Track.7 【決定版 色とりどり おまじない 大全】略して『まじ全』
「それにしても、このまじ全スゴイな……あれ?」
心なしか、本のタイトルが薄くなっている気がする。
ほどんど見えない【色とりどり】では判別できなかったが、【大全】の文字がほっそりしている。
「鋼始郎、気がついたか。このまじ全は、使用するたびに文字が薄れていく。本に込められている魔力がなくなると、この本は真っ白な本に変わる……と、後書きに書かれていた」
「後書き!」
最後のページに使用上の注意が書かれているのはよくあることだけど、摩訶不思議本もそうだったのか。
「いつそこまで読みこんだ、商一」
「鋼始郎がゲロ吐いて寝たとき」
別世界のこととはいえ、友人守曜丙の怪死を知ってしまったあの時か。
ショックが強すぎて起きたら次の日の朝……つまり今日まで、十八時間も寝ちゃったよ……。
起きたとき、朝の五時だったのは驚いた。
それから、高速道路を走って、くろのみ町まで移動だ。
現在十五時。緊張感が薄れたからか、おやつが欲しくなってきた。
でも、まだ話の途中だから我慢だ、我慢。
商一の話が終わって一区切りついたら、食欲を優先しよう。
それまでは、知識欲に集中、集中。
「本物ならメリットだけじゃないと思ってね。全体的に一読した。あ、目次と後書きは頭に叩き込むつもりで読みこんだよ」
やはり、本は最後まで読まないと。
時間がなくても、最後のページはチェックしないとダメだね。
「おまじないの内容によっては消費する本の魔力量が違うらしいけど……無駄遣いは出来ない」
奏鳴さんから借りた、まじ全もそうなのかな?
別物だと思っていたら、同じ本である可能性も出てきたよ。
本の魔力がなくなれば、真っ白な本になるってことは確定事項だから、魔力を何らかの方法で補充すれば、まじ全は使い続けられそうだけど……。
「ちなみに、詳しいことは省くけど、現状ボクたちに出来そうな、この本に魔力を補充する方法は『寿命を削る』だ」
「リスクもちゃんとあったね!」
思った以上にリスキーだった。
「でも、一度おまじないを発動させれば、所定の方法で効果を継続させられる、おまじないもあるからな」
「使いどころがいいのか悪いのか……」
俺は黒く染まる盛り塩を見つつ、商一が発案した無駄遣いはしない方針に納得した。
「それじゃ、塩を買い足さないといけないね」
祖母は買い物リストに塩と書き込む。
一応、合鍵を持つ親戚のおじさんが定期的に見に来ては、入り浸っているようで、家の中の食材は豊富な方だ。
レトルト、インスタント、缶詰などの保存食はもちろんのこと、常温で日持ちするものは大概置いてある。
……物置に鎮座している酒の種類や量が多いのは、完全におじさんの好みだな。
あと、台所に見覚えのない電源の入っていない小型冷蔵庫は、おそらくおじさんの持ち物だ。おじさん、冷えたビールも好きだけど、趣味に料理があるからな。
そのおかげか、封を開けていない塩が一キロもあった。【カゴの魔除け】は当面持ちそうだ。
だけど、念には念を入れよっていう言葉もあるし、呪いの和綴じ本をお焚き上げするまで、塩は絶やさないほうがいいだろう。
……十キロぐらい買ってもいいかな。
使いきれなくても、塩だから、おすそ分けできるし。最悪保管することになっても大丈夫だ。例え、消費するのに、年単位必要でも!
「あと、スーパーに買いに行くとしても、今日の夕飯ぶんだけでよさそうだね」
朝から家に帰るまで高速道路で運転していた祖母なのだが、買い物ドライブは別物なのか、心なしか楽しそうである。
「まぁ、買い物については、おやつを食べて一休みしてからでも、十分間に合うね。ささ、お食べ」
祖母はタイミングをちゃんと見計らっていたらしく、俺たちをリビングに誘う。
テーブルの上に、行きの途中に寄ったパーキングエリアで買った、メロンパンが出してくる。
値段はお高めだったこともあってか、大変美味しい。
「うまうま」
「うん、これはうまいな」
舌鼓を打ちながらペロリと食す、俺たち。
男子中学生のお腹に優しく溶け込む、高カロリーお菓子。
頭の体操もしたので、この糖分が丁度いい。
「よかった。よかった」
祖母は同じくパーキングエリアで買ってきた夏限定の和菓子を食べている。
メロンパン一つ食べきるのは、祖母の胃袋的にきついらしい。
あと、単純に見栄え。
寒天ゼリーの中を泳ぐ金魚型の餡はかわいい。
ガラスコップに入った麦茶と相まって、見ているだけでも風情があって、涼しさを感じさせる。
絵になるからと、食べる前に写真も撮ったぜ。
トパーズ世界から一緒に来てしまったスマホでな。
通信機能は一切使えないが、写真機能は使えたよ。
よかった。
そんな、まったりモグモグタイムが終わるころには、時計の針は十六時に傾いていた。
そろそろ、夕飯やその他もろもろを買いに行ったほうがいいだろう。
「あ、買い物どうする? ばぁちゃんは車の運転があるから絶対として、俺か商一は黄魁縁起を読んだほうがいいだろう」
小学生の時はギブアップしたけど、あれから成長したのだ。
概要ぐらいは読み取れる。
「それなら、ボクが読むよ。ボクは全く土地勘がないから、少しでも知識を入れておきたい」
「あ、それもそうか……」
土地勘のある俺は外を出歩いて、トパーズ世界とペリドット世界とでの、くろのみ町やその周辺の相違点を追求していったほうが後々役に立つかもしれないな。
「適材適所は大切だからね。あ、かつ丼があったら、お願いします、照乃ばぁちゃん」
「はいはい、商ちゃんはかつ丼ね」
なかったら、とんかつってことだな、商一。
とにかく揚げ物か。
男子中学生らしい食欲だ。
舞生が今も苦しんでいるというのに、よく食欲があるなって思う人もいるだろうが、怪異に立ち向かうには、体力がないといけない。。
現に小学校の卒業日に白い手に怪異空間に引き込まれたときなんか、朝食をちゃんと食べていてよかったと思っている。
五体のゾンビを蹴散らした二宮金次郎に至っては、不思議パワーありきの暴力がものを言った。
やはり、力。
物事には、力で押し通さないといけない場面が多いのだよ。
重要な力を維持するためにも、健康第一。体には健全な食生活を送らせなければいけない。
長丁場になることも考えて、食べれるうちは食べておかないと、体力が持たないから。
むしろ、ストレスを感じて暴食に走っていないか確認したほうがいいか?
商一が食べる量は、この一日、俺が知っている限り、通常よりも多いところもあるし。
しかし、様子を見たのは一日だけ。今日は長距離移動で疲れているから、多めにとっているだけの可能性もある。これだけの情報じゃ判断材料としては不足しているな。
今は深く考えずに、美味しいものを食べて、出来る限り明日の準備をしたほうがいいか。
俺は祖母の運転する車に揺られて、くろのみ町唯一のスーパーへと向かった。
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