第二話

 ラシルフの指定した空域は、大陸のほぼ中心部に励起している山脈の真上だった。

 本来であれば<サギリ>は衛星軌道付近まで高度を上げて待機する手筈だが、那須大佐は戦隊機を支援するためとして、大陸南端の成層圏付近で待機するよう神室少佐に計画を修正させた。そのため、限度はあるが必要とあらば<サギリ>が装備するレーザー砲の支援砲撃を受けることもできた。

 <サギリ>は戦隊機を見守る以上のことはできない。だがそれでも飛行計画を変更させたのは、那須大佐の親心というものだろう、とミズカゼは考えていた。なにしろ、彼自身は自覚していないようだが、部下や船に対する責任感はかなりのものである。そしてそうした心理作用は経験や規則ではなく為人に深く根差したものだ。要するに軍人向きではなく、街角のパン屋でも経営するのに適したお人好しといったところであるが、だからこそ三人のルーフェや神室応助などといった、一癖も二癖もあるようなメンバーを統率できているのだといえる。

 天候はかなり荒れており、三機は高高空を飛行しながら眼下できのこ雲のように立ち上がっている巨大な積乱雲を眺めていた。視界はほぼどす黒い雲で占められ、ラシルフ大陸の姿を見ることはできない。精々、積乱雲の周辺から沿岸部がちらりと見えるくらいだ。目印が何もない状態でも航法において自位置を見失わずに飛行できるのは<サギリ>と死角が生じないよう投入された準天頂衛星群による支援があるからだ。

 このように複合的な要因が重なってこその第二〇一飛行戦隊なのだが、ラシルフとやらは人間と機械、そしてルーフェという絡み合った人類社会を理解できたのだろうか。それはあるまい、とミズカゼは高度なフライ・バイ・ライト技術により小動こゆるぎもしない座席に座りながら考える。人間、ルーフェ、そして機械を単体で理解することはあっても、それらを下地として上位概念として形成される社会という形態は不確定要素の連続だ。声帯の仕組みを理解して声を出す生き物であることはわかっても、そこから飛び出す言語には文化や歴史といった、遺伝子情報だけでは測れない情報がなければ分析できない。エウーリアスが我々を本当の意味で理解することは極めて困難だろう。

「まだ考え事か、ミズカゼ?」

 機内有線で唐突に声を掛けられ、ミズカゼは埋没した思考の中から急浮上した。少し驚いていたので、感情を読むこともなく翠へ返事をする。

「はい。エウーリアス……ラシルフと我々について考えていました」

「そうだろうな。否が応でも考えずにはいられない。もしよければ、お前の考えを聞かせてくれないか」

「いつものあなたなら、任務に集中しろと一喝なさると思いますが、何の気まぐれですか?」

「言っただろ、考えずにはいられないんだ。これから待ち受ける状況を予測する手助けになるかもしれない。それに、この空の中ならまた新しい視点で議論ができそうだ。そうじゃないか?」

 それから、ミズカゼと翠は三十分ほど話し込んだ。先ほどまで考えていたことを翠に伝えると、彼は、それは早合点だと窘めた。二人とも目はキャノピの外へ向け、ミズカゼは接近する敵意がないかを警戒しながら。

「おれの予測だと、ラシルフはおれたちが思っている以上に、我々を理解していると思う」

「なぜでしょうか?」

「少し統計学に片足を突っ込むが、ラシルフはおれたちの社会全体を理解する必要はない。対象に選ぶのは<サギリ>だけでいいんだ。母数集団を絞るってことだな。第二〇一飛行戦隊の行動原理を理解できたのなら、第二開拓艦隊司令部からの命令なんてのは、主体に対する刺激に過ぎない」

