第8話

 辰虎は警察時代から、キリスト教の告解という教えには反吐が出る思いであった。罪を犯した人間が、自分の気持ちが楽になる為に罪の告白をする。そこにその罪によって哀しんだ人間に対する贖罪の意味は薄い。被害者より先に加害者が楽になるなどもってのほかだと。

 しかし、こうして目の前で自分の犯した罪を告白する幸子の顔に、少しづつ生気が宿るのを見ると、辰虎は告解も悪くないと考えていた。

 幸子はクスリ欲しさに、あの空き地でこの集落の男たちに身体を売っていたことを告白した。

 彼女は環境を変え、子供たちのためにも正しく生きていくと誓ったが、辰虎は人間の弱さを知っていたし、先ほど靴を脱ぐときに見せた彼女の様子は、まだ闇に引きずり込まれたままの人間のものだった。

「今話したことをお子さんと一緒に警察に言って話すことですな」

「子」と聞いて、再び幸子の表情は強張った。

「子供たちは何も知らないんです! それに私は誰も傷つけていないんですよ! なんで警察なんかに!」

 辰虎にとっては聞き飽きた言葉だった。誰も傷つけていない。誰に迷惑かけたわけでもない。だからといって、自分自身を傷つけてもいいというわけにはいかない。

「いいえ。あなたは自分の子供たちを傷つけたんですよ。空き家とはいえ放火するなんて大罪を犯すほどに追い込んでね」

 幸子は信じられないという顔で目を見開き、テーブルを叩いて抗議した。

 その口を突いて出てくる言葉は滅茶苦茶で、もはや要領を得なくなっていた。

 辰虎は胸が苦しかった。こういう闇を見るのが嫌でここに来たのに。この国はどこまでも間違い続けていくのだろうか。無性に亡き妻のことが恋しくなっていた。

 その夜、集落の家から再び炎が上がった。

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