナに用事があるようだ。って、またトラブルな予感。



「は、はい……なんでしょうか」

「なんでしょうか、じゃねぇよ!! 誰に断ってこんなホテルを経営しているんだ!!」

「ゆ、譲って貰ったんですけど」


「ダメに決まってるだろ!! いいか、この風俗街を取り締まっているのは、このゴブリン族のチンと……」

「この俺様、タマの二人なんだよ!! 無許可で営業は許さん!!」



 ――と、ゴブリンは名乗った。

 チンと……タマって……。


 俺は無表情のまま噴き出した。


「あぁん!? 男、てめぇ今笑ったな!!」

「……いえ、無表情ですが」


 俺はポーカーフェイスの達人だった。

 だが、ゴブリンは笑ったように見えたらしい。もう一度言うが、無表情だったのに。



「もう許さねえ、こんなクソホテル……こうしてやらァ!!」



 チンの方が口から火を噴いた。

 それが壁に燃え移り、一瞬にして炎上。火事となった。……やべえ!!



「ユナ、てめぇも燃やしてやる!!」



 今度はタマの方が火を噴く。

 そのゴブリンの外道な行動に俺はブチギレた。



「ユナに手を出すんじゃねえ!!」



 俺は拳を全力で振り上げ――チンのタマタマに金的を食らわせた。



「ぐふぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」



 ホテルの外へぶっ飛んでいくチンのヤツは、ごみ収集所へ激突して沈黙した。



「チンの兄貴ぃぃぃいい!! く、くそ……よくもやりやがったな!! こんな店、丸焦げにしてやる!!」


 俺はやられる前に、タマの首を一瞬で締め上げた。


「止めろ」

「……い、いつの間に!!」


「ユナを泣かせるようなことは止めろと言った」

「……は、はい。すみませんでした。私どもが間違っておりました!! ホテルは営業していいので、お命だけは!!!」


「本当だな。もし俺たちの邪魔をしたら……分かっているな?」


「ヒィィィ……! お助けをぉぉぉ」

「二度と近づくな」


 手を離すとタマを泣いて逃げ出して行った。ついでに白目を剥いて泡噴いているチンを回収していった。


 この世界では、サラリーマンは最強なのだ。


 舐めんなよ、ゴブリン。



「啓示さん、火が!!」

「そうだった。でもどうやって消火すればいいんだ!?」


 異世界に消火器とかないよな。

 となれば、大量の水だが……ん?


「って、そうだった! わたし、魔法が使えるんだった!」

「え、マジか!」

「火、水、風、地の魔法をそれぞれひとつだけ使えるよ!」


「よし、水を頼む」

「うん……!」


 なにか呪文を唱えるユナは、手から魔法陣を出した。


「……おぉ、なにか出た」


 驚いていると、ユナは魔法を叫んだ。



「ウォーターボール!!!」



 水の塊が飛び出て――壁を破壊しまくった。



「あああああああああああ!! ユナ、壁が壁が吹き飛んだ!!」

「ひえええええ! こんな威力だったなんて……」

「って、使ったことなかったんかいっ」



 ウォーターボールは予想外の威力だった。てか、これならあのゴブリンを余裕で撃破できるレベルだ。強すぎ!



【ウォーターボール】

【Lv.5】

 水属性魔法。

 強力な水玉を複数射出する。

 対象が火属性の場合、三倍のダメージを与える。



 なんか詳細も教えてもらった。

 なんだ、こういうのが見れるんだな。

 知らなかった。



 壁は大破したけど、鎮火できた。

 まあ、ホテルが全焼しなかっただけマシと言えるかな。



「どうしよう……直すお金がないよぅ」



 およよ、と泣き崩れるユナ。

 そんな滝のように泣くとは、よっぽど金がないらしい。それでよく今まで経営できていたな。



「おいおい、稼ぐ方法とかないのか」

「か、体を売るとか?」


「ダメだろ。女子高生が体売るな。てか、俺が許さん」

「……だよね。これはナシで」



 完全に行き詰っていると、異常を察知した誰かがすっとんできた。



「おい、ユナちゃん……大丈夫か!」

「あ、喫茶店の店長さん!」



 なんか巨体な筋肉親父が現れた。

 種族は人間だよな?



「って、ホテルがとんでもないことになっているじゃないか。この男が火を放ったのか!?」

「ち、違うよ。この人はわたしの兄みたいな人」


「おぉ……そうだったか、すまなかったな」


 と、店長という人は謝罪した。


「いえいえ、俺のことは気になさらず。ところで、貴方は?」

「オレはこの近くの喫茶店をやっとる店長だ」


 へえ、喫茶店の店長ねえ。

 それがこんな二メートル級のボディビルダーみたいなハゲ親父とは……迫力あるし、怖ぇ。



「そうでしたか。俺は啓示といいます。ユナの手伝いをしているんですよ」

「なるほどな。だが、ゴブリン兄弟が立ち退き命令を下したんじゃないか?」

「そうなんですよ。それで放火されて……でも撃退しました」

「ほう。あのチンタマ兄弟を? すげぇな、アンちゃん!」


「え、ええ……しかし、壁の修理が大変で。お金がないんです」

「あぁ、ユナちゃん言っていたんもんな。いつも赤字だって」


 ……へ。

 利益がないどころか、赤字なのかーい!!

 そりゃ厳しすぎるわけだよ。


「……あはは。啓示さん、そんな目でみないで! 仕方ないじゃん。あのゴブリン兄弟にお金を巻き上げられていたんだもん」


 そういう理由だったのか。

 どうやら、営業の許可がどうとかはユナから金を巻き上げる為の脅し文句だったようだ。


「それじゃ、これからは大丈夫だろ。用心棒の俺がヤツ等をぶっ倒すし」

「た、頼もしすぎー! やっぱり、啓示さんにお願いして良かったー!」

「ふははは! でもな、お金はどうしよう」


 困っていると、店長さんがこう言った。


「なら、バイトを紹介してやろうか。うちの喫茶店はクエストも紹介しているんだ」

「クエスト?」

「まあ、平たく言えば『仕事バイト』さ。例えば、この国には“スラム街”があるんだ。そこのチンピラを撃退したり、困っている人を助けたり……モンスターを討伐したりな。報酬はなかなかいいぞ」


 喫茶店の店長がそんなことをしているんだな。へえ。


「じゃあ、俺がやるよ。ユナはホテルを守ってくれ」

「……啓示さん、うん、分かった。帰りを待っているからね」

「ああ、クエストで稼いで直ぐ戻ってくる」


 手を振って別れ、俺は店長さんのお世話になることにした。

 クエストでお金を稼いでホテルの壁を修理しないとな。それと、ユナに楽させてやりたいし、がんばろう。

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