 翠の言わんとする所を理解し、ミズカゼは頷いた。互いの顔は見えていないのだが。

「ラシルフにとっては我々の反応こそが重要で、刺激の原因や意図は二の次ということですね」

「うん。ただ、まったくの無関係とも言えないから無視はできないだろう。それでも、人類社会全体を理解するよりははるかに楽な仕事だ」

「では、ラシルフは我々を理解できたから前代未聞の行動に打って出たのでしょうか。第二開拓艦隊司令部からの命令が引き金になったとわたしは考えていますが」

「同感だ」

 軽く相槌を打ちながらも、翠にはもう少し進んだ考えがあった。艦隊司令部からの命令をラシルフが解読したことが起因であるが、それにより<サギリ>がエウーリアスを離れることが根本原因に違いない。確信に近いものを抱きながら、翠は頭の中でヒタキの体を使い対話を行ったラシルフと思しき女性人格を思い出していた。

 ミズカゼにはそれがわかった。彼女には翠が心を閉ざしていくのが手に取るように感ぜられたのだ。

「着陸しろ、と言った」

「なんです?」

「ラシルフが大陸に繁茂した地球化テラフォーミング用植物の地下茎とそれが構成する広大な神経網に宿る知性だというのなら、着陸ってのはどういう意味を持つんだろうと思ってな」

 その一言がミズカゼの思考を刺激した。

「少なくとも、ラシルフにとっての<サギリ>が地上というのは短絡的でしょう。いうなれば彼女の一部になるということでは?」

「どうだろうな。未知のことだから例えようもないが……人間でいえば自分の体に小鳥が留まるようなものか?」

「物理的にはそうかもしれませんが——機長!」

「どうした。報告しろ」

「いえ、これは……」

 あまりの出来事になんと言っていいのかわからない。不信に感じた翠はHMDの片隅にミズカゼの姿をワイプ表示し、その目線が右下方で固定されていると見るや圧力感応式の操縦桿サイドスティックを捻り機体を右に九十度ロールさせた。

 よりはっきりと見えるようになった光景に、翠ですら喉に言葉が詰まってしまう。

 積乱雲は相変わらず下方視界を占有しているが、長い時間をかけて飛行しているので雲には切れ間が見えている。その隙間を縫うようにして、鳥類を思わせるシルエットの何かが燕のように素早く飛び交っていた。

 敵意が向けられていないから気付かなかったが、それはメタファだった。見慣れた鳥類を思わせる形状は見間違えようもない。<ミズカゼ>が突然、機体姿勢を変えたのに気付いた<アダナミ>、<ユキシロ>の両機も同じように機体をロールさせ、同じ光景を目の当たりにしている。

 そう、メタファがメタファを攻撃しているのだ。

「<ユキシロ>より<ミズカゼ>、あれはいったい何ですか」

「ありのままを述べるなら、メタファ同士が交戦しているように思える。ミズカゼ、あれはメタファだよな?」

「聞くまでもないぜ。アダナミがあれはメタファだと言っている。くそ、どういうことだ。ラシルフはおれたちにこれを見せたかったのか」

「落ち着け、まだおれたちが攻撃されたわけじゃない。<ユキシロ>、状況を<サギリ>へ報告しろ。実況中継だ。<アダナミ>、<ユキシロ>の掩護のため留まれ。本機はもう少し接近して情報収集する」

「大丈夫かよ、翠。見たところ、三十機は入り乱れて巴戦をしてるぞ。それにあの動き、戦闘機でどうにかなる相手なのか」

 珍しく弱気なことを言う甘木少尉の言葉を翠は茶化すことができない。彼の言う通り、いま下方で戦闘中のメタファの動きは鋭く、侮りがたかった。

「参戦はしない。もし攻撃されても速力で振り切れるだろう」

 ミズカゼにはそれが、翠が恐れ慄く自分自身を叱咤しているように聞こえた。事実、この異常な状況に翠はそれなりの恐怖と緊張を覚えているようだが、そんな機微は感じさせないほど完璧な機体操作でさらにロールを加えると、梯形隊形の先頭から右下方へと緩やかに加速しつつ旋回を始めた。その場に留まって編隊を維持している<ユキシロ>が怯えるように<アダナミ>へ少し近付く。

