第13話 トイレ~考え事をするのにふさわしい場所かと言えば悩むところだが、今の俺たちにはココしかなかった~
トイレ。
敷地面積的には狭いところで探索が楽な場所なのだが、怪異スポットとしては定番中の定番。
普段ならとにかく、こんな怪異空間に閉じ込められてしまった今、例えおまるを使用することになったとしても、近寄りたくない、避けたい場所。
だが、ソレは助けが来る場合であって、自力脱出が前提だったら、情報収集のため調査は必要不可欠である。
「問題は女子トイレから入るか、男子トイレから入るか……だよな、曜丙」
分断は却下だ。
こんなところで一人行動するのは、ほぼ自殺行為だからな。
トイレにまつわる怪談は死亡率が高すぎる。
「と、いうよりも、まずはドアを開けて確認してからでいいんじゃないか。三行文章とお面が個室にあるなら深く探らないといけないけど」
まずは様子見ってことだな、曜丙。
「とりあえず、僕は女子トイレの方を見てみる。男子トイレは鋼始郎に任せた」
俺が返事をする前に、曜丙はドアを開け、足を廊下に置いたまま、胴体だけをくぐらせ、観察しだす。
「あ……まぁ、いっか」
女子トイレを覗きたいわけじゃないし。
むしろ、俺が嫌がることを率先してやってくれる曜丙の男気に惚れそうだよ。
(曜丙の言葉に甘えたんだ。なら、なおさらちゃんと見ないとな)
俺は曜丙に言われるまま男子トイレを覗く出す。
うちの学校は和式と洋式のトイレがある。
和洋両方のトイレトレーニングができる上に、暖房便座ではないのが珍しくなってきたこのご時世では、水洗とはいえ骨とう品みたいなトイレだ。
ここ数十年改装予定が全くなかった、廃校寸前の小学校らしいと言えば、そこまでだが。
「……お面は確認できなかったけど、男子トイレに三行文章があるよ、曜丙」
「そっか。なら、そっちに入るか」
お面も気になるが、まずは三行文章だと、俺たちは男子トイレに入った。
『速やかに異端者どもは排除すべきだ』
『手心を加えようなどと思うな』
『老婆の願いを絶対無駄にするな』
殺すことに全く躊躇するなということなのか?
お面だから、手心を加えるなんて生易しいことなんか考えたことなかったけどな。
断末魔に辟易している以外は、たじろぐ理由がないってぐらい、俺たちはスムーズに歌い、殺してきた気がする。
老婆の願いというところには、ランドセルの中の祖母の遺影を思い起こした。生前祖母は、俺に生きていて欲しい的なことを事あるごとに言い聞かせていたな。
「今回のは、怒りや恐怖を感じるモノじゃないけど、わざわざ文章にして警告しなくてもいいじゃないかって思うものだな」
連続発生している怪異に精神がマヒしているだけなのかもしれないけど。
「う~ん……だからこそ、僕たちは慎重に考えないといけないかもしれないね。このまま無事脱出できるか、怪しいし」
曜丙の言う通りだ。
このままトイレで儀式を行ってゴールできるとは思えなかった。
「そうだな。黒い豚のお面も見つけたことだし、シンキングタイムといくか」
男子トイレに入ったことでわかったことなのだが、予想通り黒い豚のお面はあった。
手前から三番目の個室トイレの中で、縄で吊られていた。
ブランブランと振り子時計のように揺れるソレを確認すると、俺たちはドアを閉じた。
不気味なものを長く見続けるのは、精神に優しくないからな。
お面に対する悪い予感や連想も、なぞ解きの方に集中したいので、思考をストップさせている。
「手に入れたのは、スケルトンリコーダーとこの楽譜だね」
この二点は笛を吹かなければならなかった都合上、曜丙が持ち続けていた。
「墓に灯る火の玉については、直接的なヒントがない分、今は置いておいて、問題なのは、この各教室に書かれていた、三行の文章だな」
曜丙の自由帳にデカデカと書かれた、五つの三行文章。
音楽室
『こたび異界へと誘われた不運なるもの』
『残りの生をココで燃やし尽くすがいい』
『せいぜい頑張ってください』
放送室
『やみぢに迷ふ獣どもはお前らを見ていた』
『豚どもには過ぎたる羨望であり愚行だ』
『理性を失いし憐れな獣たちを殺害せよ』
教室(6-1)
『学校は混沌に支配されている
『苦しみ悶えるしかないだろう』
『不条理に嘆け、喚け、絶望しろ』
保健室
『格好が悪くても、足掻くのか?』
『祈れ、祈れ、祈れ、祈れ、間抜けども』
『でたらめに、淡い希望にすがって、悪化させろ』
最後にココ(男子トイレ)
『速やかに異端者どもは排除すべきだ』
『手心を加えようなどと思うな』
『老婆の願いを絶対無駄にするな』
合計、三×五の十五行。
「改めて読むと、何を考えてこんな文章にしたのか……気になるな」
迷い込んでしまった者たちへの警告文にしては、ひどい煽り。
恐怖心を与える怪文としては、微妙。
でも、このとっつきにくさは、既視感がある。
でも、何だったか……思い出せない。
「う~ん……情報は揃っていると思うんだけどな……」
このままじゃ頭が煮詰まってしまうのではないかと思った時だった。
「……文章をスマホで撮ったけどさ、もしかしたら、この楽譜とリコーダーにも何かあるんじゃないかな」
曜丙のこの一言で、光明が見えた。
俺は早速、楽譜の表と裏、リコーダーと、計三枚を撮影した。
「リコーダーには何もなかったけど……」
楽譜の方には、変化があった。
といっても、裏の、鵜と田が描かれているほうだ。
「あ、た、ま、使……なんで、四文字?」
それぞれ、青、赤、黄色、白の文字で、絵の上に浮かび上がるように書かれていた。
「もしかして、お面と連動しているのかな。そうなると、あっちの黒い豚のお面を殺したら、五番目の文字が出てくるとか」
「あ~なるほど。そのアイデアいただきだよ、曜丙。なら、最後は黒文字で、おそらく『え』だな」
これで、『あたま使え』という、無理のない文章になる。
これはもう、完璧に謎を解けってことですね、わかりました。
ホラーゲームではよくあることなので、別段不思議に思うことはないのだが、リアルでされると、なんだろう……納得はできるけど、わかりたくない気もする。
でも、時には妥協も必要。
不条理を感じても、必要ならば、とっとと解くしかないだろうよ、という精神で挑むしかない。
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