第3話 男友達 守曜丙
──それから、また数分。
見慣れている、のどかな田園風景を眺めながら、混音市を流れる黄魁川を渡ろうと時だろうか。
「あ、鋼始郎じゃん」
黄魁橋の下から自分の名を呼ぶ声がする。
なお、黄魁橋の由来は、黄魁神社に行くために、黄魁川の上をまたぐように造られた橋だからだと言う。
安直なネーミングである。
「……
俺たち仲良し三人組の最後の一人、
少しくたびれたTシャツにハーフパンツと、多少汚れてもいいようなラフな格好で、薄汚れた段ボールの真ん前に立っている。
「なんだ、その段ボール? 曜丙のか?」
「いや、僕のじゃないよ。僕もさっき見つけてさ……」
曜丙の手が段ボールを閉じているガムテープへと伸びる。
まだ張り付けてからそんなに時間が経っていないのか、粘着力が弱いのか、ガムテープはあっさりと剥がれている。
「そう、こいつはこの河原で捨ててあったものだ」
不法投棄か。
ゴミ集積場に出すのが億劫だったのか。それとも、近所の人々に捨てている姿をみられると困るモノか。
「曜丙、中身、見たか?」
「これからだよ、鋼始郎。いやぁ、ドキドキするよな。こんなところに捨てられているモノって言ったら……ムフフフフフ~♪」
いやらしい顔になるのは、期待しているから。
そう、俺たちはこの段ボールの中いっぱいに、思春期少年の夢とロマンという名の、エロ本やエロDVDが詰まっていることを期待しているのだ。
いやぁ~こんな田舎町だとさぁ、こんな大量にエロの秘宝をご近所の目があるところで捨てたら、変なウワサが流れちゃうからなぁ。
人の目が届きにくい、こういう場所に捨てたくなるものさ。
そして、好奇心旺盛な、俺たちのような少年に拾われるわけ。
お年頃の俺たちなら、ちゃんと有効活用するからな。
そうなれば、不法投棄から、リサイクルへ格上げだよ。
モノによってはお宝にまで昇格しちまうかも。
地球に優しいなぁ。
ムフフのフ~♪
俺と鋼始郎はにやける顔を隠すことなく、段ボールをご開帳。
「さて、何が出るかなぁ~♪」
なお、俺の好みはエッチなお姉さんとエロいお兄さんのムフフな展開である。
さぁ、人体の神秘を教えてくれ!
「……これは、ご近所の方々に見られたくないな」
中身を見て、俺は思わず死んだ目になった。
確かに、部類的には神秘だな。ただし、俺が求める人体ではなく、ホラーや超常現象のほうだ。
段ボールいっぱいの心霊写真集やら、ディホルメも萌え化もされていない、純粋にて不気味な幽霊や妖怪に関する資料や図解雑学の数々。
「一冊だけでも奇異な目で見られるのに、段ボールいっぱい……」
オカルトが趣味でも、ここまで集めるか?
今の俺には理解に苦しむ量と質だ。
俺はそんな目にするだけで鳥肌が立つ者たちから、目をそらすため、回れ右して、ガクガクブルブルと震えるしかできなかった。
「そうだな」
一方、曜丙は無駄に好奇心旺盛だったようだ。
ガサゴソと音を立てて、段ボールの中身を入念に調査している。
「あ、黄魁縁起もあるぞ、鋼始郎」
「ん~。地元愛かな?」
黄魁縁起とは、ざっくり説明すると、黄魁神社に祀られている黄魁について書かれたハードカバーである。
旧くろのみ町はもちろん、この混音市や近郊の至る公共施設に置かれていて、うちの学校の図書室にも例外なく、本棚に同じ本が数冊鎮座している。
「まぁ、内容だけなら、郷土資料というよりホラーに近い気もしないでもないか」
「そんなに怖い話だったの?」
黄魁縁起という本があるのは知っているけど、お堅い本なので、俺は噛り付いたこともなかった。
「鋼始郎は読んだことなかったのか……」
曜丙はあからさまに眉間にしわを寄せ、信じられないものを見る目で俺を見つめる。
「いやいやいや、いくら地元愛にあふれていても、この手の本を読むのは大変じゃん。文字ばかりで、意味わからなかったし」
正直、序のところを読んだだけでギブアップしたよ。
「そう言われると、確かに格式張った難しい本だからな」
平々凡々なお子様に、イラストなしの民俗学資料を読み解けというほうが無理である。
「郷土資料として調べていたのかな、付箋がたくさんついてるし……」
曜丙は段ボールの中から黄魁縁起を取り出し、パラパラとめくり始める。
「ああ、これこれ。やっぱり、注目していたか。くろのみ町、キゴミのわらべ唄」
「あ~、あの怖い歌……黄魁縁起にあったの?」
祖母が歌ってくれたことがあったなぁ。
暑い日のことだった。冷涼感を得るため、くろのみ町では古くから伝わっているという、怪談話。いや、歌か。
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