 メタファの群れは積乱雲の狭い切れ目をいっぱいに使って格闘戦を繰り広げている。翠は無暗に接近するような愚は冒さず、視認できるかどうかぎりぎりの位置へ占位すると緩やかに右旋回して大きな円を描くコースへ<ミズカゼ>をのせた。

 飛び回るメタファは俊敏で、いつどちらが襲いかかってくるのかわかったものではない。複数の機体があらゆる方向へ機首を向けているものだから、少し目を離せば飛び出してきた敵機に瞬く間に距離を詰められてしまう。しかも見た限り、ミズカゼの記憶にあるよりも動きが鋭い。翠や甘木少尉の感覚は正しい。より攻撃的だといえばいいか。肌身で感じてきたメタファの敵意にはまだ上があったのだ。

 より正確にメタファの位置を感じ取れるミズカゼの鋭い視力が、ある機影を捉える。

「機長。あのメタファ、少し形状が異なります」

「どんな感じだ?」

「何とも言えませんが……電動カートの一件を覚えているでしょう。あの直後に<ユキシロ>を攻撃した新型と思しき個体がいくつか見えます」

「数は?」

「新型四、旧型七。他、見慣れない個体がひとつ。新型が他の八機を襲っている模様」

「となると、勢力を見分けることはできそうだな」

「勢力とおっしゃいましたか?」

「他にどう表現する。おれには二つの異なる勢力がメタファを繰り出して航空優勢の確保を図っているようにしか見えん」

 それは人間の感覚だ、とミズカゼは内心で反論したが、他に説明のしようがなかった。遂に惑星エウーリアスに芽生えた知性は分岐し勢力間の抗争を行うまでに発展したのか。結論を急ぐべきではないが、翠の言う通りこの状況を説明できる仮説が他に考えられない。

 言葉の力に引きずられてはならない。ミズカゼは頭を振って感覚を研ぎ澄ます。

 新型と旧型のメタファへ意識を向けると、敵意が感じられたがそれは三機のゲンチョウを対象としたものではないようだ。これまで肌に突き刺さるように鋭い気配を何度も味わってきたが、現在は特にそうした不快感は無い。遠くで燃え盛る炎を見て、熱そうだ、と想像し汗をかくような、そんな感覚である。

 ふと、この状況は作られたものだと気付く。まったく唐突にそう思いついたのはひらめきとしか言いようがない。

「機長、撤退を進言します」

「なぜだ」

 否定したいのではなく純粋に疑問に思いそう問い返した翠の好奇心にミズカゼは答える。

「ラシルフの指定した空域で、この特殊な状況に遭遇しました。彼女が見せたいものはこれです」

「なるほど。くそ、そういうことか。ラシルフはエウーリアスに存在する他の勢力と闘争関係にあるんだ。そこにおれたちを巻き込もうとしているに違いない。少なくとも、奴に有利なようおれたちを無害化する算段だろう」

「では、逃げましょう」

「そういうことだ。<アダナミ>、<ユキシロ>、緊急通報。即座に<サギリ>へ帰投する」

了解コピー

こちらも了解ツー

 機首を翻し<ミズカゼ>が上昇する。と、旧型のメタファの一機がふわりと舞い上がり追従する動きを見せた。しかし加速を開始するまでもなく、隙を見せた途端に横から新型に追突され、四散。旧型のほうがラシルフなのか。そう思えば未だにこの状況で彼女が接触してこないのは大きな不安要素だ。彼女にはこの事態に対処するだけで手一杯なように見える。

 妙な話ではあるが、ゲンチョウ三機しか実働兵力として持たない第二〇一飛行戦隊にとってラシルフが協力的な勢力として存在しうるのであれば、非常に心強い存在となる。少なくとも意思探査任務中に遭遇した数十機のメタファによる奇襲などいくつかの状況において頼りになるかもしれない。

 最大に近い危機感をあおる通報で有無を言わさずに僚機へ退避指示を出した。翠が下した判断の正しさを身を以て知る。とにかくここから離脱することが肝要だ。<サギリ>は<ユキシロ>からの報告で最低限の状況を掴んではいるだろうが、六人のパイロットの持つ情報は計り知れない価値がある。

