第2話「君」の部屋で

「へえ~っ、ここが君の部屋かあ~。

 ねえねえ…えっちな本とかあるんでしょ…、どこどこっ?

 ふふっ…うそうそ、冗談だよ…。そんなに焦らないで…」


(おーっ!CDいっぱい…。キレイに並べてるね~)


「なるほど…やっぱり、好きなものは配信じゃなくて、CDで持っておきたい…ってことかな?」


 肯定の後、君は一枚のCDを再生した。


「これが…おすすめってこと?分かった、じっくり聞いてみるね」


 CDの演奏に合わせてギターを奏でる君。


「あっ…今のところは、こうじゃない?多分スライドで…うわっ!」


(ええっ!?ギターから抜け出せてるっ!?

 び、びっくりしたっ…!ふ、服着てるよね!?私…。

 はあ~。良かったあ~。制服着てる…。

 ギターの中にいると、自分の身体って見えなかったからね…)


 後ずさり、腰を抜かしそうな君。


「ご、ごめん…。驚かせちゃったね…。

 でも、これで一緒に練習出来そうだよ。このギター借りるね?」


 部屋の隅にあったもう一本のギターを手にする私。


「ほら…こんな感じだと思うんだけど…どうかなあ?」


 首肯、そして拍手。


「えっ?そ、そんなに上手かったかなあ…私?

 …いやあ~、それほどでも~あはは…」




「ところで、まだ自己紹介もしてなかったよね?

 私は波根花憐…高校二年生、だった…の。先週までは、ね。

 信号無視の車にはねられて…死んじゃって…それで…」


 沈痛な面持ちの君。


「しばらくは真っ暗な海の中を泳いでる感じで…。

 目を開けても何も見えなかったの…。

 どうしようもないから…もうあきらめて眠り続けてた…。

 それがさっきふと目を開けたら、よく通ってた楽器屋さんのお店の中だったの…。 

 そして私があの店に売っちゃったギターの中に自分がいて…」


 君は不思議そうな顔をしながらも真剣に話を聞いてくれている。


「最初は大好きだったんだ…そのギター。

 音楽が好きで…ギターが好きで…、バンドを組んで…どんどん練習して、どんどん上手くなって…いくはずだった…。でも、そうはならなかったの…」


 ペットボトルのお茶を勧めてくれる君。


「ありがと…。うん、おいしい…。お茶なんて飲むの何日ぶりだろう…。

 ごめんね…気を遣わせるわ…暗い話するわで…。

 はあ…私って本当にダメ。ダメだなあ…」


 君は、そんなことないと首を振っている。


「早い話…向いてなくてね…。バンドでも他の子はどんどん上手くなって…、私は完全に取り残されちゃった…。音感もリズム感も、いつだって人並み以下だった…」


 そんなことない、と言ってくれる君。


「もちろん、楽器始めたての人に比べれば上手いのかもしれないけど、ね…」


 私は雰囲気を変えたくて、パンキッシュなリフを奏でた。

 コンコン…。ノックの音…。


(家族の人かな?やばいっ…隠れなきゃ。

 うわっ…ドア開けられちゃった…。どうしよう…)


「妹さん?…うう…私は、その…彼の…ええっ!?」


(ギターの中に戻ってる~!私の姿は…見えてないみたいだね…。助かった…。

 でも、窮屈なんだよ…ここ。自分で自分の身体も見えなくなるし…。

 あっ…今…お兄ちゃん、って呼んでたね…。)


「静かにしておこう…。あっ…やば…。声、出しちゃった…」


 妹が、私の声を不審に思って部屋を見まわしている。


(…私の声は…誰にでも聞こえてるってことだね…。気を付けないといけないなっ。

そして、姿は…君以外の誰かが来るとギターに戻される…。そういうことかな?)

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