八、「朝練」

 麻結から河原さんと行人がクラスメイトだったということを聞いたオレは、その報告に驚くとともに、行人の傍に河原さんがいることに安心した。河原さんはときどき口調に棘はあるものの、面倒見の良い人だとオレは思っている。今までも麻結の『クロウ』探し―正体はオレだったわけだが―を手伝ったり、初対面時のこともあったが、なんだかんだ言いつつ有紀とも対等に付き合っていたりと、人のために動ける人だと思う。行人を気にかけていたクラスメイトの女子が河原さんだったら話は早いと思ってしまうが、そう偶然は重ならないだろう。

オレも何かできることはないかと悶々と考えているうちにあっという間に一週間が過ぎ、また土曜日が巡ってきた。学校の帰りに麻結と二人して有紀に話しかけた感覚では、有紀も行人に対して当たりたくはないらしい。しかし、最初があの調子だったため素直になれないようだ。誰かが間に入れればいいのだろうか。どうやって二人をつなぐのか。いい案が浮かばないと悩むオレのもとに、晴香さんからメッセージが入った。


はるか「行人にスマホ持たせた。連絡先いるか?」


 若干こういったものに慣れていないように感じるメッセージに「ぜひ」と返信をすると、しばらくして行人のIDが送られてきた。すぐにトモダチ登録し、メッセージを投げてみる。


『高宮悠一です。登録よろしく』


 メッセージを飛ばしてすぐに返信が送られてきた。


雪十「登録したよ」

雪十「スタンプ」


 無料のスタンプが飛んできた。見慣れたサムズアップのスタンプ。それにしても登録名が「雪十」とはどう読むのか。「ユキ」は確定だとして、本名に則ると残りは「ト」だけれど、字体の関係で漢数字の「十」なのか数式記号の「+」か分かりにくい。漢数字の「十」なら「トウ」から「ト」と読もうと思えば読める。数式記号の「+」なら「○○と〇〇」という意味で「ト」と読ませるのかもしれない。もはやどちらでもいいのか。

 そもそも本名をもじって「雪」を使っている辺り双子らしいと言える。行人が合わせたのか偶然かは定かではないが、合わせたのでなければ中身が似通っている証拠かもしれない。

 スマートフォンの画面を見ながらそんなくだらないことを考えていると、グループトークに招待するという仕事が残っていることに気が付いた。有紀には悪いが、独断で動かせてもらった。


『ちょっといいか?』

『四人のグループトークがあるんだけど、入る?』


 行人が乗ってくれるかは分からない。河原さんと麻結に関しては勝手に動いたことは怒られるかもしれないが、善は急げだ。少し間が開いてから、行人からの返事は来た。


雪十「お願いしていい?」


 行人にグループトーク『鳥の巣』の招待を送るとすぐさま招待を受けてくれた。これで五人まとめて連絡が取れる。まとめて?

 何か浮かびそうな気がする。オレが発想の芽を掴もうとしている間に、グループトークが進んでいく。


雪十「改めてよろしく」

ナオ「よろしくー」

広瀬麻結「よろしくね」

ナオ「招待した奴が無反応じゃん」

ナオ「アホ?」

雪十「ちょ、ひどww」

ナオ「ええーホントのことじゃん」

広瀬麻結「行人君、文字だと少しテンション高いね」

雪十「そう?」

広瀬麻結「うん」

ナオ「あたしもそう思う」

雪十「無意識だなあ」

ナオ「まじか」

広瀬麻結「五人で話せる機会があるといいな」

ナオ「確かに」

ナオ「学校違うと難しいけどね」

広瀬麻結「そうね」

雪十「部活もあるしね」

雪十「ボクは入ってないけど」

雪十「運動部だと朝練あって放課後もとか、ボクには無理だあ」


 行人のメッセージで掴み切れなかったものを完全に掴むことができた。いや、頭の中に光が差し込んだ感覚というのが正しいか。


『そうだ、朝練だ!』

ナオ「は?」

雪十「??」

広瀬麻結「どういうこと?」

『学校は別だけど現状最寄り駅が同じわけだし、駅近くの公園か何かに朝集まって話すのはどう?』

『もちろん無理のない範囲で』


 河原さんは部活があるし、麻結は茉実ちゃんのこともあり、朝はかなり忙しいだろう。だから無理にとは言わない。目的は家以外の場所で双子二人と誰かがいる空間を作ることだ。最悪オレ一人でもいれば事足りる。

 出来るなら行人が慣れている河原さんがいてくれると心強いが、無理は言うまい。

 先ほどまで騒がしかった通知がぴたりと止まる。各々が画面の向こうで考えているのだろう。まずい提案をしてしまっただろうかと思っていると、マナーモードにしたままのスマートフォンが震えた。点けてみる。


雪「ええよ、そうしよ」


 今まで何も反応を返さなかった有紀がオレの提案に一番に手を挙げた。どういう心境の変化なのかは分からない。しかし、その後残りのメンバーからも賛成を貰い、月曜日に試しをすることになった。言い出した手前、いい方向に転がるように祈るばかりだった。

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