 三機が合流し矢じり型の隊形を取る。三人の機長は<サギリ>より送信されてきた帰投コースに合わせ編隊を乱すことなく加速を続け、程なくして音速を超えた超音速巡航スーパークルーズに入った。翠は二機に指示を下し、スクラムジェットエンジンのエアインテークを開放。狭められた隊形から徐々に間隔を開いていき、それぞれが百メートルほど距離を取って高高空を目指す。

 だが、その先を敵は許さなかった。

「感あり。直下から六機」

散開ブレイク

 命令一過、三機はそれぞれ別方向へ機首を逸らす。高速度のため僅かな軌道変更で凄まじい加速度が身体にかかる。意識が保たれるぎりぎりを操縦桿の感触から探りつつ、左右下方へ逃れた<アダナミ>、<ユキシロ>から離れようと加速しつつやや上昇し、次いで降下した。

 瞬きにも満たない時間、敵機と交錯する。間近を上方へ突き抜けていったメタファの形状は旧型のようだった。

「機長、ラシルフより通信」

「繋げ」

 急激な回避機動の中でようやく返事をすると、ヘルメットの中でくるくると回転し入り乱れるHMDの高度、方向情報などを突き抜けて女の声が響く。

「翠、久しぶりね」

「悠長に話してられるか、くそったれ。こいつらはお前が操っているのか?」

「いいえ」

「だったら墜とす。<アダナミ>、<ユキシロ>、応戦しろ。交戦開始エンゲイジ

 インメルマンターン。機体が水平に戻った一瞬、二機のゲンチョウは既に攻撃態勢に入っている。それぞれ二機ずつのメタファに後背の占位を許しているが、巧みにシザースやバレルロールを繰り返して軌道を交錯させた。

 ユキシロとアダナミは互いを狙う敵機をロックオン。半思念誘導方式SATHのAAMー2を発射。ほぼ同じ軌道かつ真正面から交錯した僚機は大きくそれぞれの進行方向に対し右へバンクしたため衝突することはなかったが、背後から追いかけてきた旧型のメタファにとっては回避な至難の業だった。ゲンチョウは敵味方識別装置IFFによる位置情報をHMDに表示し機長が正確に互いの位置を知ることができるが、メタファにはそのようなものが備わっていると確認されたことはない。

 急激な回避運動でも躱しきれず、二機が正面衝突し大音響と共に砕け散り、あらゆる事象は音よりも早く後方へ流れていく。難を逃れた残りの二機が<ミズカゼ>の機尾へ食らいつく。

 素早くHOTAS概念の取り入れられた操縦桿のボタンを押し込み、誘導弾のエンジン点火タイミングをレリーズ五秒後に設定。レリーズボタンを押し込み機内ハードポイントから細長い弾体が四発、投下された。

 <ミズカゼ>はほぼ水平に機首を保ち、加速を続ける。既に音速の三倍に迫りつつあり、メタファは事も無げに大推力を発揮して追従する。無推進状態で放たれた誘導弾は空気抵抗で減速し瞬く間に<ミズカゼ>と二機のメタファに追い越されるも、最後方からエンジンに点火、加速。瞳を閉じ意識を集中させたミズカゼの誘導は精確無比で、空対空誘導弾は攻撃に気付き回避機動を取ろうとした二機をの後方から槍を突き刺すように撃墜。

「このまま離脱する。まとまらなくていい、回収地点へ向かえ」

「待って、翠。話がしたいのよ」

「できる状況ではない。通信でもなんでもいいから後にしろ」

「わたしがを守ればいいの?」

がこんな命懸けの行動を取らなくてもいいのならばそうしてくれるとありがたい」

 たっぷりと皮肉を込めて言い返すと、ラシルフは僅かな間を挟んでから、言った。

「わかったわ」





「何が起こっている」

 <サギリ>艦長、那須大智大佐が艦橋で問いかけた。薄暗い室内の正面に貼り付けられた大きなディスプレイに映るラシルフ大陸とその周辺を含んだ大縮尺の空域図に重ねて投影されている戦況を睨みつけたまま微動だにせず、問いかけにどう答えるべきかと回答を練った。

