第12話「君」と私の願い

(君の部活でのバンド結成から三週間…。

 あっという間だね…、もうライブの日。早いなあ…。

 この部屋でもいっぱい練習したよね~)


「…上手くいきそう?」


「――」


「ふんふん…、リズムのキメの部分がどうしてもズレる、と…。

 それなら…慣れるまでは、お客さんの方見なくていいから…、メンバー同士で目を合わせてみれば…?

 アイコンタクトでかなり改善するよ。お試しあれ~。

 お客さんに向けてのパフォーマンスはリズムが合ってからのほうがいいかもね…」


「――」


「えっ…?私の方を向いてプレイしたい!?…そ、そうなんだ…。

 嬉しいけどさ…、やっぱり演奏面を重視した方がいいんじゃ…?」


「――」


「なになに…?ずっと私の方を見てたい…?

 え、演奏中はダメだよっ!お客さんみんなが聞いてくれてるんだから…。ねっ?

 …き、君が私を意識してくれてるのは…素直に、幸せだなって、感じるけど…、

 ライブは…私たち二人だけのものじゃないと思うんだ…。

 演奏する側と聴く側のみんなで作る共同作品、なんじゃないかな?

 だから、会場の隅々まで見渡して…そこにいる誰もが楽しめるように…全力を尽くす…。

 そうしたら自然と最高のライブになると思うよっ!」


「――」


「ん…?冗談だよ…?心配しないで?…なんだ…びっくりした…。

 で、でも…ほんとは…私だけ見つめて演奏してくれても…その…、こほん…な、なんでもないっ…。

 さ、さあ…そろそろ準備した方がいいよっ!ライブ開始はお昼過ぎでしょ?」




 学校に到着。体育館脇の校舎にある控室へ。


(新入生バンドお披露目ライブ…かあ。なるほどね…。君の出番は…、

 ええっ!?トリ…なの?うわ~、めっちゃプレッシャー…)


「ねえ…、緊張とかしてる…?ねえねえ…、って…寝てるっ!?」


(や、やばっ…。声大きすぎたっ…!?

 …はあ…よかった…。体育館の音が漏れてきてて助かった…。

 今の私は君の持ち物ならどこにでも入れるからね…。

 今日はギターケースにお邪魔して、君に付いて来たんだけど…、小さな声でも話しやすいシャツとかにしておくべきだったかも…。

 それより大丈夫かな?本番前に寝ちゃうって…。大物なのか…なんなのか…)


「――」


「あっ…。起きたね…、よかったあ~。ギターのチューニングして…、メンバーも来たみたいだから打ち合わせ…か…。

 そうそう…、リラックスして…平常心、平常心…だよ?」


 うなずき、控室から通路に出る君。


(一人で取り残されると不安だよっ…。早く戻ってくれないかなあ…)


「うわあ!」


(きゅ、急に持ち上げないでよっ!あ~首が変になるかと思った…。

 私…邪魔になるから、棚の上に運ばれたのね…。

 ん…?ガラス窓から通路が見える…。

 え…?あれ、恵理那えりな美咲みさき萌乃もえの…?どうして…こんなところに?)


「おーいっ…久しぶり~」


(思わず呼びかけちゃったけど…、気づくわけないか…。

 そうだよね…。私は今…、ただのギターケースなんだもん…。

 それにしても何か月ぶりだろう…?みんな元気そうで良かったよ…。

 バンドは続けてるんだよね?

 私の代わりのメンバーはちゃんと入ってくれたのかな…?

 ああ…、ここから出たいなあ…。みんなのところに行きたい…。

 あの頃みたいに…スタジオで一生懸命練習して、未来を語り合って…。

 もちろん下らない話もして…。

 でも…私って…あの子たちには、どう思われてたんだろう?

 私は…苦しかった時…、あの子たちに…本当のことを言えなかった…。

 強がって…、突っぱねて…、私だって出来るはずだ、って意地を張った。

 自分の弱さを全然見せていなかった…。

 そんなので本当に仲間だっていえるの…?)


「――」


「はっ…!あっ、君…、もう打ち合わせはいいのっ?」


「――」


「そっかあ~。準備万端だねっ!

 じゃあ、オーディエンス席に、私を運んでくれるかなっ?」


「――」


「ええっ!?…ケースじゃなくて、君が弾くギターの中にいて欲しい!?」

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