SNSホラー

シモルカー

裏アカ


 ――裏アカは、消せばいい。


 スマホ画面を見て、彼女は大きく舌打ちをした。

「くっそ、また炎上かよ」

 1秒ごとに増える通知。

 自分の投稿画面には咎めるようなコメントが並ぶ。


『言い過ぎだと思います』『何こいつ?キモw』『女の嫉妬こわw』


 ――私、悪くないのに!

 そう彼女は思った。

 ムカつく女がいたから、少し「注意」してやった。

 そうしたら、その女以外の相手から「誹謗中傷」をされた。

 たったそれだけのことだ。

 ――まるで私が悪いみたいじゃない。

 きっと私を知らない人は、私を嫌いな人達が流した嘘によって、私が悪い奴だと思う。

「あー、本当に気持ち悪い……なんなの、こいつら。ブスにブスって言って何が悪いの。事実なんだから、しょうがないじゃない」

 それが彼女の認識だが――

「ブスのくせにモデルなんてやってんじゃねえよ。私の方が可愛いし、スタイルだっていいのに……どうせ親のコネだろ。あー、どいつも、こいつも、本当に気持ち悪い」

 止まらない通知を見た後、彼女は観念したように息を吐いた。

「ま、いっか。どうせ裏アカだし……消そう」

 彼女はスマホを操作し、「アカウント削除」を選択する。

 今までも、何度もそうやってきたから、彼女からしたら慣れた行為である。

 悪口や愚痴だけを投稿するために作った、普段使っているアカウントとは別のもの。

 だから消した所で、何の影響もない。

 メールアドレスさえあればアカウントは簡単に作れる。

 彼女はたった一人だが、ネット上にあるアカウントは裏を含めて二桁を越している。

 だから、使えなくなったら消せばいい。

 ――大体、私の事ばっか悪く言うけど、みんなやっている事じゃない。

 ――正義ぶって、本当に気持ち悪い。

 このままいくと、明日あたりに専用のまとめページが出てきて、「私を悪者にしたい奴ら」のせいで、いわれのない中傷を受けてしまう。

「私の方が被害者なのに、ムカつく。ま、いっか……じゃあ、皆さんサヨーナラ……あれ? 何これ」

 今まで何度もアカウントを削除してきたが、その画面は初めて見るものだった。


『アカウントを削除しますが、本当によろしいですか?

 「はい」を選んだ場合、全ての履歴が削除され、あなたの存在は抹消されます』


「は? 抹消? 今までこんなの出た事ないけど……更新して、セキュリティが強化されたのかな?」

 彼女は少し考えた後、はいをタップした。

「まあ、このアプリ、海外産だし。ちょっと翻訳おかしいだけ……か……あ、れ……」

 微かな違和感を消すように、呟いた後――異変は訪れた。

「な、に……こ、れ……なんだよ、これえ!!」

 彼女は自分の手を見て、叫び――

「何で、消えて……いやああああああああああ」


 ボトン、と一台のスマホが床に転がる。


『アカウントを削除しました――

 〇〇県●●市在住、――の存在を、削除しました。

 ――の過去を、削除しました。――の将来を、削除しました。

 ――の痕跡を、削除しました。――を……削除……』


 最後に、泡が弾けて消えるように、残されたスマホもまた消滅した。

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SNSホラー シモルカー @simotuki30

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