 しかし気付く。事態は極めて流動的だ。いかなる結末を迎えようとも今は見守るしかない。返事はするが、それは軍人としての義務から行った返答であり、プロフェッショナルとしての職責ではなかった。

「要少尉が、ラシルフと接触しました。それを別勢力が妨害しようとしています。あるいは、別勢力とラシルフは一種の競争状態にあって、そこへ第二〇三飛行戦隊が出くわしたのかも」

「要少尉とミズカゼが話していたように、そうすることがラシルフの目的だとも考えられる。わたしの見解を言うとだな、少佐。ラシルフはエウーリアスにおける他勢力と内紛状態にあり、人類の支援を得ようと企図しているようにしか見えんよ。そして進行している事態を見るに、明らかにあの三機は敵対勢力として認識されている」

「その意味では、後で如何様にも挽回できます。我々にはルーフェがありますから、エウーリアスの他勢力との意思疎通も可能であるはずです。あるいはそのほうが目的が明確化して好都合かもしれない。もっとも、ラシルフが意思疎通相手として最有力であるのは認めますが」

「艦長、間もなく減速が完了します」

 副長が報告し、二人の視線はディスプレイに戻った。この間にも<サギリ>は回収空域へ向けて減速しながら高度を下げ続けている。ランデブー時間は三十分。三機を回収するには短くもなければ長くもない時間。つまり何かが起きれば最悪の事態にも発展する可能性は大きい。

「全艦、対空戦闘用意」

 那須艦長が命ずると、艦橋に緊張が走る。これまで幾度となくメタファとの戦闘を経験してきたが、三人のパイロットとルーフェが矢面に立ち、<サギリ>本船は後方支援を行うのみだった。メタファによる直接攻撃を受けたのは、あの電動カートの一件で攻撃を仕掛けてきた新型メタファがほとんど唯一であり、それでさえ<サギリ>の艤装されたレーザー砲が火を噴いたことは無い。レーダーに映らないメタファを攻撃するには可視光で直接視認し、照準するしかないが、交戦距離が十数キロも離れれば命中率は格段に落ちる。大気圏内ではエネルギー減衰も激しい。

 諸刃の剣であることは否めないが、現実問題として三機のゲンチョウを支援する手段が他にない。神室少佐はひどい無力感を感じたが、那須大佐はそうではないようだ。てきぱきと<サギリ>の各セクションへ命令を飛ばし、初めてとは思えないほど手際よく戦闘態勢を整えた。

 ディスプレイを注視しているしかない神室少佐をちらりと見ると、那須大佐は副長にFCSと接続された光学センサーの冷却を開始しろと命じてから、言う。

「無駄な努力だと思うかね、神室少佐? しかしこれが我々の戦いなのだ」

「しかし、我々は、この星に対話を求めてやってきた」

意思探査任務マインドシーキングミッションにおける武力行使については、わたしとて断腸の思いだ。しかしここであの六人を失うわけにはいかない。第二〇三飛行戦隊は人類の宝だ。何が何でも生還させねばならないし、そのためにこそ<サギリ>はある」

「……御見それしました、艦長。わたしが間違っていました」

 短く朗らかに笑うと、那須大佐は飛行管制ブースのディスプレイを指さした。

「君は間違っていない、少佐。わたしもようやく、この任務についてプロらしく振舞えるようになったが、君ほどの人材は二人といない。さあ、彼らを迎えにいこうではないか。わたしはこの船を操る、何か軌道変更その他の支援が必要であればすぐに言ってくれ」

 神室少佐は頷き、きっちりと挙手敬礼。答礼を待たずに踵を返して飛行管制ブースへと向かった。

(だが、実際のところ<サギリ>が失われても意味がない。全員が生き残る術を考えなければならない)

 そしてそのために必要な情報は致命的なまでに不足している。大きなディスプレイテーブルに両手をついて井戸の底を見るように覗き込みながら、神室少佐は再び状況が大きく動いたことを知った。

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